第10話 義妹とゲーム

 次の日、俺達はリビングで「ジェットカート」というゲームをやっていた。

 このゲームは車で順位を競い合うゲームで、俺達の世代なら誰もが一度はやった事がある名作中の名作である。

 

「あっ!おい!俺に赤甲羅ぶつけるな!」


「ごめんね、狙ったわけじゃないんだよ~」


「それなら、これでも食らえ!」


「ちょっと!お兄ちゃん!青甲羅は卑怯だって!一位だったのに~」


「俺はやられたらちゃんとやり返すんだよ!」


 一レース目は俺が一位で、莉緒が二位だった。


「妹が兄に勝てるわけないだろ~」


「悔しい~!次のレースは私が勝つ!」


 そして、お互いに甲羅をぶつけ合い、暴言を吐きながら四レースを走り終えた。結果は俺が四十五ポイントで一位、莉緒が四十ポイントで二位だった。


「俺の完全勝利だ!やったぜ!ふうぅぅぅぅ!」


 俺は両手を天井に突き上げて雄叫びを上げた。最近のストレスが一気に吹き飛んだ気がした。それくらい気持ちの良い勝利だった。

 

「お兄ちゃんに負けるなんて思わなかった!しかも一回も一位取れなかったし!悔しすぎるよ~!」


 莉緒はソファに飛び込んで身体をジタバタとさせて悔しさを露にした。


「どうする?勝つまでやるか?」


「もちろん!絶対に勝つ!」


 莉緒は闘志を丸出しにして再びコントローラーを握った。

 だが、その後もレースを続けたが莉緒が勝つことは無かった。


「莉緒?生きてる?」


「……」


 負けたショックが大きすぎたのか、莉緒がカーペットにうつ伏せの状態になったまま、ぴくりとも動かない。


「莉緒さ~ん?もう勝負はいいんですか?」


「……」


 返答が無い。もうすぐお昼になるし、ご飯作って欲しいんだけどな。仕方がないので俺は莉緒を復活させる呪文を唱えることにした。本当は気が乗らないんだけどね。

 

「……莉緒、……愛してるよ……」


 俺は莉緒の耳元まで近づき囁いた。


「え!?あっ!お兄ちゃん!今なんて言ったの!?」


 無事に莉緒が復活を遂げた。

 

「莉緒、お腹空いた。お昼ご飯作って~」


「違う!その前に!今お兄ちゃんなんて言ったの!?」


「何も言ってないけど?」


「嘘だ!耳元でお兄ちゃんの声が聞こえたもん!」


「気のせいだって」


「そんな筈ない!なんかすっごく重要な事だった気がする!」


「気がするって言ってる時点でダメじゃん。ほら早くご飯作ってよ」


「そんな……、もう一回言ってよ!お兄ちゃん!」


「早く、ご飯作ってくれよ~」


「教えてよ~!お兄ちゃんのばかばかばかぁぁぁぁ!」


 莉緒は赤らめた頬を膨らませて拗ねた表情で俺の胸を叩いた。

 俺自身、多分使う事はもう無い言葉だろうから莉緒に覚えられていなくて本当に良かった。義妹に対して「愛してる」なんて俺は二度と言わないからな。


 ……そんな風に言い切った俺だったが、再びこの言葉を使う日が来るなんてこの時の俺は一ミリたりとも思っていなかった。

 

        *


 お昼ご飯の最中に、俺は莉緒に気になっていた事を訊ねた。


「そういえば、お前の私服の件だけどさ。もう少し露出の少ない服買わないか?」


「服ね。今のままじゃダメなの?」


「さすがにあの服装で俺は一緒に出掛けたくないかな」


「でも可愛いのばっかりだし。良いと思うんだけどな」


 莉緒はそう言うが、昨日みたいな服装で隣を歩かれると俺の周りへの気配りが大変になる。そんな事をするくらいなら新しい服を買って貰った方が俺としても助かる。


「正直に言うぞ。昨日、お前のことをジロジロといやらしい目で男達が見ていたのを知ってるのか?」


「もちろん、知ってるよ?だっていつも見られてるし」


「……知ってるなら、どうして買おうと思わないんだ……」


「さっきから言ってるじゃん、可愛いからって。多少の露出も恥じらいもオシャレの一つなんだよ?お兄ちゃん知らないの?」


 確かに見ている分には可愛いとは思っている。昨日の莉緒の姿も十分可愛かった。 

 だが俺がそんな事知るわけないだろ。女子がどんな気持ちでそういう服を着ているのかなんて俺は考えたことない。


「だけどな……。莉緒のことをジロジロ見られるのが俺は面白くない」


「お兄ちゃんって、もしかして独占欲強いの?」


「べ、別にそういうわけじゃねぇよ!俺はただお前を心配してるだけだ!」


「心配?なんで?」


「だ、だって、お前が一人で出掛けた時に知らない男共に声掛けでもされていたらって考えたら兄として心配になるだろ」


「でも、そうならない様に一緒に来てくれるんじゃないの?そして昨日みたいに皆を追い払ってくれるんでしょ?」


「お前、気付いていたのか……?」


「当たり前じゃん、ずっと隣にいたんだもん。ありがとね、お兄ちゃん」


 莉緒は満足そうに顔をほころばせた。


「……礼を言われる事じゃねぇよ。兄として当然の事をしただけだ」


 俺は頬を人差し指で触り、照れ隠しをした。


「まあ、そこまで言うなら私はお兄ちゃんの意見に尊重してあげようかな。見てるとお兄ちゃんも大変そうだったし」


「本当か!?」


「うん!じゃあ今から行くよ!」


「今からどこにいくんだよ」


「決まってるじゃん!原宿だよ!早く着替えて行くよ!」


「今から行くのかよ!来週でもいいだろ!」


 今日は家でゆっくりしたのだが、莉緒を説得する事は出来なかった。

 それでも、俺の意見を聞き入れてくれたことは素直に嬉しかった。このくらい最初から素直でいてくれたら楽だったのにと俺は落胆した。

 そして俺達はすぐに原宿へ向かうため準備をした――。




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