第7話 予測不能の義妹
「お兄ちゃん!ちゃんと打ってよ〜!」
「……あぁ、悪い」
「お兄ちゃんの下手くそ!」
「下手くそはお前の方だ!何回も言わせんな!」
放課後、俺と莉緒はいつもと変わらず二人で練習していた。だが、体育館には多くの生徒が集まり、異様な雰囲気になっていた。
「あの二人、兄妹になったらしいよ……」
「え?付き合ってるって話じゃなかったの……?」
「なんか二人の親が結婚したみたい……」
「あんなに仲良かったから付き合ってると思ってたんだけどな……」
「でも兄妹になったんだから逆に良かったんじゃない……?多分、家でもあんな感じなんでしょ……?」
昼休みに俺が莉緒と兄妹になったことを暴露した結果、それは一瞬にして学校中へと知れ渡った。
元々付き合っていると思われていたため、学校で俺達のことを知らない人はほとんどいなかった。そのため、この一件は大きな衝撃を与えただろう。
「お兄ちゃん〜?いつもの元気ないよ〜?大丈夫〜?」
「……大丈夫だ、問題ない」
「じゃあ早く打ってよ〜」
「……莉緒、ちょっとこっち来い」
俺は練習を一時中断して莉緒を手招きして近くまで呼んだ。
「は〜い!なに?お兄ちゃん?」
「……お前、任せてって言ったよな?」
「言った!」
「それなら……どうして、こんな事になってんだぁぁぁぁ!」
俺は莉緒を押し倒して、十時固めを食らわせた。
「痛いって!怒る時いつも技使うのやめてよ!」
「お前がちゃんと義妹である事を隠してくれれば、俺だってこんな事しないで済んだんだ!」
「別にいいじゃん!どうせバレるんだから!」
「バレた結果、大変な事になってんだろうが!」
「仲良いのが学校中に知れ渡って良かったじゃん!どうせ、私付き合う予定あったんだし!」
お前、今それを言ったら……。
「え、あの二人付き合ってなかったの……!?」
「うそ?ほんとに……!?」
「でも付き合う予定があったって事は……?」
「「もしかして……!?」」
ほら、また広まった。最悪だ。
「お前らも俺達ばっか見てないで練習しろ!練習!他の奴らも早く体育館から出てけ!」
「「ご、ごめんなさい!」」
ずっと俺達の事を見ていた女子部員二人、そして体育館に集まっていた生徒に威嚇をして追い出した。
「莉緒、これ以上余計な事言わないなら離してやる」
「言わないから早く離してよ〜!お願いします〜!」
俺は十時固めを解き、莉緒から離れた。
「わ〜い!お兄ちゃん優しい〜!大好き♡」
「……言ったばかりだよな?余計な事言うなって」
俺は莉緒の頭を握り、指先に力を入れた。
「あだだだっ!痛い!頭取れちゃうって!ごめんなさい!もう言いません!誓います!誓いますぅぅぅぅ!」
「しばらくこのまま痛みを味わえ。こうなったのは全部お前のせいなんだからな!」
「もう言わないから〜!お願いだから離してよ〜、お兄ちゃん……!」
莉緒は泣き泣き懇願してきた。無論、俺がこの手を離す事は断じてなかった。
*
「ねぇ、お兄ちゃん?まだ怒ってるの?」
「……」
部活が終わり、俺は莉緒と二人で下校していた。
「お兄ちゃん、何か喋ってよ〜」
俺は部活が終わってから莉緒と一言も話していない。俺がどのくらい怒っているのか、莉緒に理解して貰うためだ。
「お兄ちゃん……」
徐々に莉緒の口数も少なくなっていった。
俺は落ち込む莉緒に構うことなく家に向かって歩いた。そして、家に着いた俺はすぐさま自分の部屋に入り、ベッドに横になった。
「やりすぎたか……?いや、そんなことはない。少しくらい怒ってもいいはずだ」
自分のやっている事が正しいのか、不安になった。だか今日の莉緒の行動を考えればこれくらいは当然の報いだろう。
