第26話 義妹との帰宅とその後

 部活が終わり、俺と莉緒は二人で帰っているところだ。


「お兄ちゃん?なんか顔色悪いけど大丈夫?風邪でも引いた?」


「大丈夫だ……」


 今日は面倒なことばかりが起きて疲れている。

 朝から莉緒の胸を揉んだ事件から始まり、学校に着いてからの飯島との会話。

 そして最後に一番厄介だったのが陽菜ちゃんだ。


 部活中も散々な目にあった――。


『陵矢先輩!お昼はよくも逃げてくれましたね!』


『あそこはさすがに逃げなきゃ行けないやつだろ!』


『違います!あそこは素直に揉んで莉緒を悲しませるところです!』


 こいつは自分の友達がいる場面でそんなことを考えていたのか。どんな心理状態を持っていればそこに行き着くんだよ。

 絡む機会が増えれば増えるほど、「楠木陽菜(くすのきひな)」という人間の評価が落ちていく。


『絶対に無理!てか、なんでお前の胸を揉まないといけないんだよ!?」


『私が先輩のこと好きだからです!』


 陽菜ちゃんは赤らめた頬を隠すように両手を当てている。

 

『それはなんの理由にもならないだろ?俺が好きなら話は別だが……』


 俺は無表情でやんわりと告白を断る。

 そもそも、なぜ、胸の話からいきなり告白を受けているのだろう。


『それなら早く好きになってください!』


『ならねぇよ!ばか!』


『どうしてですか!?こんなにも……私が愛を伝えているのに……』


『いや……莉緒が好きだってずっと言ってるだろ……?』


 一変して悲しげな表情を浮かべる陽菜ちゃんに俺は少し戸惑いながら返答する。


『妹に恋して良いと本気で思ってるんですか!?』


『それは俺達の勝手だろ!血が繋がってないことは気にしないで生活していくと、昼にも言ったはずだ』


『……それでも私は陵矢先輩が大好きです……この気持ちは絶対に受け取ってくれないんですか……?」


『残念だけど、俺にそのつもりは一切ないよ』


『……そうですか……分かりました……』


 俺の言葉で諦めがついたのか、陽菜ちゃんは立ち去っていく。

 その目には涙があった。しかし、これ以上は俺が伝えるべき言葉は存在しない。

 俺は黙って、その歩いていく後ろ姿を見ているしかなかった――。


      *      *


「――ねぇ、お兄ちゃん……?おーい!お兄ちゃん!」


「ん……?うおっ!莉緒どうしたんだ?」

 

 莉緒の声の大きさに俺は驚き、慌てて横を向くと耳元に莉緒の顔があった。


「どうしたじゃないよ。さっきからずっとぼーっとしちゃってさ」


 莉緒は心配そうな顔で俺を見つめる。

 

「ああ、悪い悪い。少し考え事していただけだよ」


「もしかして、陽菜のこと?」


「……そうだよ」


「気にすることないって。更衣室でもいつも通りだったし大丈夫だと思うよ?」


「……だと良いんだけどな」


 自分で言うのもなんだが、振った相手の心配をするなんて優しさがすぎるかな。

 それ以前に心配する方がおかしいのかすら分からない。

 存在するなら教えて下さい、恋愛の神様よ。


「そんなに心配なら付き合ったらいいじゃん?」


「嫌だよ。俺はお前じゃなきゃダメなんだよ」


「お兄ちゃんにしては嬉しいこと言ってくれるじゃん。大好きだよ♡」


「当たり前だ。俺も大好きだよ」


「まあ、仮にお兄ちゃんが陽菜と付き合うなんて言ったら殺しちゃうからね♡」


「……わ、分かった。肝に銘じておくよ……」


 満面の笑みに隠れた思いもよらぬ一言に俺の顔は一気に青ざめた。

 この女なら間違いなく殺る。確実に殺られるに決まっている。

 俺は「ゴクリッ……」と唾を飲み込み、必死に冷静さを保つ。


「さてと、私の機嫌が良くなったところで聞くけど今日の夕飯は何食べたい?食べたい物なんでも作ってあげるよ!」


「そ、そうだな。疲れたからスタミナ付く料理食べたいかな」


「スタミナ料理か……そうするとやっぱりニンニクかな?」


「ニンニクだと何の料理作れそうだ?」


「んー、シンプルに焼き肉丼とかの方がいいかもしれないね」


 焼き肉丼か。食べやすいし作るのも簡単そうだからいいかもしれない。


「おっけ、じゃあそうしよう。材料は大丈夫か?」


「あー、ニンニクだけ無かったかも。スーパー寄って帰ろ」


 こうして俺達は夕飯の献立を決めて歩みを進めて行く。


      *      *

 

 買い物を終えて帰宅。

 莉緒が夕飯の支度をしている間に俺は自室で宿題を進めていた。


 「ああー、終わったぁー」


 宿題が終わって背伸びをしていた時に、


――――莉緒だよ!莉緒だよ!お兄ちゃん!


 スマホの通知音が鳴り響き、LINEを開く。

 これは莉緒が勝手に録音して設定したものである。

 

『お兄ちゃんー、出来たよー』


『了解、今行く』


 さっさと返信をして俺はリビングへと向かう。

 正直に言うとにこんなのを使うこと自体恥ずかしいので早く変えたい。しかし、莉緒が絶対に変えさせてくれないので一生このままなのだろう。

 リビングに着くと、すでに莉緒が席に座って待っていた。


「お兄ちゃん来たね!冷めないうちに食べよ!」


「おう」


 俺と莉緒は向かい合って席に座った。


「「いただきますー」」


 目の前にある丼ぶりを持ち、俺は一口食べる。


「……ん!めっちゃ美味いな!」


「ほんとに!?嬉しいな!」


 豚肉を玉ねぎとニラと一緒にニンニクやショウガなどの入った醤油ダレ炒めた本当にシンプルな料理だが美味しい。真ん中に乗っている温泉卵も相性が最高だ。


「いやー、美味しくて今日の疲れが吹き飛ぶよ」


「それは良かったね。お肉はおかわりあるから好きなだけ食べて大丈夫だよ」


「さんきゅー」


 俺はひたすら食べ進めた結果、動けなくなりソファに倒れ込んだ。


「お兄ちゃん、もう少し加減して食べなよ。子供じゃないんだからさ」


「……お前の料理が美味しいんだからしょうがないだろ……」


「もう!またそういうこと言って!」


 少し照れくさそうな表情をして莉緒が近づいてくる。

 そして――


――――チュッ……


 莉緒は俺の頬にキスをした。


「……おい。俺が動けないのを良いことに、なに勝手にキスしてんだよ……」


「そういえば、食事後のデザート頂いてないなと思って」


「俺はデザートじゃねぇよ」


「どうも、ごちそうさまでした」


「だから違うって言ってんだろ。ぶっ飛ばすぞ」

 

「そんなこと言うと、次は唇にしちゃうぞ?良いの?」


「あー、だめです」


「だめって言ってもするんだけどね。いただきます♡」


「おい!ばか!ふざけん――」


 こうして俺は最後の最後で莉緒に遊ばれるのであった。

 結局、一番厄介なのは莉緒なのかもしれない。

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