第7話 罠って理不尽なものだもの

 俺はトレジャーハンターの橘 尹尹コレタダ

 おばちゃんのようなおっさんの妨害も潜り抜け、ついにお宝眠る宝物庫に辿り着いたぜ。


「うん。まぁ……知ってたけどな」

 だって鍵も掛かってなかったし。

 宝物庫はからっぽ。誰かに荒らされた後だった。

「え~、なんにもないじゃ~ん。あ、なんか残ってる」


 不貞腐れたイチカが、床に落ちてる宝の残骸を手に取る。

 小さなインゴットだろうか、金ではあるが見た事のない形だ。

「持ってった奴等は遺跡や歴史には興味なかったようだな。見た事ない形だが、金のインゴットだろう。新発見だぞ?」

 何かの動物だろうか、手のひらサイズのイモリのような、四本の脚があるように見える金の彫像だった。これは歴史的大発見ではなかろうか。


「え~、インゴットってもっとデカイんじゃないのぉ? ちっちゃいし、形も可愛くない。こんなのに価値ないでしょ」

 イチカは世紀の大発見を投げ捨てる。

「ばっ、あぁ~」

 俺は慌てて飛びつくが、宝物庫から飛び出たソレは、跳ねて床の穴に消えてしまう。女装したおっさんと一緒に、金のインゴットも闇の中だ。


「お前の言ってるのは延べ棒だろう。インゴットは重さの基準になる塊だ。学校ではかりってあったろ? アレに乗せる分銅っておもりみたいなもんがインゴットだ」

「へー」

 興味なさそうだな。

 お宝は持ち出されていても、この遺跡の価値はとんでもないものだ。

 見た事もないものばかりの大発見だぞ。

 この宝物庫も、じっくり調べてみたい。

 だが、そんなささやかな望みさえも叶いはしない。


「ただにぃ。あれなに……」

「なんだろうなぁ。何か食べるかな」

 それは、おっさんの落ちた穴から出て来た。

 バッサバッサと音を立て、大きな翼ではばたいて。


 それはそれは可愛らしいアメリカンショートヘアー。

 綺麗な毛並みで愛らしい猫。

 ……顔だけは。

 体はヒヒか何か、大きな猿で猛禽類の大きな翼が生えていた。


 何かと聞かれても、答えようがない。

 不思議な生き物が目の前に現れた。

「フッー……フギャアアア!」

 何やらお怒りのご様子。

 餌付けは無理っぽいな。俺が餌になりそうだ。

尹尹イチカ! 逃げるぞぉ」

 振り向くと既にイチカはいなかった。

 ひどい。


 宝物庫の奥に穴があり、螺旋階段が下へ続いていた。

 選択の余地もなく飛び込み、螺旋を駆け巡る。

「ただにぃ。早く早く」

「まてっ、待てって」

 飛び降りるような勢いでイチカを追って駆け降りる。


「ミィヤァアア」

 ネコだか猿だかは、体が大きすぎるようだ。

 穴の入口に引っ掛かっていた。

 ガリガリと壁を引っ搔いているが、中には入れないようだ。

 しかし、こちらも戻れはしない。

 仕方なく下まで螺旋階段を降りていくしかない。


 階段を降りると、石造りの通路になっていた。

 もう照明がないので、ランタンを点ける。

「まだ降りるのかぁ」

 通路は下りになっているようだ。

 階段から出ると右側は行き止まりの壁で、左方向へ通路が続いていた。


「大分降りて来てない? これ登るのダルいぃ」

 勝手について来たくせに、イチカがぐずりだした。

 まったく、いつ迄経っても子供なんだからなぁ。

 まぁ他に道もないし、どうしようもなく道を下り始める。


 突如後ろでガゴッと嫌な音がする。

「まさかなぁ~……」

 振り返ると突き当りの壁が開いていく。

 その向こうには、通路一杯の大きな球体が見えた。

「マジかよ! イチカ……おぉう」


 当然の様にイチカは既に全力で駆け出していた。

 俺も必死に駆け出す。

 後ろで重く、硬そうな玉が動き出す。

 斜面を転がり始める大玉。

「無理! 無理だろ、くっそぉ!」


 どう考えても転がる大玉の方が速いだろぉ。

 なんだこの罠!

 理不尽すぎる!


「ただにぃ! あそこぉ」

「飛び込めぇ!」

 前方の両側の壁に窪みが見える。

 暗くてはっきりとしないが、人一人は入れそうな窪みに見える。

 イチカが左側の窪みに飛び込む。

 それを見て、俺も右側の窪みに飛び込んだ。


 窪みは浅く、すぐ目の前が壁だった。

 飛び込みながら、空中で向きを変える。

 背中から壁に突っ込む。

 その目の前を、大玉が転がっていった。

 ギリギリ、ほんの僅かな差だった。


 向かい側のイチカも無事のようだ。

 そのイチカがスッと上へ上がっていく。

 イチカが驚きに目を見張る。

 手を伸ばそうとするが間に合わない。


「ただにぃ!」

 叫んで手を伸ばそうとするイチカが見える。

 ひどくスローに見える中、間違いに気付いた。


「こっちかぁ」

 俺の飛び込んだ足元には、床も何もなかった。

 イチカが上がっていたんじゃない。

 俺が落ちていたんだ。

 当然下は真っ暗な闇だった。

 何も見えはしない。

 これはどうにもならないかなぁ。

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