少しは俺の気持ちを考えてくれるようになれば、それで良い話なのだから。
――――トントン……。
「お兄ちゃん……?入ってもいい……?」
莉緒がドアをノックして訊ねてきたが俺は無視をした。
「お兄ちゃん、ごめん。勝手に入るね」
莉緒がドアを開けて俺の部屋に入ってきた。俺は顔を見られないように入口とは逆の方に身体を向けた。そして、莉緒はベッドの前に座り込んだ。
「お兄ちゃん、今日はごめんなさい。私、自分で任せろって言ったのに。自分の欲望のままに行動しちゃった。……だって、嬉しかったんだもん、先輩の妹になれて。彼女にはなれないけど妹になれたんだもん。皆に隠すなんて出来ないよ……」
俺がゆっくり莉緒の方に顔を向けると、莉緒は下を向いていた。そして、莉緒の顔からは静かに涙が溢れた。
「お兄ちゃんに迷惑かけた事はもう十分分かってるし反省もしてる……。でも彼女になれない以上は妹として甘えさせてよ……。お願い、私はもう先輩をどういう風に見れば良いのか分からないの……」
莉緒が苦しんでいた事に俺は今ようやく気付いた。
俺の事を大好きな莉緒が、最初に妹キャラで接して来た時は少し心配はしていたが、やはり精神的には無理していたようだ。
「莉緒、俺も悪かった。お前の気持ちを素直に受け取ってやれなくて」
俺は起き上がって莉緒の頭をそっと撫でた。
「これから妹として思う存分甘えていいからな。お前の要望なら出来る限り叶えてあげるし、沢山言ってこい」
「ほんとに……?」
「ほんとだ」
「……それなら今すぐ私にキスしてよ」
「え……?」
莉緒からの思いもよらぬ要望に俺の思考が停止寸前まで追いやられた。
「キスは……ちょっとな」
「なんでもしてくれるんじゃないの……?」
莉緒は頬を膨らませて両手を手を顔の前で握り上目遣いで俺を見つめてきた。涙目になった目がより可愛さを引き立てた。俺の心の声は「萌え〜」と連呼していた。
「莉緒、ちなみに聞くがファーストキスは?」
「まだだけど?」
「なら、もう少し考えてみろよ?ファーストキスがお兄ちゃんってどうなんだ?」
「私は構わないよ、だってお兄ちゃんの事元々大好きだもん」
「好きとかそういう問題じゃなくてだな……」
「あー!もう!めんどくさい!」
莉緒は俺をベッドに押し倒した。
「お、おい!なにすんだよ!」
「お兄ちゃんは私の物なんだから!素直に奪われなさい!」
そう言って、莉緒はゆっくりと俺の唇に唇を重ね合わせた。
――――キスってこんな柔らかい感触なんだ……。
キスの感触を堪能する暇などなく、俺はすぐさま我に返り莉緒の顔を突き放した。こうして俺のファーストキスは義妹によって奪われた。
「お前、やりやがったな」
「これが私の覚悟だよ。もう容赦しないからね♡」
「俺のファーストキスを返せぇぇぇぇ!」
「金髪ツインテールの妹にキスされたんだから本望でしょ?」
確かにそれはそうだ。いやいや、ここで納得してる場合ではない。
俺の考えるファーストキスは、もっとロマンチックな感じを想像していた。それなのに、あっさりと自分のベッドの上で奪われてしまった。
「ちくしょう、時を巻き戻したい……」
「もうだめだよ、お兄ちゃんのファーストキスはこの私が頂いちゃいました♡」
この義妹との生活、もしかすると予想以上に苦労しそうだ。自分のペースを維持しなければズルズルとあっちに飲み込まれてしまうだろう。
残り二十九日、俺は果たしてこの生活に耐えられるのだろうか……。
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