第25話 義兄妹の遅刻騒動
俺達が学校に着いたのは一時限目の途中だった。
そして職員室へ向かい遅刻の理由を二人で説明しに行く。
「――それでお前達、揃って遅刻とはいい度胸だな?」
眉間にしわを寄せて睨みつけてくるのは体育教師の飯島だ。
生徒の間でもかなりの評判の悪さを持つ。
「「悪いのは全部こいつです!」」
俺と莉緒は互いを指差して言い放つ。
「は!?悪いのはお前だろ!朝から変な話にベラベラと付き合わせやがって!」
「違うよ!お兄ちゃんがさっさと話せば良かっただけじゃん!」
「あんなこと、すんなり言えるわけないだろ!」
先生の前だ。朝の事件に関係する言葉は口には出したくない。
「でも結局は言っちゃったよね?それってただのあほじゃん!」
「ふざけんな!誰があほだ!」
「そんなの目の前に立っているお兄ちゃんだけですよーだ!あーほ!」
「……お前らいい加減にしろ――!」
教卓を強く叩いて飯島が怒鳴る。
「……普通に寝坊しただけです。すいません」
「……私も同じくです。すいません」
飯島の怒りに圧倒されて潔く俺達は喧嘩をやめた。
まじでこの先生怖すぎる。悪魔でも憑りついてるんじゃないのか。
こうして寝坊という形で遅刻が認められたのである。
「――あ、おい。陵矢には話があるから少しだけ残れ」
「は、はい……?」
遅刻届けを書き、職員室から出て行こうとしたところを呼び止められる。
「せんせーい、私にはないんですかー?」
「お前に用事はない。早く教室へ行け」
「はーい!わっかりまーした!お兄ちゃんまたね!チュッ!」
俺に投げキッスをして莉緒は職員室を出て行く。
先生達の前でよくもまあ堂々と出来るよなと俺は苦笑いをする。
「――それで先生、俺に話ってなんですか?」
「別に大した話ではないんだがな。一応確認のためだ」
「……確認……ですか……?」
「そうだ……お前達ってどういう関係なんだ……?」
「いや、ただの兄妹ですけど……」
「兄妹!?そんな話聞いてないぞ!」
飯島は驚いて勢い強く立ち上がった。
その力強さを物語るように座っていた椅子がひっくり返る。
「もしかして、うちの親って学校に何も連絡してない感じですか……?」
「俺は何も聞いていないぞ。俺が知らないんだから他の先生だって知らないだろ」
飯島はこの学校の生徒情報を管理する仕事もしている。
つまりはそういうことである。
――――うちの親は俺達が兄妹になったことを学校に伝えてない。
「……まじかよ……」
俺はここで親が再婚して莉緒が義妹になったことを説明した。
これって絶対に俺がやることじゃないよな。
それなのに一ヶ月も新婚旅行に行きやがって。
帰って来たら絶対に説教してやる。
「そういうことだったのか。話してくれて助かったよ」
「いえ、本当ならうちの親が言うべきはずなんですけど……本当にすいません」
「気にするな。まあ、兄妹仲良いのは何よりだが遅刻はもうするなよ」
「はい、わかりました」
「俺からの話は以上だ。教室に行っていいぞ」
「それでは失礼します」
ようやく職員室から解放される時が来た。
すでに三時限目始まってるんだけど良かったのだろうか。
俺としては嫌いな数学の授業サボれてラッキーだけどな。
「あ、陵矢。最後にもう一つ」
「なんですか?」
「兄妹になったとはいえ、血が繋がってないからって変な気は起こすなよ?」
「そ、そんなこと分かってますから大丈夫です!」
俺はドアを勢いよく閉めて教室へと歩き出す。
あんなの教師が生徒に向かって言うセリフじゃねぇよ。
「ったく、本当に今日は最悪な日だ……」
俺と莉緒が遅刻したことはいつも通り、すぐ学校中に広まった。
どういうわけか、夜中にイチャついて寝坊したのではないかという変な噂までもが
立ってしまう始末である。
とにかく、遅刻はだけはもうしないように心掛けよう。
*
そして昼休み――。
今日は莉緒が弁当を作り忘れたために俺は購買に昼飯を買いに行く。
俺が廊下の真ん中を歩くと人が避けていく。まるで王様にでもなった気分だ。
「……あの人、昨日の夜、莉緒ちゃんのこと弄んだらしいよ……」
「うそ、最低……っていうかさ、あの人ってお兄ちゃんでしょ?」
「……そういえばそうじゃん!妹に手を出すとか下衆すぎ……」
周りに避けた女子が根も葉もないことを言っているが無視した。
俺は何もしてないので無実なのである。
――――莉緒の胸を揉んだこと以外は。
「さて、何を食べようか」
莉緒がずっと弁当を作ってくれていたから久々に来ると悩むな。
