第16話 義妹討論(2)と陽菜の想い

 莉緒と一緒に風呂に入った次の日。

 昼休み中、俺は詩音に以前と似たような質問をしていた。


「――なあ、詩音。お前は義妹が出来たら一緒に風呂に入るか?」


「おい、陵矢ちょっと待て。一体なんなんだ?その質問は?」


「お前ならどうする?入るか?」


「人の話を無視して勝手に話を進めようとするな。本人の許可を得てからにしろ」


 詩音は俺のすねを軽く蹴る。軽くといってもピンポイントに狙って蹴ってくるためかなり痛い。


「ああ、すまんすまん。それでお前は入るのか?」


「……陵矢。お前、人の話聞いてたか?」


「聞いてる、ちゃんと聞いてる」


 俺は大好物の莉緒手作りのだし巻き卵を食べながら棒読みで答えた。


「それなら俺が何て言ったか言ってみろよ」


「俺は義妹が出来たら一緒にお風呂に入りたいですって言った」


「なんでそこまで話が進んでんだよ!誰もそんなこと一言も言ってねぇだろ!」


「いや、そんなことないさ……。詩音の心の声が俺にそう訴えかけてきたのさ……」


「お前はいつからメンタリストみたいな力を手に入れたんだよ……」


「クククッ……!我は人の心を操りし者!ゲノム!」


「陵矢……。俺、お前の友達やめようと思うんだがいいか……?」


「冗談だって!詩音悪かったって!真面目に話するから!」


 友達がいきなり話聞かなくなったり、中二病になったりすると、人って友達やめようとするんだな。いい勉強になった。

 詩音の氷のように冷たい眼差しがその証拠だ。


「それで、お前は義妹と風呂に入ったんだな?」


「……え?」


「お前は莉緒ちゃんと風呂に入ったんだろ?そうでもないと、お前は俺に聞いてこない」


 さすが詩音だ。俺の考えと行動を全部見抜いてやがる。


「そうだ。俺は昨日、莉緒と一緒に風呂に入った。そしてお前ならどうするのか気になったから聞いてみたんだ」


「もう否定することすらしなくなったんだな……。俺は悲しいぜ……」


 詩音は両肘を机に置いて頭を抱えていた。


「いやぁ、事実だしさ。お前になら言っても別にいいかなって」


「言う言わないは別として。さすがに展開が早くないか?お前ら生活初めて今何日目よ?」


「今日で十一日目かな」


「まだ十日ちょっとだろ?いくら兄妹になったからって元々は赤の他人なわけだしよ。どうやったらそうなるんだ?教えてくれよ?」


 そして、俺は昨日莉緒の下着姿を見てしまったことから順に説明した。


「大体の流れは分かった。だけどよ、お前はもう少し自分の気持ちを抑え込んだ方がいいんじゃないか?」


「無理だ、それだと莉緒が悲しむことになる」


「そうか……。お前の評価が下がっていく一方だがそれでもか?」


「俺の中では友達の評価よりも莉緒の評価の方が大事だ」


「……それならこれ以上は何も言わねぇよ。精一杯ラブラブしてくれ」


 詩音は半分諦めた表情で俺に言葉を吐き捨てた。


「……なあ、詩音。俺達……友達だよな……?」


「はあ?何言ってんだよ。当たり前だろ。お前が莉緒ちゃんの方が大事って言った時は少し寂しかったけどな」


「そ、それは……すまん」


「なに謝ってんだよ。それがお前の気持ちなんだろ?なら最後まで筋を通せよ。莉緒ちゃんの兄として、彼氏としてさ。そうでないとぶん殴るぞ?」


「ああ、そうだな。詩音ありがとう」


「なんでありがとうって言われてるのか分からないが受け取っておくわ。……あっ、あと言い忘れてたけどよ」


「なんだ?」


「俺は血の繋がった妹いるからな」


「は……?」


 詩音のいきなりのカミングアウトに俺の箸が止まった。


「中学生の妹が二人いる。ずっと黙ってて悪かったな」


「……」


 状況の整理が出来ない俺は下を向き黙り込んだ。


