第11話 義妹と喧嘩

 俺はブルーのシャツに黒のジャケット、黒のスキニーパンツという少し大人っぽい服を選んだ。せっかく原宿まで行くのだから多少のおしゃれは必要だ。

 リビングに下りると莉緒がすでに待っていた。


「あれ?お兄ちゃん、昨日と違ってカッコいい服着てるね」


「そうか?まあ、俺あんまりおしゃれしないからな」


「カッコいいよ!いつもおしゃれすればいいのに~、勿体ないよ~」


「俺はいつものパーカー着てれば良いんだよ、落ち着くし。それにしても莉緒は随分と落ち着いた服にしたんだな」


「お兄ちゃんが露出少ない方が良いって言うからそうしたんだよ。この服探すの大変だったんだから感謝してよねっ!」


 莉緒は白のオフショルニットに茶のロングスカートと昨日とは違ったコーディネートだった。露出は昨日に比べてると肩だけになったので一安心かな。


「そうだったのか、ありがとな。似合ってるし可愛いぞ」


「ほ、褒めたって何もあげないんだからね!可愛いのは当たり前なんだし!」


 自分で可愛いとか言うなよ……と俺は言ってしまいそうになった。しかし、莉緒が何やら満足げな表情をしていたため、俺は口には出さなかった。


「でもそのくらいだったら俺は全然良いと思うぞ?昨日のはさすがに露出が多すぎだけどな」


「お兄ちゃんの基準が分からないよ~、どうしてこれは良くて昨日のはダメなの?肩を出すのは良いって事なの?」


「ワンポイントだった良いかな。今回は肩だけだから大丈夫。それに肩出しってちょっとエロいしな、俺は好き」


「それって完全にお兄ちゃんの好みじゃん!」


「――あっ……いや、違うんだ!今のは確かにそう聞こえたかもしれないけど!」


「違くないよ!肩出しに関してはお兄ちゃんの好みなんでしょ?俺は好きってはっきり言っちゃったもん!」


 ここまで言われると返す言葉も無い。


「――という事でお兄ちゃんの好み、教えてよ?」


「教えてどうするんだ……?」


「私はお兄ちゃんが考えている完璧な女性になるの」


 言ってることがさっぱり理解できない。俺が考えている女の子になるって一体どういう事なんだ……?


「莉緒、もう少し具体的に頼む」


「……え?分からなかった?私はお兄ちゃんの理想の女性になりたいの。容姿は文句ないでしょ?だから後は身だしなみだけ。それを教えて欲しいって事だよ」


「そういう事ね。でも、なってどうするんだ?」


「そこまで言わなきゃ分からないの!?もしかして、私がお兄ちゃんを好きなこと忘れてるでしょ?」


 ――――俺はすっかり忘れていた。


「……もしかして、本当に忘れてたの!?信じられないんだけど!」


「い、いや……!ちょっと待ってくれって!」


「待たないよ!私の今までの行動なんだと思っていたの!?好きじゃなかったら、キスだってしてないよ!」


「ご、ごめん……」


「謝って済む問題じゃないよ!もう……私、馬鹿みたいじゃん!」


 莉緒は涙を流してリビングから出て行ってしまった。


「――やっちまった……」


 俺は急いで莉緒の後を追った。そして莉緒の部屋の前まで来た。


「莉緒、入るぞ……?」


 俺がドアノブに手を掛けた時、


「入らないで!お兄ちゃんなんて大っ嫌い――!」


 莉緒の言葉は心の奥底に深く突き刺さった。妹に嫌いって言われることが、こんなにも辛いことだとは思わなかった。


「莉緒、入らないからさ。俺の話だけでも聞いてくれないか……?」


「……」


 莉緒からの返答は無かったが、俺は一先ずドアの前に座り込んだ。


「さっきはお前の気持ちを踏みにじるような事して本当にごめん。今までの行動を考えれば、莉緒が俺を好きなことは分かっていて当然のことだよな」


「……今そんなこと言ったってもう遅いよ」


「確かにそうだよな。でも俺がその気持ちを忘れてしまっていたのにも理由があるんだ。俺は莉緒のことを「義妹」か「一人の女性」か、どっちで見れば良いのか悩んでいた。それで少し自分の感情が整理出来なくて……。本当にごめん……!」


