第23話 義妹とのお風呂(2)と添い寝

 莉緒との新たな約束を結んだ俺はベッドで休んでいた。

 陽菜ちゃんと莉緒のダブルを相手にしたためかなり疲れている。

 そんな中、


 ――――ガチャン!


 大きな破壊音を立ててドアが開いた。


「お兄ちゃん!お風呂入るよ!」


 一緒に風呂に入るために莉緒が押し掛けてきた。

 俺は「やれやれ」と首を横に振り起き上がる。


「お、お前!なんで裸なんだよ!」


 そこに広がる光景に俺は目を疑う。

 莉緒が部屋の入口で裸で立っていたのだ。


「……え?なんでって、別に良くない?」


「いい訳ねぇだろ!家の中うろつく時は服を着ろ!服を!」


「私の裸なんてそろそろ見飽きたでしょ?問題ないって」


「問題なのはそっちじゃねぇよ!あほ!」


「じゃあ何が問題なのさ?」


「一般的に考えろ!普通の女子は裸でうろつき回ることはしないだろ!?」


「そうかな?私の友達は下着姿で家の中うろついてるよ?」


 女子って皆そういうものなのか。

 男ならパンツ一丁で脱衣所から出てくるのは分かる。

 しかし、女子が下着で出てくるのは……。


「――下着なら……まあ……まだセーフじゃないか?隠れるところはちゃんと隠れているし……」


 俺は隠れれば良いという基準を出した。


「あ、ちなみに裸の子もちゃんといるよ」


「今すぐ服を着るようにと連絡しろ!」


「はーい! ……そんなことよりもお兄ちゃん、早くお風呂入ろう。私寒い。」


 莉緒は身体をガタガタと震わせている。


「全裸でいるんだから寒いに決まってんだろ!今何月だと思っているんだ!」


「11月の中旬だね〜」


「分かってるなら二度とやるな!早く風呂行くぞ! 」


 俺は薄い毛布を莉緒に巻いて一階へ向かう。


「俺が服脱いでる間にお前は早く入って身体温めておけ」


「はーい。待ってるね」


 全く困った妹だ。もう少し品があれば最高なんだがな。

 俺はそんなことを思いながら服を脱ぐ。

 そして、莉緒がいる風呂場へ入っていく。


「あ、お兄ちゃん、ナイスタイミング!丁度ね、髪濡らし終えたところだったから前みたいに洗って〜」


「は……?また俺が洗うのかよ。嫌だよ」


「お兄ちゃんお願いだよ〜。可愛い妹のお願いだよ?断る理由は無いよ?」


 確かに断る理由は無いが、前回洗ってかなり大変だったのでやりたくないのだ。

 しかし、よく良く考えればこれから毎日一緒に入るわけだ。

 毎日洗ってと言われるに決まっている。ここは素直に洗っておいた方が正解だ。


「分かった。じゃあシャンプー取ってくれ」


「やったぁ!よろしくね!」


 莉緒は上機嫌で鼻歌を交じりながらシャンプーを俺に渡す。


「では、お客様失礼しますね」


「はーい」


「どこか痒いところなどは御座いますか?」


「特には無いのでささっとやっちゃって下さい!」


「かしこまりました」


 まるで美容室みたいなやり取りだな。

 俺は莉緒の髪にシャンプーを馴染ませてゆっくりと泡立てる。

 前回同様、毛先は優しく撫でる感じで。


「お兄ちゃん、本当に上手だよ。将来は美容師になったらいいんじゃない?」


「美容師か……あんまり興味無いな」


「そうなの?勿体ないなあ」


「俺は莉緒の髪を洗えればそれでいいかな。長くて大変だけど、こうやって洗ってあげられるのは俺だけだしさ」


「 ま、また急にそういうこと言う!今言う台詞じゃないでしょ、こっちは心の準備が出来てないのに!」


 顔を真っ赤にした莉緒は怒り気味で俺の方を睨み付ける。


「別に準備なんて要らないだろ」


「いるんだよ!お兄ちゃんのその不意打ちはだめなの!」


「思ったことただ言ってるだけなんだが」


「それが不意打ちだって言ってるの!」


「んー、やっぱりよく分からん」


 俺は一度、髪を洗う手を止めた。


「何が分からないのよ」


 莉緒が不満気な表情で俺を見つめる。


「俺はただお前に対して嬉しいと思ったのと言ってるだけで怒らそうとしてるわけじゃないんだけどな」


「私だって別に怒ってるわけじゃないよ。ただお兄ちゃんの言うタイミングがずるいだけ」


「ずるいってなんだ?」


「ずるいはずるいよ。お兄ちゃんも少しは察してよねっ!」


 莉緒は頬を膨らませてそっぽを向く。


