第9話 義妹と初めての買い物

 莉緒と兄妹になってから今日で丁度一週間が経った。

 この一週間は本当に大変だった。母さんの急な再婚。その再婚相手が莉緒の父親だった事。そして莉緒が俺の義妹になり、一緒に生活する事になった事。

 一週間前ではとても考えられない事が今現実として俺の身に起きていた。


「お兄ちゃん?何難しい顔してるの?」


「いや、別に大した事じゃないさ」


 リビングのソファで俺達は二人並んで座ってテレビを見ていた。


「そっか〜、ちなみにお兄ちゃん今日暇?」


「特に予定は無いけど?」


「ほんとに!?なら買い物付き合ってよ!食材とか買わないと行けないし〜」


「なんで俺まで……。お前一人で行ってこいよ」


「だって一人じゃ寂しいし、荷物も重いんだもん〜。お兄ちゃんお願い!」


 莉緒が両手を合わせて頭を下げてきた。


「……しょうがねぇな。じゃあ早く準備しろ」


「やったぁぁぁぁ!お兄ちゃんとデートだぁぁぁぁ!」


「デートじゃねぇ!ただの買い物だ!」


 俺は自分の部屋に戻って支度を始めた。服なんて何でもいいかと思った俺はいつも着ている無地の白のパーカーに黒のチノパンにした。

 これが俺の一番動きやすく、楽で落ち着く格好なのだ。


「莉緒〜、俺は準備出来たぞ〜」


「私も準備出来たよ!」


 一階に降りて莉緒の姿を見た俺は驚愕した。


「お前、その服装で行くつもりか……?」


「え?そうだけど?変かな?」


 胸元とへそが見えるVネックでショート丈の長袖Tシャツにミニ丈のスカート、かなり露出度の高い服装だった。まさか、莉緒がこんな服を持っていたなんて……。


「もう少し露出の少ない服持ってないのか?」


「う〜ん、私こういう服しか持ってないし」


「さすがに隣をその格好で歩かれるのはちょっとな……」


 俺がこんなラフな格好なのに、莉緒がこんな目立つ格好では俺も気まずい。


「お兄ちゃん大丈夫だよ!ただの買い物なんだからさ、ほら早く行こ!」


 そして俺達は徒歩二十分位の場所にある近所のスーパーに着いた。

 道中、莉緒の事をチラチラ見る男が多数いた。俺が目で威圧すると視線を逸らして逃げて行った。こうなるから俺は露出度の低い服にして欲しかったんだよ。


「今日何食べたい?お兄ちゃん?」


「そうだな、ハンバーグいいかな」


「おっけー、じゃあ挽肉とか色々買わないとだな〜。もう冷蔵庫すっからかんだったし〜」


 そこまで冷蔵庫が空になるまで放置するなら学校の帰りにでも寄れば良かっただろ。


「後は弁当のおかずも買わないとだし、ちょっと買う物増えそうだな〜。でもお兄ちゃんが持ってくれるから大丈夫だよね!」


 最初からそのつもりで俺を買い物に誘ったんだろうが。


「結構買っちゃったね!お兄ちゃん!後はよろしく頼んだよ!」


「お、おう……」


 袋二つにパンパンに入った食材を持ち俺はゆらゆらと左右に揺れながら家まで向かった。一方の莉緒は何も持たずにのんびりと歩いていた。


「莉緒!ちょっと待て!」


「どうしたの、お兄ちゃん?」


「さすがに重い、じゃんけんで俺が勝ったら片方持てよ」


 俺はここで男のプライドを捨てる覚悟した。


「お兄ちゃん、男として恥ずかしくないの?」


「恥ずかしいもクソもない!こんな重いの両手に持って歩けるわけねぇだろ!」


「しょうがないな〜。じゃあ宣言しとくよ、私はパーを出すからね」


「よし、分かった。じゃあ俺はチョキを出す」


「「 せーの、じゃんけん!」」


 莉緒がパーを出す、俺がチョキを宣言したため、このままなら間違いなく勝ち。だが裏をかいて莉緒はきっとグーを出すだろう。そしてそこまで莉緒は計算しているに違いない、よって俺が出すのは――!