――――ガチャ……。


 ドアが開く音がした。振り返ると莉緒がいた。


「……入って。ちゃんと話しよ……」


「――あ、ああ……」


 莉緒がベッドに座り、俺は少し離れて隣に座った。


「……お兄ちゃんは私のこと好き?」


「好きだよ」


「それは妹として?それとも一人の女性として?」


「……それが分からないんだ。確かに俺は妹になる前のお前を恋愛感情で見ていた。でも、妹になってから兄妹ってどこまでの関係でいれば良いのかって考え始めたら、わけがわからなくなったんだ……」


 両手で顔を隠し俯いた俺に、莉緒は優しく抱き着いてきた。


「何もそこまで難しく考える必要ないじゃん。私達は私達で二人だけの関係を作っていけばいいんだよ。好きなら好きでそれで何も問題ないんだよ?」


「でも、妹に恋愛感情を持つのって変じゃないか……?」


「ほんとにお兄ちゃんは頭硬すぎ!私達は血が繋がっているわけでもないんだよ?その時点で一般的な兄妹とは違うんだから、恋愛感情を持っていたって良いんだよ!」


「常識的に考えた時にそれは大丈夫なのか……?」


「もう!私達はそういうので考えたらダメな部類なの!いい加減理解してよ!考えたって答えは出てこないし、自分の気持ちを殺し続けるだけだよ!?」


 莉緒の言っていることは正しかった。このまま考えていても俺の答えは確かにでてくるはずがなかった。


「――なら、どうすればいいいんだ……?」


「簡単だよ、私を前と同じく「一人の女性」として見ればいいいんだよ」


「だから……それが出来たら苦労してないんだって……」


「私のこと好きならそれくらいしてよ、ヘタレお兄ちゃん」


「だ、誰がヘタレだ!」


「ヘタレじゃん!言われたくないなら早く証明してよ!ヘタレ!」


「好き勝手言いやがって……!この野郎……!」


 俺は抱き着いていた莉緒を振りほどき、押し倒した。


「――へえ……ここまでは出来るんだね。この後はどうするの?」


 俺に馬乗りされた状態でも莉緒は未だに余裕の表情を見せていた。

 正直、俺はこの後何をすればいいのか全く考えていなかった。


「何もしないの?キスしてもいいし、おっぱい触ってもいいし、お兄ちゃんの好きにしていいんだよ?ほら、早く……」


 ここまで来て俺も後には引けなかった。

 俺はゆっくりと莉緒の唇に近づきキスをした――。

 十秒……経っただろうか。俺が莉緒の唇から離れようとした時、莉緒が俺の身体に抱き着いた。


「ちょ……!莉緒!離れろよ!」


「だーめ。お兄ちゃんがしたから今度は私の番だからね」


 そう言うと莉緒は顔を近づけてそのままキスをしてきた。そして口の中に舌を入れてきた。俺はそれに抗えず、莉緒が離れるまで濃厚なキスが続いた。

 俺は、もう莉緒に身を任せるしかない状態になった――。


「お兄ちゃん、私とこれ以上の関係になりたい?そう思ったら私のことは「一人の女性」として見るしかないからね。分かった?」


 莉緒が俺から離れ、頬を赤くして満足げな眼差しを送っていた。


「――分かった……」


 俺は再び莉緒に抱き着いてキスをした。


「――え……?お兄ちゃん……?」


「俺はもう我慢しない。お前は俺の妹だ。だけど俺はお前のことが好きだ。そして愛している」


「私もだよ……!お兄ちゃん……!愛してる!」


 買い物に行く予定だったが、部屋でお互いの愛を確かめ合うという全く関係のないことをした。しかし、これが無駄だということでは決してない。

 俺達の気持ちが今日で全てまとまった。俺達は兄妹という関係でありながら、互いに恋愛感情を抱いている。周りがどう思おうと構わない。俺達は俺達だ。二人の考えで生きていけばいい。何も難しく考える必要はなかった。

 そして俺は二度と言わないと誓ったが、今ならもう迷うことなく言える。


――――俺は莉緒のことを世界で一番愛している。

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