「……え、あ、分かった」


「しょうがないから特別に教えてあげる。お兄ちゃんはね、私が照れるようなことを簡単に言い過ぎなの」


「そんなに言ってたか……?」


 俺は小さな声で莉緒に訊ねた。


「言ってたよ」


「そっか……なんか……すまん」


「謝ることないよ。私は言ってくれることに関しては素直に嬉しいしさ」


「それなら大丈夫か、ありがと」


 少し自信なさげに俺は返答する。


「まあ、今よりも少し減れば私は満足よ」


「じゃあ、どうすればいいんだ?」


「言わないように意識すればいいじゃん」


「そうだ!俺がお前の髪を洗わなければいいんだ!そうすれば言わないで済む!」


「誰もそんなこと一言も言ってなーい!お兄ちゃんのばか!」


 俺は桶たっぷりに溜まったお湯を顔面に浴びせられる。

 おまけで飛んできた桶本体も直撃した。


         *


 風呂から上がって髪を乾かして後は寝るだけだ。

 しかし、俺にとってはここからが本当の勝負である。


「じゃあ、お兄ちゃん。私の部屋行こうか」


「お、おう……」


 そう。約束通り、俺は莉緒と一緒に寝なければならない。

 自分の部屋を過ぎて莉緒の部屋の前に立つ。


「お兄ちゃん、入っていいよ」


「あ、ああ……」


 入っていいよと言われたがあまりの緊張で身体が動かない。

 前に一度だけ入ったが、あの時とは状況が全く違う。

 俺はこの部屋で寝なければいけない。そう思うと中々一歩目を踏み出せない。


「あれ?お兄ちゃん。もしかして緊張してるの?」


「き、緊張なんて、してるわけねぇだろ!」


「それなら早く入ってよ。私眠いんだから」


 莉緒は「ふぁー」とあくびをする。

 眠いならお前が最初に入れよ。なんで俺が先に入らなきゃいけないんだよ。

 そして、俺は一息入れてドアを開けた。


「……相変わらずの部屋だな……」


「でしょ!お兄ちゃんコレクション!」


 そこには天井と壁に貼られたおびただしい数の俺の写真。本当に恐ろしい物だ。


「俺も眠いから早く寝たい。ベッドはどこだ?」

 

 莉緒の部屋はかなり散らかっていてベッドが埋もれている状態だった。


「もう寝ちゃうの?夜の営みとかしないの?」


「お前、さっき眠いとか言ってなかった?」


「そんなの知りませーん」


 莉緒は出来もしない口笛を吹いて誤魔化す。


「ベッドはあれか。先に横になってるぞ」


 しかし、横になって俺はとんでもない物を目にしてしまう。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」


「ん?お兄ちゃんどうしたの?」


「おい、莉緒!ベッドに貼ってある写真は一体どこで手に入れたんだよ!」


「あー、あれは詩音先輩から貰いました」


 ベッドの天井にある大きな一枚の写真。それは俺のヌード写真である。

 一体何処から流出したのか俺も知らない。

 こればかりは詩音の首を絞めてでも問い詰める必要がありそうだ。


「くそ、まさか。自分の裸を見て寝るは目なるとは思わなかったぜ」


「まあまあ、そんなこと言わないで。それなら私のエッチな姿でも見ます?」


「お前のエッチな姿なら見飽きてるって……」


 起き上がると、以前購入した白のランジェリーを着た莉緒の姿があった。


「――お前、それ……」


「えへへ、どうかな。似合ってる?」


「ああ、めっちゃ似合ってる。可愛いよ」


「ほんとに!?嬉しい!」


 莉緒は気恥しそうな雰囲気を出しながら満足な表情をしている。


「お前、それで寝るのか?」


「そのつもりだけど。どうして?」


「いや、寒くないのか?」


「寒いけどせっかくだし、このまま寝たい」


「なら俺にくっ付いて寝ろよ?」


「え?」


「風邪引かれたら困るんだよ。くっ付いて寝たら暖かいし問題ないだろ」


「うん!分かった!」


 こうして俺達は同じ布団を被り、抱きついて寝ることになった。


「お兄ちゃん、おやすみ」


「おやすみ、莉緒」


 唇を軽く重ね合わせ、俺達は目を閉じる。

 そしてゆっくりと夢の中へと落ちていく。

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