第4話 地下には夢と浪漫が埋まってる

 久しぶりの本業が入った俺は橘 尹尹これただ、トレジャーハンターだ。

 危険な仕事だが、結局ついて来た柚木 尹尹いちか、姉、尹尹これちかの娘で俺の乱暴な姪だ。

 今回の遺跡調査の依頼人である井関の腹心っぽい男、井口の案内で尹尹いちかと二人、熊が出るとかいう山の中から、リフトで地下へ降りていく。

 これでも東京都、猿や猪に熊も出るという最後の村に来ていた。


 ここへ来る前に、井関と敵対しているのか、邪魔をしたいらしい組織のボスを名乗る女に会った。と、いうか待ち伏せされていただけだが。


「盗掘屋の橘ね……私はマサキよ」

 30代だろうか、40いっているかもしれないが脚の綺麗な、妙に色気のある女だ。

 短いスカートの白いスーツで、胸迄ある濡れたような黒髪に、少しキツそうな目だが、スタイルも良いおばちゃんだ。

「トレジャーハンターだけどな」


「まぁ、いいわ。井関ではなく、こちらにつきなさい。あいつは悪い奴でね、あの遺跡を奴に渡す訳にはいかないのよ。手を貸してくれるわよね」

 何か……なんだろう?

 何か違和感があるが、何がひっかかるのか分からない。

「残念だけどねぇ、別に正義の味方って訳でもないんでね」


「そう……まぁ、いいわ。どっちにしても奴には渡さないわ」

 語尾に『わ』なんてつける女が実在したのか。……初めて出会った。

 何がしたかったのか、それだけで女は去って行った。

 味方にならないなら命を貰う。とかいう展開かと思ったが、襲われずに見逃して貰えた。本当に何しに来たのだろう。


 大分深く潜ったようだが、広いドーム状の部屋でリフトは止まる。

「ふわぁ~……でっか……」

 イチカがあきれる程広い部屋だが、大きな石をくり抜いたような、継ぎ目のない石壁の不自然な部屋だった。

 何の部屋なのか出入口は二つ、北と南に穴がある。

 どちらも既に調査済みのようで、照明もあり明るくなっていた。


「取り敢えずこちらへ」

 井口氏の案内で北側のトンネルのような廊下を進む。

「ふわぁ……ひゃあ~……すっごいねぇ」

 イチカは初めての遺跡に圧倒されているようで、キョロキョロしながらついて来る。まぁ、イチカでなくともこれは溜息しか出ない。


「こんな遺跡、見た事もないな。石造りなのに継ぎ目が、どこにも見当たらない。どうやって、誰が、何故造ったのか。これは大発見だぞ」

 プロのトレジャーハンターである俺でも、これには興奮を隠せない。

 暫く進むと、石棺一つだけの部屋で行き止まりになる。

「玄室? ここは墳墓だったのか?」


「ひっ……ただにぃ……」

 そこに眠る遺体を見たイチカが息をのむ。

 井口は余計な情報を与えない為か、じっと黙って様子を見ている。

「これは珍しい。こんな所にもあったのか」

 遺体は3mはありそうな巨人のミイラだった。

 その額には角の様な突起があった。


「ただにぃ知ってるの? これ……作り物でしょ?」

「いや、どうだろうな。古代の王の墓なのかもな」

「は? だって、角生えてるよ? こんな巨人居ないでしょ、鬼じゃん!」

 流石に少し怖がっているのか、イチカは偽物の作り物だと思い込もうとしているようだが、これだけって訳でもないしな。

「頭蓋骨と癒着して一体化した、王冠の突起の一部だろう。古代には3m近い人類も居たらしいぞ。昔の日本人はデカかったのか、デカイから王になったのか」


 玄室の奥の壁に、何か書いてあるようだ。

 崩れかけている石棺と比べ、少し年代が新しい気がする。

「誰かが発掘済みなのか? でも聞いた事もないな……こんな大発見を未発表のままなんて事あるか? でも、こっちは大分新しいな」

 壁の一部を削って彫られた文字を、一文字ずつなぞり、解読していく。

 崩れてきてかすれてるな。


「八雲立つ……出雲……八重垣妻ごみに……これって……」

「何? 何なの? やっぱり人じゃないの?」

「人ではないかもなぁ。日本最古の和歌だぞ、知らないか?」

「和歌? 五七五って奴?」

「そうか、知らないんだな。あめつちのはじめのとき、たかまのはらになりませるかみのみなは……で始まる8世紀始めの歴史書に載っている、最古の和歌だ」


「8世紀……日本書紀……だっけ?」

「惜しいな、古事記だ。和歌の作者は素戔嗚尊スサノオノミコト(須佐之男命)、神様だな」

「神……って、これ……神様なの?」

「どうだろうな。神様のミイラなんて興奮しちゃうよな」

 誰がこの歌を彫ったのか、このミイラは誰なのか。

 ワクワクが止まらないな!


「それについては謎のままですが、この遺跡には宝物庫があったようなのです。探して欲しいのはその場所です。もう、ご存じのように何組も先へ進みましたが、誰も戻ってきません。この地下の何処かに黄金が眠っていると、宝物庫の記述が見つかっています。それを見つけて下さい」

 黄金を埋めるなら、遺体と共に埋めるものじゃないのか?

 使うまで仕舞って置くのが宝物庫であって、埋めてしまっては意味がないし、墓に造るものではないだろう。


 墳墓に宝物庫なんて、意味がわからないな。

 ここは王の墓では、ないのかもしれない。

 そうなると、このミイラは何なのか……。

「お任せあれ。その依頼、承りました」


 遺体と宝物室といえばピラミッドだが、それとは別に王の墓が、最近みつかってしまい、ピラミッドは墓ではなかった事になった。

 何のための建造物なのか、謎が広がるロマンな建造物だ。


 此処も何の為のものなのか。

 一体何時の、何の遺跡なのか。

 わくわくが止まらないな!

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