第39話 義兄妹は再び二人暮らしは終わらない?

 昼ご飯を取った後、家族会議をするためにテレビ周辺のソファに集まった。


「それでさっきの話は一体どういうことなんだ?」


「言った通りの意味よ。陵矢と莉緒ちゃんが二人暮らしをするのよ」


「どうして二人暮らしをする必要があるんだ?」


 当然のことだが、俺は母親に問いかける。

 この一ヶ月間で俺と莉緒は十分に仲良くなれたし、互いを恋愛対象としても再確認がすること出来た。これ以上は二人だけで生活をする必要がないと俺は思う。


「そうね。じゃあまず、この一ヶ月間をどう過ごして来たのか説明して貰ってもいいかしら?」


「そんなこと聞いてどうすんだよ」


「いいから教えなさいよ。それとも言えないようなことを二人でしていたのかしら?」


 言えないようなことでもないが、少しやばいことをしていた様な気はする。


「……莉緒……説明してやってくれ」


「……え?私なの?分かったー」


 俺は面倒くさいので莉緒に全てを投げ捨てた。


「莉緒ちゃん、陵矢との二人だけの生活はどうだった?」


「普通に楽しかったよ!最初は顔も見たくないくらいだったけど今は大好きで大好きで仕方ないの!」


「それは良かったわね」


 よしよし、そこまでは言っても問題はない。


「お風呂に一緒に入ったり、私の部屋で一緒に寝たりもしたし、充実した一ヶ月だったよ!」

 

 莉緒さん、それは言ったらアウトだよ。 

 俺は頭を両手で抱え込む。


「陵矢……あなた一緒にお風呂に入ったの……?」


「いや、それはその……」


 俺は怒られるのではないかと覚悟を決める。

 しかし、母親の口から出てきたのは予想外の言葉だった。


「……仲良くていいじゃないの!そういう兄妹って私は素敵だと思うわよ!陵矢も中々やるじゃない!見直したわ!」


「え……?」


 母親の反応に俺は戸惑いを隠せなかった。

 普通なら怒ったり、批判するところだろう。それを母親は大絶賛して俺を褒めた。やはり、俺の母親は頭が少しおかしいようだ。


「……と、徹さんは俺が莉緒と風呂に入ったことどう思いますか?」


 俺は莉緒の父親である徹さんにも確認をしてみる。

 父親なら少しは注意くらいしてくれるだろう。


「そうだね……兄妹だし、別にいいんじゃないかな!」


 徹さんは嬉しそうに笑顔で答える。こっちもこっちで頭が残念だった。

 どちらの親も俺が思った返答をしてはこなかったので少し安心した。

 だが、これだけは確認しておくべきだろうと思った俺は二人に対して質問を投げかける。


「二人はどうして怒らないんだ?俺達は風呂に入ったり、一緒に寝たりしたんだぞ?」


「陵矢、あなたは馬鹿なの?あなた達はもう兄妹なのよ?何をしたってあなた達の自由に決まってるじゃないの。私はLINEでもそう言ったわよね?」


 まず、最初に母親が答える。


「でも、兄妹でもやっていいことと悪いことくらいあるだろ?」


「陵矢くん、君は妹と風呂に入ることが悪いことだと思っているのかい?」


「いや、そういうわけでは……」


 いきなりの徹さんからの質問に俺は言葉が詰まる。


「莉緒と一緒に風呂に入ることで君達のコミュニケーションが深まったりと利点の方が多かったはずだよ?」


「確かに、それは一理あります……」


「最初に戻るけど、今回のこの一ヶ月は君達の仲を深めるための物だったんだよ?そのためなら何をしたって僕は構わないと思っていたさ。さんもそうだと思うよ?」


 ニコッと笑みを浮かべた徹さんは横にいた母親に目を向ける。

 それに対して母親は反応する。


「ええ、もちろん。そのつもりで提案したのよ」


「今の君達を見ればこの一ヶ月で何があったのか、人目で分かるさ。莉緒そうだろ?」


「うん!その通り!」


 莉緒は俺の腕にぎゅーっと抱きついた状態でこの会話を聞いていた。


「顔合わせの時はあんなに口喧嘩していたなんて今じゃ考えられないわね。陵矢、一体どうやって莉緒ちゃんをここまでデレデレにさせることが出来たの?」


「俺だって知らねぇよ!なんか二日目の時点ですでにデレデレになっちまってたんだよ!……ってかデレデレってなんだよ!もっとほかの表現あるだろ!」


「そんなに目をハートにしてる子に対してデレデレと言う言葉を使わない方が失礼よ」


「はい……?」


 莉緒を見ると目がハートになって口からはよだれが垂れそうになっていた。

 これは早く引き離さないと手遅れになりかねないな。しかし、案の定離れることはなかった。


「結論としてはなんだけど、四人で住むよりも二人ずつに分かれて暮らした方がお互いの邪魔もしなくて生活しやすいということに至ったのだけどどうかしら?」


「どうかしらって……」


 母親の言う通り、分かれて暮らした方が今まで通りに莉緒と二人だけの生活を送れるから楽といえば楽だ。


「私はお兄ちゃんと一緒にまた暮らしたいなー」


「おい!莉緒!それでいいのか?」


「いいよ?お兄ちゃんと二人の方が楽しいし」


「せっかく家族四人で暮らせるんだぞ?お前だって一家団欒の生活を送りたいと思っていただろ?」


「そうだけど、今は違うよ?お兄ちゃんがいれば私は何もいらないの。お兄ちゃんのために私は生きるの」


 これはだめだ。何を言っても聞かないモードに突入してしまっている。

 俺の腕から引き離せなかったのが原因だろう。


「莉緒ちゃんがこう言ってるみたいだし、決まりでいいかしらね」


「僕は構わないよ。莉緒の意見を尊重したいから」


 お二人さん、まじですか。


「陵矢はどうするの?莉緒と二人暮らしする方向でいいのかしら?」


「……り、莉緒がしたいって言ってるんだ。兄として妹のお願いを聞き入れないわけにはいかない」


 ここまで来たら俺も後には引けなかった。残された選択肢は一つしかない。


「じゃあ決まりね。新しい住まいと引越しはわたし達の方で手配するから。それまではここで生活していてね」


「僕が住まいの方を探すから何か気になる点があったら二人とも教えてね」


「お父さん!お兄ちゃんと一緒に入れる大きなお風呂がある家がいいなー!」


「お前は少し黙ってろ!」


 俺は莉緒の頭を軽く叩いた。


「ちょっと!痛いじゃん!お兄ちゃんだって一緒にお風呂入りたいでしょ!?」


「俺はそんなこと一ミリたりとも思ってねぇよ!」


「私の裸見て喜んでたくせに!?」


「よ、喜んでねぇよ!ばか!」


「二人が本当に仲良くなって私達も一安心よ。ふふふっ……」


 俺達の口喧嘩を幸せそうに母親は見守っている。

 こうして俺達の二人暮らしは、再び始まりを迎えることになるのであった。

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