第15話 義妹とお風呂 その3
「どうしてお前は俺と向かい合って入っているんだ!」
「え?だって、その方がお兄ちゃんの顔見れるし、お互い話しやすいかなと思って」
「まあ、それはそうなんだが……」
莉緒の家の風呂は向かい合って入れるほどの大きい湯船だ。しかし、向かい合うということは莉緒の身体が全部見えてしまう。
「ねえ、お兄ちゃん?どこ見てるの?」
「……あっちの方」
「私と一緒に入っているのに別の方を見るなんていい度胸してるんじゃない?そんなに私に魅力ないかな?」
「別にそういうわけじゃないが……」
魅力なら十分ある。今なんて特にそうだ。濡れた金髪、少し火照った頬、顎の水滴が胸に落ちて「ポタンッ……」と音を立てる。俺は目のやり場に困っていた。
「なら私のことをちゃんと見てよ」
「一つ聞くけどよ。お前は俺に裸見られて恥ずかしくないのか?」
「んん~、恥ずかしくはないかな。だって好きな人に見られるなら本望じゃない?」
「分からん。そういうものなのか?」
「そうなんだよ。逆にお兄ちゃんは私の全裸見たくないの?」
「見たくないと言ったら嘘にはなるが……」
「でしょ?お兄ちゃんが見たいって思っているなら私だって見せるよ」
「お前はほんとに俺のこと好きなんだな」
「当たり前じゃん!大好きだもん!お兄ちゃんだって大好きなくせにさ」
「……愚問だったな。俺もお前が大好きだ」
俺は頭の後ろに腕を組み、天井を見上げて気持ちを落ち着かせた。
「そういえば前から聞こうと思っていたんだが、お前はどうしてツインテールにしたんだ?」
「えっとね、あれは確か小学生の時だったかな。実は私好きな人がいてね」
「……あっ、辛い話なら無理にしなくてもいいからな?」
「心配しなくても大丈夫だよ、お兄ちゃんありがとね」
そう言うと莉緒は話を続けた。
「それで私は思い切って告白してみたの。でも彼は「俺は金髪は好きだ。でも、ツインテールじゃなきゃ俺は嫌だ」って言われちゃって振られちゃったの」
「まるで俺みたいなやつだな」
「そうだね。それで私、彼に聞いたの。どんなツインテールが好きなのかって。そしたら今の私みたいな感じが好きだって言うから必死に練習してもう一度告白しようとしたの」
「だめだったのか?」
「うん、彼が転校しちゃってその機会が無くなっちゃったの。それ以降、私は彼のことが忘れられないでいるの」
「そういうことだったのね。じゃあ元々はストレートヘアだったのか?」
「そうだよ。でもね、この金髪が当時は悪い意味で目立っちゃってさ。私結構いじめられてたんだよ」
「金髪の良さが分からないなんて本当にクズな奴らだな。俺だったら絶対に許さん」
「それで助けてくれたのが彼だったの。今のお兄ちゃんみたいに「お前らはなんで金髪の良さが分からないんだ!」って言ってね。凄くカッコよかった」
「じゃあ、今のお前があるのは彼のおかげなんだな。俺も感謝しなくちゃだな」
「え?なんでお兄ちゃんが感謝するの?」
「当たり前だろ。お前が金髪ツインテールで俺の目の前に現れたから、今こうして一緒に居られるんじゃないか」
「……その言い方だと私が絶対にツインテールじゃないといけないみたいな感じだよね?」
「ああ、確かにそうだな。でも今の莉緒を見て思ったよ。お前はそのままの姿でも十分に可愛いよ」
「い、いきなり、そういうこと言うのは反則だよ……お兄ちゃん……」
「え?可愛いから可愛いって言ったんだが変だったか?」
「変とかそういうことじゃなくて!もうお兄ちゃんのばか!普通タイミングってものがあるでしょ!?」
莉緒の火照った頬が更に赤くなった。それは顔全体にまで広まり赤く染まった。
「お前、もしかして照れてるのか?」
「て、照れてないし!ちょっとのぼせただけなんだから!勘違いしないでよね!」
「まあ、お前のストレート姿も可愛いよ。それでも俺はツインテールにこだわりたい。だから、これからも両サイドにしっかり結んでおいてくれよ。莉緒よろしくな」
「……そ、そんなこと、言われなくたって当たり前のようにやるわよ。……お兄ちゃんのためだもん……」
「ありがとな、莉緒」
俺は穏やかな笑みを莉緒に向けた。
「お願いだから!そんな表情で私を見ないでよ!恥ずかしいじゃん!」
莉緒は慌てて湯船の中に顔を沈めた。たまにこうして恥ずかしがることがあるが、その理由を俺は未だに分かっていない。
「……お兄ちゃんはそういうところ直した方がいいよ」
「どういうところだ?」
「そういう鈍いところ。朴念仁(ぼくねんじん)って言うのかな。絶対に直した方がいいよ?」
「直す必要あるか?別に俺は困らんし」
「私が困るんだよ!お兄ちゃんのばか!」
昔話をしたり、少し恥ずかしい思いをしながら入った兄妹初めてのお風呂はこうして終わりを告げた。
最後にお互いの髪を乾かし合いをして、無事に俺は部屋へと戻ってきた。
「妹と入る風呂も悪くないな。また一緒に入りたいもんだな」
「またと言わず明日からずっと一緒でもいいんだよ!お兄ちゃん!」
「うわっ!お前いつから聞いてたんだよ!」
いきなり聞こえた莉緒の声に俺は驚き、少し声が裏返った。
「最初からだけど?でもまた入りたいって思ってくれたなら私は嬉しいよ」
「そうか。まあ、入れるかどうかは俺の気分次第だ。毎日は勘弁してくれ」
「えー、お兄ちゃんのケチ〜」
「入ってくれるだけ有難いと思え。そして早く寝ろ。夜更かしは美容の大敵だぞ?」
「だね!おやすみ!お兄ちゃん大好き!」
「ああ、おやすみ。俺も大好きだ」
残っていた宿題を終わらせて、俺はようやくベッドに横になった。
だが、一つだけどうしても引っかかることがあった。それは莉緒の告白のことだ。
「莉緒は好きな人がいたと言った。そして小学生の時に俺に告白してきた奴が一人だけいた。その時はあんまり恋愛とか興味が無かったから断った気がしたが……」
俺の金髪ツインテール好きが始まったのは幼稚園からだ。それ以降、俺は愛し続けている。
今思い出すと小学生の時に金髪の女子が一人だけいたような記憶がある。告白してきたのは確かその子だった。
「莉緒の言っていることが正しければ、あの時に告白してきたのは莉緒という事になる。そして俺は小四の時に一度引っ越している。これは何かの偶然だろうか……」
これはさすがに考え過ぎだろうという結論に至り、俺は眠りについた。
そして、この謎は解明されることなく俺達の生活は進んでいくのであった。
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