第27話 義妹と暇つぶし

 騒がしかった平日を終えて週末を迎えた。

 時刻は朝の十時過ぎ。

 俺と莉緒はやることもないのでリビングで寝転がっている。


「――ねぇ、お兄ちゃん。暇すぎない?」


「ああ、そうだな……」


 俺は天井を見上げながら力の無い声で返答する。


「……なにかゲームしない?」


「……いいぞ、何するんだ?」


「しりとり」


 それは本当にやることが思いつかない時の最終手段だろうが。

 もっと他のゲームあるだろ。

 色々とツッコんでやりたかったが、俺は付き合うことにした。


「じゃあ、俺から始めるぞ。しりとり」


「リンカーン。はい、私の勝ちー」


「おい、ふざけんな。終わりじゃねぇかよ。しかも勝ちじゃなくて負けだわ」


「……え?だって、しりとりって一番最初に「ん」を付けた人が勝ちって遊びじゃないの?」


 そのくそみたいなルール、誰が決めたんだよ。

 それだと絶対に二番目のやつが勝つじゃねぇか。


「莉緒、しりとりのルールちゃんと知ってんのか?」


「だから今のがルールでしょ?」


「そんなわけあるか!」


 高校一年生の妹にすることではないと思うのだが、呆れ返った俺はルールを教えた。


「――なるほど。そういうルールなのね」


「わかったか?じゃあもう一回やるか?」


「いや大丈夫だよ。満足した」


「何に満足したのか分からないけど、まあいいや」


 俺は崩れた枕を整えてソファで再びくつろぐ。


「ちなみにだけど。お兄ちゃん、私最初からしりとりのルール知ってたよ?」


「……は?それなら、わざわざ俺が1から10までルール教えてやる必要なかっただろ!」


「いやー、熱心に教えるお兄ちゃん見てたらさ。ついつい言うのが遅くなっちゃったよ。ごめんちゃい♡」


「この野郎、覚悟しろよ……?」


 俺はゆっくりと立ち上がって莉緒に近づく。


「……え、あっ……ちょっと……お兄ちゃん……?謝ったんだから許して……?」


「許すわけねぇだろ!」


 起き上がろうとした莉緒の腕を掴み、俺は押し倒して十時固めを食らわせる。


「あぁぁぁ!技かけられるのも久々な気がするぅぅぅぅ!痛い痛い!痛いよー!」


「……そういえばそうかもな、相変わらず痛いだろ?」


 俺は技をかけながらどこか懐かしさを感じた。


「そんな冷静な表情して返さないでよ!普通は女子に十時固めなんてしないよ!?」


「俺はお前のことは女だとは思っているが、女子とは思っていない」


「え!?待って、それってどういう意味!?」


「うるせぇ、スマホ使って自分で調べろ」


 女と女子の意味の違いなんて言うほど無い。

 説明すると、女は「大人の女性」という意味で女子は「中高生など生徒の女性」という意味で使われる。

 男でも意味はこれと一緒だ。知識として持っておいて損はないだろう。


「――ねぇ、お兄ちゃん。いつまでやってるつもり?」


 技をかけて三分が経過していた。

 いつもならとっくの昔に離している。


「なんか久々に決めたら気持ち良くなっちゃったからさ、もう少し付き合って?」


「私は練習相手じゃないんだけどー」


 莉緒が棒読みで嫌そうに答える。


「あ、違うの?毎回食らってくれるから好きなのかと思ってたよ」


 俺はくすくすと笑いながら莉緒を揶揄う。


「そんなわけないでしょ!誰が好んでこんな痛い技食らわなきゃいけないの!」


「お前しかいないじゃん」


「だから違うって言ってるでしょ!もういい加減話してよ!」


「あはは!やっぱりお前で遊ぶの面白いな!」


 俺は遂に楽しさに耐え切れなくなり大声で笑い始めた。


「ちょっとお兄ちゃん!笑ってないで早く離して!」


「無理無理!面白くて絶対に離したくない」


「私は面白くも何ともないんだけど!?」


「別にいいだろ?お前が大好きだからやってんだぞ?俺なりの愛情表現だ、受け取ってくれ」


 俺は真面目な声で莉緒に想いを伝える。


「……そ、それなら……仕方ない……ってなるわけないでしょ!このばかぁぁぁぁ!いいから早く離せ!」


「あはは!やっぱりだめか!」


「だめに決まってるでしょ!もっと私を優しく扱ってよ!」


「例えばー?」

 

 俺はわざとらしく聞いてみる。


「……た、例えば……?そうだね……キス、ハグとかかな……?」


「そうか、それなら――」


 俺は十字固めを解いて、莉緒の顔に近づく。


「……ど、どうしたの?お兄ちゃん……?」


「ん……?ただキスするだけ」


 突然の接近で戸惑った表情を見せる莉緒に俺はそっと唇を重ね合わせる。


「~~~~~~~!」


 莉緒は俺からのキスに驚いて言葉にならない悲鳴を上げる。

 八秒ほどが経ったところで俺は唇を離す。


「――俺からのキスどうだった?」


「……びっくりした……」


「でも嬉しかっただろ?」


 莉緒は顔を真っ赤にして小さく「うん」と頷いた。


       *      *


 時計の鐘がなる。気付けばお昼になっていた。


「莉緒ー、俺炒飯食べたいなー」


「炒飯ならすぐ出来るよ。待ってて」


「おっけー、じゃあよろしく。……あ、俺ちょっと部屋行ってくるから」


 こうやって暇を潰すのもたまにはいいだろう。

 俺は楽しかったから満足している。

 しかし、莉緒が楽しかったのかはまた別の話である――。


『――お兄ちゃん、まさか本当にキスしてくると思わなかった……。めちゃくちゃ恥ずかしかった……。自分からするのと相手からされるのだと全然違うんだ……』


 一人リビングで調理をしながら先程のキスを思い出していた莉緒であった。


『――もっと……お兄ちゃんの方からキスしてくれないかな……』


 唇を何回も触りながら莉緒は兄への想いを口にした。



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