「「ぽん!」」


 俺がグー、そして莉緒はパーだった。


「私の勝ちね!引き続きよろしく!」


「ちょっと待てぇぇぇぇ!なんでお前パーなんだよ!?」


 俺は莉緒がパーを出した事に驚きを隠しきれなかった。


「なんでって、私パー出すって言ったじゃん」


「いや、確かにそうだが」


「お兄ちゃんが難しく考えすぎたからでしょ、素直にチョキ出せば良かったのにね〜」


「くそがぁぁぁぁぁ!」


 莉緒がスキップして気分良く歩いていく中、俺は荷物を持ち直して再びふらつきながら歩いて行くのであった。


「……あー!……疲れた……!」


「お兄ちゃんお疲れ様〜!ありがとね!」


「俺はもう二度とこんな重いの持たねぇからな!」


 玄関で大の字になって俺は宣言した。


「ごめんごめん。次はちゃんと計画的に買い物するからさ、次もお願い?……ね?」


 莉緒が俺の顔の前まで近づき、両手を合わせて軽く笑みを作った。

 だからさ、その表情するのは反則だってば……。


「ちゃんとやってくれるなら、また付き合ってやらんでもない……」


「なにー?お兄ちゃんもツンデレ始めたの~?」


「べ、別にデレてねぇし!勘違いすんなよ!」


「もうそれツンデレじゃん〜!お兄ちゃん可愛い〜!」


「可愛くねぇよ!ばか!」


 俺は立ち上がり、颯爽とリビングへと逃げた。


「お兄ちゃん!逃げないでよ!」


 莉緒が俺の後を追いかけリビングへとやってきた。俺は大きなミスを犯した、自分の部屋に逃げ込めば良かった。


「おい、早くそこをどけろ!」


「嫌だ!」


 廊下へ行くためのドアの前に莉緒が立っているため、俺はリビングで足止めを食らった。


「お兄ちゃんにはもう少し私と遊んで貰わないとね、自分の部屋には行かせないよ」


 この妹、本当にめんどくさい……。

 しばらく膠着状態が続き、俺が緊張のあまり一息着こうとした瞬間に莉緒が仕掛けてきた。


「よし!お兄ちゃん確保!」


「どうして、こうなるんだ……」


「さて、お兄ちゃん。どうしてあげようかな」


「……煮るなり焼くなり好きにして下さい」


「もーう、それじゃつまんないじゃん。もっとこう切羽詰まって怯えるお兄ちゃんが見たいのに〜」


 お前は一体いつからそんなドSキャラに目覚めたんだ。


「とりあえず、私のおっぱいでも見る?」


「とりあえずで見せていい物じゃないだろ!」


「えー、でも正直に言ってみなって。ほんとは私のおっぱい見たいし、揉みたいでしょ?これでも私のおっぱい意外と大きいよ?」


 それを聞いた俺は思わず「えっ?」と声を漏らしてしまった。確かに見たいし揉みたい気持ちはあるがここでしてしまったら、今後の楽しみが無くなってしまう。

 そもそも楽しみってなんだ。

 義妹に対して俺は一体どんな感情抱いたんだ、馬鹿野郎。


「ほらほら〜、今日だけ特別だよ〜?」


――――今日だけ『特別』だと……?


 その言葉に俺の手は自然と莉緒の胸へと向かっていた。


「そうそう、触っていいんだよ。お兄ちゃん」


 莉緒の胸に手が触れそうになった時、ギリギリのところで俺は理性を取り戻した。


「どりゃぁぁぁぁ!」


 俺は上に乗っていた莉緒を押し退け、自分の部屋へとダッシュで向かった。


「……はぁはぁ、また取り返しがつかなくなるとこだった……」


 今回はギリギリのところで回避出来たから良かったが、次やられた時に同じく回避出来るか自信が無かった。


「なんで……、なんで莉緒が義妹なんだよぉぉぉぉ!」


 俺はドアに寄りかかって大声で叫んだ。莉緒が義妹でなければ間違いなく触っていただろう。義妹とどこまでの関係で接していれば良いのか、今の俺にはまだ理解することが出来なかった。


『もう、お兄ちゃんのばか。あと少しだったのにさ。でも私はまだまだ諦めないからね。絶対に「義妹」としてじゃなく「一人の女性」として惚れさせてみせるからね』


 リビングで一人、自分の気持ちに嘘を付かずに強い意志を持つ莉緒であった。

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