「お、おい?陵矢、大丈夫か?」


「――っさん……」


「なんだって?」


「許さねぇ!詩音!」


「ちょ!な、なにすんだ!陵矢!」


 俺は詩音に飛び掛かり得意の十字固めを決めた。俺が妹が出来て嬉しがっていたことを詩音が高見の見物していたことが一番許せない。


「おい、詩音。妹を一人くれ」


「無理に決まってんだろ!……ってか痛てぇよ!そろそろ離せよ!」


「じゃあ一人くれ。無理ならもっときつく締め上げる」


「ギ、ギブ!ギブ!もう無理だって!」

 

 俺と詩音の攻防は昼休み終了まで続いた。


        *


 今日の部活は急遽、莉緒ではなく陽菜ちゃんとペア練習をすることになった。どうやら莉緒が委員会で部活に遅れるらしい。


「陽菜ちゃん、今日はよろしくな」


「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」


「いつも通りやってくれればいいから。陽菜ちゃんなら特に問題ないでしょ」


「多分、大丈夫だと……思います!」


 少し陽菜ちゃんは戸惑いながらも返答をする。

 そして俺達は一対一で打ち合いの練習を始めた。


「陽菜ちゃん、普通に上手いじゃん!」


「そ、そうですか!?」


「うんうん!莉緒の百倍は上手い。いつから始めたの?」


「私は中学からです。一応、県大会も出たことあります。初戦負けでしたけど……」


「県大会出てんの!?凄いじゃん!通りで上手いわけだ。俺も中学からやってんだけど県大会は一回も出れんかったわ」


「先輩も中学からやってたんですね!動作に無駄がないのでやってたのかなっては思ってました!」


 こんなに会話をしながらでも俺達はしっかりと胸にシャトル打ち返していた。莉緒とやってもこんなに続くことはないだろう。

 久々に練習が楽しい。それはきっと陽菜ちゃんが上手だからだ。しかし、陽菜ちゃんと練習していても何か物足りない。


――――ガシャン!


 体育館のドアが開くと同時に求めていたものが俺のところに飛んできた。

 

「おーーーにーーーいーーーちゃーーーんーーー!」


 俺を呼ぶ莉緒。そして、俺の背中に飛び蹴りの衝撃が走る。俺は体育館の床に倒れ込み壁に激突して止まった。


「りょ、陵矢先輩!」


「陽菜!なんでお兄ちゃんと練習してるのよ!」


 俺を助けようとした陽菜ちゃんを莉緒は呼び止めた。


「莉緒が遅くなるから私が代わりに練習相手になってたんだよ」


「お兄ちゃん!ほんとに!?」


「……」


 俺は予想以上の衝撃で声が出ない。壁に激突して身体中が痛い……。


「莉緒ちゃんのせいで先輩話せなくなってるじゃん!早く保健室連れて行かないと!」


「陽菜は手を出さないでよ!私のお兄ちゃんなんだから!」


「莉緒に任せたら先輩また怪我しちゃうかもしれないじゃん!私が連れて行く!」


「私来たんだから陽菜はペアの人と練習してなよ!なんでそんなにお兄ちゃんにこだわるの!」


「べ、別にいいじゃん!私がそうしたいんだから!」


「お、おい……。二人とも……喧嘩してないで。早く俺をどうにかしてくれ……」


 いつまでも経っても助けて貰えなそうな雰囲気。

 俺は最後の力を振り絞り、声を張り上げた。


「ごめんね!お兄ちゃん!すぐに保健室に連れて行くからね!」


「――あっ……」


 陽菜よりも先に莉緒が動く。そして俺達は保健室に向かった。


「……せっかくいい感じで陵矢先輩と練習出来ていたのに。どうしていつも莉緒はタイミングよく出てくるのかな。私はもっと陵矢先輩と一緒にいたいのに……」


 陽菜の陵矢へ対するこの想いはまだ誰も知らない。









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