第28話 義妹と旅行計画

「お兄ちゃん、私は旅行に行きたいです」


「……は?旅行?」


 莉緒の突然の発案に、炒飯を食べていた俺の手が止まる。


「私は旅行に行きたいです」


「二回も言うな。ちゃんと聞こえてるわ」


「だって反応がなかったんだもん」


「反応がなかったんじゃねえよ。いきなり言われて驚いていただけだ」


「それで、どこに行こっか?」


 俺のことなど気にもせずに、ニコニコした表情で莉緒は問い掛けてくる。


「そもそも行く前提で話を進めるな。土曜の昼間っから一体どこに旅行に行くんだよ。しかも高校生だけで」


「北海道しかないでしょ!」


「それは無理に決まってんだろ!」


 俺は即答で却下した。前にも北海道行きたいと言われた記憶があるが流石に遠すぎる。


「どうしてなの?私はいくらとカニ食べたいのー!」


「高校生二人が行く場所じゃねぇだろ、北海道は」


 駄々をこねる莉緒を俺は必死に説得する。


「じゃあどこがいいのさー」


「どこがいいとかねぇから。まず第一に旅行に行く話自体がおかしいからな?」


「えー、だって暇なんだもん」


 だからと言って北海道は暇で行く場所ではない。知り合いに今北海道に家族で行ってるやつがいた気がしたが、きっと俺の思い違いだろう。


「暇なら買い物にでも行くか?」


「んー、買い物はこの前原宿でしちゃったからなー」


「なんか欲しい物ないのか?」


「お兄ちゃん♡」


「はいはい、そういうの今いらないから」


 ウィンクをして両手を顔の前で握る可愛いポーズを取る莉緒に対して俺は冷たい言葉を送る。


「お兄ちゃんは私いらないの?」


「誰もそんなこと一言も言ってないだろ!」


「今言ったよ……?いらないって」


「それは、今のお前との『やり取り』がいらないって話だ!」


「じゃあ私はお兄ちゃんにとって必要な存在?」


「それはもちろん。必要に決まってんだろ」


「どのくらい?」


「……ど、どのくらい?」


「そう、どれくらい私のことが必要なの?」


 莉緒の言葉に一瞬だけ戸惑ったが、俺は思っていることをそのまま伝える。


「莉緒がいないと俺の人生が始まらない、それくらいのレベルでお前は必要だ」


「うふふっ、嬉しいな♡」


 莉緒は嬉しそうにしながらも少し頬を赤らめた。

 別に言わなくてもいいくらいに十分想いは伝えていると思うのだけれどな。

 毎回のように言葉か行動で示してあげなければいけないのが本当に面倒だ。


「――それで、どうするんだ?」


 このままだと話がまた逸れそうだったので俺は再び莉緒に話を振る。


「どうするって?」


「旅行行くって話してただろ」


「あ、そうだっけ?嬉しくて忘れちゃってた。あははっ!」


 話が振り出しに戻ってしまった。どうしていつも莉緒は嬉しいことがあると今話していた内容を忘れてしまうのか。これに関しては本当に謎である。


「それなら、もう旅行は行かなくていいか?」


「え!?嫌だ!行きたい!」


「だってお前と話しても先に進まないんだもん」


「ごめんって!真面目に話するから〜!」


 莉緒が顔の前で両手をスリスリさせて懇願する。


「ほんとだな?」


「はい!」


「もう一回ふざけたらこの話は無しだからな?」


「分かりました!」


 なんだか薄っぺらい返事な感じもしたが、俺は話を進めることにした。


「もう一回だけ聞くぞ?どこに行きたい?」


「んー、大阪とか関西方面に行きたいかなー」


 関西方面か。それなら新幹線でも行けるしいいだろう。

 だが、一つだけ問題がある。それは、


「仮に今日から出掛けるとして泊まる場所はどうするんだ?ホテルに泊まるにしたって親の同意とかがなくちゃ確か無理だろ?」


「ふふふっ……」


 莉緒が何やら不敵な笑みを浮かべる。


「何かいい案でもあるのか?」


「もちろんですとも!実はね!大阪にお父さんの実家があるんだよ!」


「へえ、お前の父親ってあっち育ちなんだ。あんまりそんな雰囲気ないけどな」


「高校卒業してすぐに上京したらしいよ。だからじゃないかな?」


 確かに二十年近くもこっちにいればある程度は大阪弁も抜けるか。

 実際のところはどうなのかは分からないが。


「話を挟んじまったが……。つまりはそこに泊めて貰おうと?」


「正解!早速電話してみるね!」


 莉緒はすぐにスマホを手に取って電話を掛ける。

 五分も経たないうちに会話は終了した。


「お兄ちゃん……」


 莉緒が深刻そうな表情で俺に近づいてくる。


「やっぱりだめだったか?そりゃそうだろ。急に泊まらせて欲しいだなんて、そんなの無理な話で――」


「ううん!泊まりに来てもいいってさ!」


 莉緒の表情が一変。満面の笑みになり、親指を立ててグッドサインを作った。


「大丈夫なのかよ!びっくりさせんじゃねえよ!」


「お父さんが再婚してお兄ちゃんが出来たって言ったらさ。おばあちゃんがすぐにでも会いたいって言うんだもん!これは行くしかないでしょ!」


「なんだよ……お前の父親、再婚したこと伝えてなかったのかよ……」


「すぐに新婚旅行に行っちゃったし、言う暇なかったんじゃない?」


 どうして俺達の親は揃いも揃って大事なことを伝えずに出て行ってしまうんだ。

 これは母さんだけでなく、莉緒のお父さんにも説教が必要みたいだな。


「……それじゃあ……大阪行くか……」


「うん!お兄ちゃんとの初旅行楽しみだな~!」


 時刻は間もなくお昼の二時を過ぎる。

 俺達はすぐに旅行の支度を進めるのであった。

 果たして、どんな旅行になるのか心配でしかない――。










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