第20話 陽菜からのお誘い
今日の俺は一人で弁当を食べている。詩音が学校をサボったからだ。
昨晩、詩音から送信されてきたLINEを見て俺は驚いた。
『明日と明後日、俺学校休むから。ちょっと北海道旅行に行ってくるわー』
『は?学校どうすんだよ?』
『親が行かなくてもいいって言ってるし問題無いっしょ』
『問題無くはないだろ。欠席理由とかどうすんだよ』
『親公認の旅行なんだから問題ねぇって。もちろん、妹二人も行くぞ。欠席理由はな、インフルエンザにしとくってさ』
今はインフルエンザの時期ではない。そもそもインフルエンザなら一週間休むことになるぞ。こいつ、今週絶対に学校来る気ないな。
『ほんとお前の親って一体どうなってんだよ……」
――俺の親に対しても言えたことではないが……。
『まあ、ちゃんとお土産買って帰るから心配すんなって』
心配しているのはそこじゃねぇよ、あほ。
『一応、聞いておくが何買ってきてくれるんだ?』
『そうだな……。カニ、いくらとか海鮮類でいいか?』
『十分かな、よろしく頼む』
『おっけー。親友の俺様がいなくて寂しいと思うが一人の学校生活をエンジョイしてくれたまえよ』
『お前なんかいようがいまいが関係ねぇよ』
『何デレてんだよ、気持ちわりぃ……』
『デレてねぇよ、あほ。じゃあな』
『おう!』
一昨日に莉緒と北海道へ行きたいと話をしていた矢先にこいつは向かっている。
俺は「はあ、」と深いため息を吐いて弁当を食べ終え、窓の外を眺めた。
「あ、陵矢先輩~。ちょっといいですか~?」
俺は声が聞こえた方に顔を向ける。
そこには教室の入り口で陽菜ちゃんがこちらを見つめていた。
「陽菜ちゃん、どうしたんだ?」
俺が返事をすると陽菜ちゃんが俺の席まで近づいてくる。
「先輩って今日の放課後は時間ありますか?」
「ああ、今日は特に用事はないかな」
今日は部活が休み。帰ってゲームでもしようかと考えていた。
「ほんとですか!?えっと……もし宜しければなんですけど……」
「ん?どうした?」
いつも白くて綺麗な陽菜ちゃんの頬が少し火照っている。
そして身体をもじもじさせたまま、次の言葉が出てこない。
「……その……ですね」
「うん?」
「……か、買い物に……つ、付き合って欲しいんです……!」
ようやく陽菜ちゃんの口からお願い事を聞くことが出来た。
「いいよ。どこに行きたいんだ?」
俺には断る理由もないので承諾して話を進めようとする。
「……はあ……やっぱり駄目ですよね。私なんかと行きたくないですよね……」
「……え、だから、いいよって言ってるじゃん」
「出掛けるなら莉緒との方がいいですよね……」
陽菜ちゃんが俯いてがっかりとしている。
「……あの、陽菜さん?僕はさっきからいいよって言っているんですけど」
「……え?いいいんですか!?」
陽菜ちゃんは俺の机に勢いよく手をつき、目を見開いて驚いている。
「いやいや!こっちが「え?」だよ!さっきからそう言ってるじゃん!」
「ご、ごめんなさい!てっきり断られるものだとばかり思っていたので……」
「断る理由がないだろ。妹の友達のお誘いだぞ?」
「そ、そうですか!ありがとうございます!」
陽菜ちゃんの顔から微かだが、笑みが零れる。
「――それでどこに行くんだ?」
「そうですね……。秋葉とか行きませんか?」
「秋葉か。俺も最近行ってないし久々に行きたいな」
実は陽菜ちゃんは見かけによらず意外とアニオタなのだ。
以前に莉緒と三人で出掛けた時もかなり興奮していたのを思い出す。
「じゃあ決まりですね!」
「ちなみに莉緒も一緒に行くのか?」
「いえ、莉緒は行きませんよ?今日は先輩と私だけです」
思わぬ発言に俺の顔は青ざめ、そして一瞬だが思考が停止した。
「……どうしてだ?」
当たり前だが、俺は陽菜ちゃんに疑問をぶつける。
「どうしてって。私が先輩と二人で出掛けたい、ただそれだけのことです」
「俺はその出掛けたい理由を聞いているんだけど……」
「私が先輩と二人で出掛けたいと思っちゃいけないんですか?」
「そういうことではないけど……」
陽菜ちゃん、いきなりどうしたのだろう……。前までは俺に対してここまで積極的に話かけてこなかったんだけどな。
最近は俺が莉緒に攻撃される度に助けてくれているが、それまでは俺と莉緒が喧嘩しているのをただ見ていただけだったのに。
「それとも私と二人で出掛けることを莉緒に知られたくないとか?」
「その気持ちは少なからずある」
――――というか、他の女の子と出掛けないでと約束した記憶がある。
「その辺は私に任せておいてください。上手く誤魔化しておくので」
俺は前にも同じ台詞を聞いたことがある。しかし、そいつは任せてと言っておきながらあっさりと引き金を引いて大惨事を引き起こした。
「……ほんとに任せて大丈夫なんだな?」
「はい!放課後に上手くやっておきます!」
「分かった。よろしく頼むぞ?」
「了解ですっ!それでは放課後に昇降口でお待ちしてますね!」
スキップをしてご機嫌良さそうにして陽菜ちゃんは出て行く。
そして、俺はもう一度窓の外を眺めることにした。
「――バレないといいいんだけどな……」
俺は不安を抱きながら小さな声で呟く。
バレたら一体どうなってしまうのだろう。
一方。
スキップしながら陽菜は自分の教室へと戻っている。
「ふふふっ。最初はどうなるかと思ったけど、どうにか陵矢先輩と二人で出掛けられるようになって良かった……。私の目標のための第一歩、頑張らなくちゃ……」
この陽菜の想いを陵矢はすぐに知ることになるのだ。
陽菜は陵矢が金髪ツインテールにしか興味ないことも重々承知している。しかし、自身が陵矢を好きだというこの気持ちを伝えなければ前に進めない。
本当に『恋』とは難しいものだ。
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