第30話 義妹と大阪旅行 その1

「お兄ちゃんまだ着かないの~?」


「あと少しだ。ガキじゃねぇんだから我慢しろ」


 東京を出発してから二時間近くが経つ。

 莉緒もそろそろ退屈してきたみたいだ。


「あぁぁぁぁ!暇だぁぁぁぁ!」


「車内で叫ぶんじゃねぇよ。迷惑だろ」


「はーい、ごめんなさーい」


 莉緒は唇を尖らせてツーンとした表情をする。


「スマホ見て時間潰してろ」


「もうほとんどバッテリー残ってない。あとで連絡取れなくなっちゃう」


「モバイルバッテリーは?」


「持ってくるの忘れちゃった♡」


 莉緒は顎に手を当ててウインクをして「ぺろっ」っと舌を出す。


「しょうがねぇな。俺の貸してやる」


「やったぁ!お兄ちゃん大好き!」


「ここで抱きつくな!いいから座って大人しくしてろ!」


「分かった〜」


 スマホのバッテリー残量が心配だったのか、モバイルバッテリーを渡したら莉緒はすぐ大人しくなった。こういうところはまだまだ子供だなと思ってしまう。

 さて、大阪まであと少しだ。


      *      *


 無事に俺達は大阪に着いた。

 時刻はすでに七時を過ぎている。


「お兄ちゃん、おばあちゃんも駅に着いているらしいから早く行こう」


「りょうかいした」


 俺達は急いで改札を出て駐車場へと向かう。


「あれ?おばあちゃんがいないな?」


「電話してみろよ」


「あ、そうだね」


 そう言って莉緒は電話を掛けた。


『あ、もしもし?おばあちゃん?莉緒だけど――』


『……』


『……あれ?そっちにあったっけ――?』


『……』


『あー!そっちか!分かった!すぐ行く――!』


 莉緒は電話を切りスマホをポケットにしまい、俺の傍に駆け寄って来た。


「お兄ちゃんごめん!こっちじゃなくて反対側の駐車場だった!」


「まじかよ……ったく、早く行くぞ」


「ほんとにごめん!」


「謝ってる暇があるなら早く歩け」


「らじゃー!」


 俺達はすぐに反対側の駐車場へ向かう。

 疲れるから初めからちゃんと連絡取っておいてくれよ。

 何のために充電させたと思っているんだ。


「ここで合ってるのか?」


「たぶん、こっちなはずだけど」


 反対側の駐車場に着いた俺達は再びおばあちゃんが居ないか辺りを見渡す。


「いたか?」


「んん……あっ!おばあちゃん見つけた!」


「ほんとか!?」


 莉緒が指指す先には大きく手を振る人の姿が見えた。


「早く行こう!」


「はいよ」


 ようやく、莉緒のおばあちゃんとご対面出来る。

 ここまで本当に長かったな。


「おーーばーーあーーちゃーーん!」


 莉緒は駆け足で近づいて抱きついた。


「莉緒〜!元気だったかい?」


「元気!元気!めちゃ元気だよ!」


「ここまでよく来たね。遠かったでしょ?」


「ううん!そんなことないよ!すぐだった!」


 嘘つけ、新幹線の中であれだけ駄々こねてたくせに。


「そっかそっか、それなら良かった。……それで、もしかして……そっちの方が?」


「そう!この人が私のお兄ちゃんだよ!」


「初めまして、佐野陵矢です。よろしくお願いします」


「私は祖母の由美子(ゆみこ)です。よろしくね、陵矢さん」


 俺と由美子さんは軽い挨拶を交わして、すぐに車に乗り込んで出発した。


「……おばあちゃん、急に来てごめんね」


 莉緒は暗い表情で申し訳なさそうに由美子さんに言った。


「いいのよ、別に構わないわ。私も莉緒の顔を久々に見れて嬉しいから。おじいちゃんも喜ぶわよ」


「……だよね!ちなみにおじいちゃん元気?」


「もちろん、元気よ。莉緒が来るって伝えたら大はしゃぎだったもの」


「はははっ!おじいちゃんは相変わらずだね!」


 莉緒はニコニコしながら首を左右に振った。


「……そうだ、陵矢さん」


「……は、はい、なんですか?」

 