結局、メロンパンといつものコーヒー牛乳という以前までの定番コンビを購入。
教室へ戻ろうと購買を出ると、
「「「あ……」」」
思わぬ遭遇に三人の声が揃う。
目の前に現れたのは莉緒と陽菜ちゃんだった。
「おっぱい大好きマンじゃん。相変わらずその組み合わせ好きなんだね」
「うるせぇよ。お前がちゃんと弁当作れば別に買う必要無かったんだよ。てか、その呼び方やめろって言ったよな?」
「嫌だよ。おっぱい大好きマン」
「変な誤解を招くから。頼むからやめろって」
「絶対にやめないよ。おっぱい大好きマン」
こいつ、絶対わざと言ってるよな。
「ねぇ?莉緒?一体どういうこと?陵矢先輩なにかしたの?」
陽菜ちゃんは俺が「おっぱい大好きマン」と言われている理由を当然知らない。
「あー、えっと、それは……」
俺はどうにかして話を濁そうとしたが、
「それはね、今朝のことなんだけど。お兄ちゃんが私のおっぱいを揉んだの」
「お、おい。莉緒、それ以上は……」
「そして言ったんだよ!私のおっぱいが好きだと!」
莉緒は両手を大きく広げ、天に飛び立つ天使の如く輝きを見せる。
一方の俺は床に膝から崩れ落ち、地獄にいる気分を味わう。
「お前、どうして言っちゃうんだよ……」
「え?だってちゃんと説明してあげないと陽菜が可哀想じゃん」
「俺が可哀想だとは思わないのか……?」
「全然!」
莉緒はあふれんばかりの笑顔ではっきりと答えた。
「陵矢先輩……」
下を向いてトーンの低い不気味な声で俺の名前を呼ぶ。
俺は一瞬だが陽菜ちゃんの存在を忘れていた。
「な、なに?陽菜ちゃん?」
「莉緒のおっぱいを揉んだって、本当なんですか……?」
「う、うん……」
「どうして揉んだんですか……?」
「どうしてって……昨日一緒に寝て起きたら手が胸にあったんだ。それでつい……」
「おっぱいを触っただけでなく、一緒に寝たんですか……?」
「そ、そうだよ。莉緒が一緒に寝ようって言うから」
陽菜ちゃんの声が更に低くなってるような感じがするが気のせいだろうか。
あまりの恐怖心に背筋が凍りそうな勢いだ。
「陵矢先輩は莉緒に対して甘すぎます。少し厳しくしても良いと思います」
「そう言われてな。世界でたった一人の妹だし、そういうわけには……」
俺としても少し甘いかなとは思っている。
しかし、俺が莉緒を愛している以上は厳しくするのはどうも難しい。厳しくして嫌われたりでもしたら俺の人生はそこでゲームオーバーだ。
「陽菜、お兄ちゃんにはそんなこと無理だよ。私達は相思相愛でお互い思う存分、甘やかして生きていくんだから」
莉緒、たまには良いこと言ってくれるじゃないか。「たまには」な。
「……ですが、二人は兄妹。絶対に超えられない壁がある。違いますか……?」
「いや、俺達は別に血が繋がっているわけじゃないから。その辺のことはお互い気にしないように決めたんだ」
「それで先輩は良いんですか!?妹のおっぱいを揉んだくらいで満足して!」
急に陽菜ちゃんのスイッチが切り変わる。
これは少し面倒になりそうな予感だ。
「ちょっと陽菜!その言い方はさすがに無いんじゃないの!?」
「莉緒なんて所詮は妹でしょ!私は普通の女子として先輩と接することが出来るのよ!」
「そんなの羨ましくも何ともないし!あんた、妹の特権なめんじゃないわよ!」
「それで……先輩……私のおっぱい……揉みたくないですか……?」
「……え?」
カーディガン脱ぎ近づいてきた陽菜ちゃんからの変化球に俺は戸惑う。
「陽菜!あんた何サラッととんでもないこと言ってんのよ!」
「莉緒が触られたなら私だって触られたって問題ないでしょ?」
「何言ってんの!頭おかしいんじゃないの!?」
同感である。
「ほら、先輩……?おっぱいには自信あるんです。莉緒のなんかよりも揉み心地良いですよ?心の準備は出来てます。早く来てください」
予想外の展開に俺は足が竦んで動けずにいた。
「――あぁぁぁぁぁ!お兄ちゃん!逃げるよぉぉぉぉ!」
莉緒が俺の袖を掴み、全速力で購買から脱出する。
大声で叫んでくれたおかげで身体がすぐに動いた。
「あっ!ちょっと!待って下さいよぉぉぉぉ!」
走り疲れた俺達は屋上へ続く階段付近に座り込む。
「……莉緒。助けてくれてありがとな」
「……あれくらい自分で解決してよねっ!ほんとに困ったお兄ちゃんなんだから!」
いや、そもそも半分以上はお前のせいなんだけどな――。
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