第17話 義妹と原宿デート その1

 金曜日の夜、俺は莉緒と夕食をとっていた。

 明日は休みだ。今週も莉緒に散々蹴られて全身ボロボロになっている。


「ねぇ、お兄ちゃん。明日買い物行かない?」


「買い物?どこに行くんだ?」


「……原宿。誰かさんのせいで先週行けなかったから」


 莉緒が少しいじけた表情をする。

 家でゆっくりしたかったが、さすがにここで断ることは出来ない。

 

「……ああ、そうだったな。明日は絶対に行こうな」


「うん!やったぁぁぁぁ!明日はお兄ちゃんとデートだ!」

 

 莉緒は喜びを頬に浮かべる。てか、デートじゃねぇよ。普通の買い物のだろ。


「あっ、今言うことなのかは分からないが言ってもいいか?」


「うん?いいよ?」


「俺は今まで通りの服でもいいかなって思い始めたんだが、お前はどう思う?やっぱり新しい服欲しいか?」


「うーん……お兄ちゃんが今までの服でもいいって言ってくれたのは予想外なんだけど。一体どういう気の変わりようなの?」


「俺がお前の着る服を強制するのもどうなんだろうってな。確かに露出の少ない服にしては欲しいが、今持ってる莉緒の服も全部見たいなって気持ちもあるんだよな」


「なるほどね。つまりお兄ちゃんはエッチな私をもっと見たいってことだね?」


「あながち間違ってはないが、そういうことだな」


「このお兄ちゃんのえっち!変態!えろシスコン!」


 ちょっと待て、えっちと変態まではまだ分かる。

 えろシスコンってなに。そんな単語は今まで聞いたことねぇよ。


「……まあ、なんとでも好きに呼べばいいさ。どうするんだ、服は買うのか?」


「服は……買う!」


「買うのかよ。別にいいんだぞ、今まで通りでも?」


「えー、だってさ。お兄ちゃんが着て欲しい服を私は着たいし。今の服と新しい服の私を見れるから一石二鳥じゃない?」


 莉緒からの提案に数秒間、頭を悩ませる。

 言われてみればそっちの方が莉緒を数百倍は楽しく見ることが出来る。


「よし、分かった。買いに行こう」


「決まりだね!……あっ、そうだ!明日の服装は絶対に先週と同じやつにしてね!?」


「どうしてだよ」


「この前のお兄ちゃんカッコよかったんだもん。だから明日は一緒に街中歩きたいの。私のお願い、聞いてくれるよね……?」


 明日はパーカーでラフな格好にしようと思っていたんだが……。

 莉緒にそう言われてしまうと同じ服にするしかないな。


「お前にその顔で見つめられて俺が断れるわけないだろ。明日は俺もお前も先週と同じ服でいいんだな?」


「うん!それでいいよ!」


「でも、俺が着るのに一つだけ条件を付ける」


「どうして素直に受け取ってくれないの!」


「条件付けた方が面白いだろ?」


「そうだけど今はいらないよー!」


「はいはい、ちなみにその条件は俺にスマドラで勝つだ」


 俺は莉緒の反応を無視して条件の提示をした。

 ちなみにスマドラとは、キャラを選択して一対一で闘うバトルゲームである。


「いいよ!ご飯終わったらすぐに始めるからね!」


 そして、明日の服を懸けて俺達の闘いは始まる。

 ルールは三ラウンド制で二点先取した方の勝ちだ。


「さて、頑張って勝てよ。俺は手加減しないからな」


「お兄ちゃんの服が懸かっているからね!負けるわけないよ!」


 莉緒の闘志に火が付いた。


「服なんて別のでもいいと思うんだけどな……」


「お兄ちゃんは乙女心を何も分かってない!カッコいい姿をもう一度見たいと思うのは当たり前のこと!私は今すぐにでも着替えて欲しいんだよ?」


「今すぐはさすがに嫌だな……」


 先週は出掛ける直前に莉緒を怒らせてしまった。

 明日は何も問題が起きず、家を無事に出れることを願うばかりである。


        *


 次の日、俺達は電車を乗り継いで原宿に着いた。

 昨日の闘いに敗れたため、莉緒の要望通りに今日は先週と同じ服を着ている。


「あと少しで勝てたんだけどな……」


「惜しかったね。お兄ちゃんは相変わらず詰めが甘いよ」


 闘いは第三ラウンドまで持ち越された。

 ギリギリの攻防の末、莉緒の攻撃をかわし切れずに俺は敗北。


「同じ服を着ていることよりも負けたことの方が何倍も悔しい」


「まあまあ、いいじゃん。お兄ちゃんカッコいいよ!」


 ブルーのシャツに黒のジャケット、黒のスキニーパンツ。先週と同じ服だ。


「……今言われたって嬉しくねぇよ……」


「もう素直じゃないんだから。早く機嫌直さないとキスしちゃうぞ?」


「うるせぇ!こんなとこでやろうとするんじゃねぇよ!早く服買いに行くぞ!」


「はーい」


 そして俺達は莉緒のおすすめの洋服屋さんへと歩き始めた。


「お兄ちゃん、ここだよ!」


 着いたのは駅から徒歩十五分の場所に小さなお店だった。


「お前のおすすめのお店、随分と小さいんだな」


「見た目で判断しちゃだめだよ。まずは入ってからね」


「分かったよ」


 入って俺は商品の数に驚いた。この店内にぎっしりと置かれている商品の中から購入するものを選ぶのは容易ではない。


「じゃあ、この中からお兄ちゃんが私に着せたい服選んでね」


「まじでこの中から選ぶのかよ!?」


「そうだよ?私だっていつも選んでるんだから。丸一日掛かるけどね」


 莉緒で一日掛かるなら俺が選んだら明後日になってるぞ。

 

「……とりあえず、頑張って見るわ」


「うん!よろしくね!私も自分で探しては見るからね」


 こうして俺達は別々に分かれて服選びを始めた。

 

「なあ、莉緒。このジャージはどうだ?」


「お、いいんじゃないかな?私こういうの持ってないし」


 俺が見せたのは尻が隠れるくらいまで丈があるグレーのジャージ。


「お兄ちゃん中々いいセンスしてるね。これに厚底スニーカー合わせるとまさに地雷系コーデになるね」


「そうなんだよ!俺はそれが見たい!金髪ツインテールに地雷系コーデ、似合わないはずがないだろ!?」


 正直、自分でも引くくらい俺は食い気味で答えた。


「はいはい、お兄ちゃんが見たいなら買うしかないね」


「やったぁぁぁぁ!」


「この調子で色々選んでね。ここ価格も安いから五着くらいは選んでいいからね」


「りょうかいした!」


 一着目がすんなりと決まり、俺は二着目を選び始めた。

 これだけ服があると、全部が莉緒に似合う感じがしてしまう。しかし、その中で最も似合う服を俺は莉緒に着せてあげたい。

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