 まさか、俺に話しかけてくると思っていなかったので油断していた。

 一体何を言われるんだ。莉緒をここに連れて来たことを怒られるのか。

 全く分からない。


「莉緒をここまで連れて来てくれてありがとうね。きっとこの子だけじゃ辿り着けなかったわ」


「とんでもないです。莉緒が行きたいって言うので俺は兄としての役目も果たしたまでです」


 おっしゃる通りだ。俺がいなかったらこいつは東京から一生掛かっても出れなかっただろう。しかし、お礼を言われるのは想定外だった。


「莉緒、頼もしいお兄ちゃんが出来て良かったわね」


「うん!最高のお兄ちゃんだよ!」


 莉緒は満面の笑みで頷いて喜ぶ。

 隣の座席でその表情を見ていたが、今まで見た笑顔の中で一番輝いていたと思う。俺にも少しだけだが嬉しい気持ちが生まれた。


      *      *


 新大阪駅から車を三十分ほど走らせ、莉緒の父親の実家に着いた。


「ここがお父さんの家なのか!大きい!」


「……確かに……これは大きいな」


 この大きさには俺も驚きを隠せない。この家一体いくらするんだ。

 家自体は普通の一軒家の二倍以上の大きさがあるが、とにかく土地が広い。


「驚いたかしら?うちはこの辺りの地主でね。意外とお金持ちなのよ」


 いやいや意外とじゃないだろ。

 超が付くほどのお金持ちの間違いだ。


「いつまでも外にいないで早く中に入ろうよ!」


 俺達は車から荷物も取り出し、玄関へ向かった。

 そして、玄関のドアを開けた先には――。


「りおぉぉぉぉ!待ってたぞぉぉぉぉ!」


 一人の男性が大声を出して莉緒に飛びかかった。


「うわっ!おじいちゃん!」


 ――――ドガンッ!


 莉緒が見事に避けたため、男性はドアに直撃した。


「……あの……大丈夫ですか……?」


 あまりに強い衝撃音だったため、俺は声を掛けてみる。


「もう!おじいちゃん!いつまでそこで寝てんのよ!早く起きなさい!」


 由美子さんが倒れた男性の胸元を掴んで往復ビンタをする。


「ちょ、ちょっと!由美子さん!何してるんですか!?」


「……何って……ビンタだけど?」


「今さっきこの人、玄関に激突したんですよ!?」


「……それは……大丈夫よ、きっと」


 そう言うと由美子さんは再びビンタをする。


「由美子さん!本当に大丈夫なんですよね!?死んじゃったりしませんよね!?」


「大丈夫よ。この人、身体強いし。……ほら!早く起きなさい!」


 由美子さんのビンタは男性が起きるまでひたすら繰り返される。

 俺はとても見ていられなかった。


「……いやー!気絶してしまったわ!すまんすまん!」


 由美子さんのビンタを受けて顔は真っ赤になっていたが、それ以外は問題なさそうなので安心した。本当に丈夫な人らしいな。


「おじいちゃん、もう飛びかかったりしないでね。私もう高校生なんだからさ」


「悪い悪い、つい昔を思い出してしまってな。身体が莉緒を見た瞬間に条件反射してしまったんじゃよ」


「でも危ないから。次からは気を付けてね」


「はいはーい」


 なんだか能天気なじいちゃんだな。莉緒にそっくりだ。


「おじいちゃん!そしてこの人が私のお兄ちゃんです!」


「初めまして、佐野陵矢です」


「わしは祖父の政時(まさとき)だ!よろしくな!君が噂の兄か。中々イケメンじゃないか」


「でしょ!かっこいいんだよ!私のお兄ちゃん!」


 なんでお前が間に入って話してんだよ。


「まあ、何にせよ。いつまでも玄関にいないで早く上がりなさいな」


 いやいや、ほとんどがあんたのせいで玄関で足止めくらってたんだけどな。

 今の騒動ですでに二十分近く経過していた。


「じゃあ、莉緒上がらせて貰うか」


「そうだね!」


「「お邪魔しますー!」」


 こうして俺と莉緒はようやく父親の実家に着いたのであった。

 今日ここで一泊させて貰い、明日は大阪観光をする予定になっている。

 ひとまず、お腹が空いたからご飯が食べたい――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る