第22話 夏休みの計画

 蝉の鳴き声が夏の訪れを感じさせる。空を見上げると、いつの間にか俳句の季語に雲の峰と表現されるような白いもくもくとした雲が、青い空いっぱいに広がっている。入道雲って、こんな雲だよな、と感じながら、目的地に着くまで雨が降らないといいな、と思う。入道雲は雷雨を降らせると何処かで聞いたことがある。

 夏休みは始まったばかり。そして今日から計画していた旅行に向かっているところだ。僕は少し早足になる。今日は三人分のサンドイッチを作った。お昼で食べるお弁当を持ち寄って食べよう、というナナからの提案で、ナナは唐揚げを作ってくると言っていた。

 八重さんは、私は苦手だから、サラダとフルーツにする、と言った。

 それはそれでどんな野菜やフルーツが食べれるか、ワクワクした。内心、食べたこともない食べ物が食べれたりして、と思っていた。八重さんの両親はどちらも医師だ。期待が膨らむ。

 今日、今から行く別荘も八重さんの持ち別荘だ。夏は毎年、八重さんとナナは遊びに行っているらしい。

 近くには、海もあるし、美術館や図書館もあって、毎日退屈しないくらい、過ごせると言っていた。

 別荘には管理人のご夫婦が住んでいるらしく、とても快適らしい。ナナも小学生の頃からお世話になってて、畑の野菜がとても美味しいとナナが自慢していた。

 待ち合わせは駅だったが、今回は八重さんの車が迎えにくるとのことだった。もちろん、運転手付きだ。

 待ち合わせ場所にはもうナナの姿があった。そして隣には八重さん。何故かキュウもいる。

「おまえ、バスケは?途中からの参加じゃないの?」

 僕はキュウにそう言った。

「そう、そのはずだったけど、最初から行きたいじゃん」

 キュウはニコニコしながら、僕に言った。

「要は、サボりね」

 僕はわざと冷たくそう言う。

「いいじゃん、たまには」

 キュウはそう言って、僕の首に腕を回して、僕を引き寄せた。

「やめろよ」

 僕はじゃれるようにくっついてくるキュウから少し離れて、答える。

「荷物はこちらにどうぞ」

 僕の荷物をトランクに運転手さんが入れてくれた。

「ありがとうございます」

 僕はお弁当以外の荷物を渡し、そう言った。

「あ、おまえの分のサンドイッチ、作ってないよ!」

「大丈夫!ばあちゃんに梅のおにぎりを握ってもらったから!」

 キュウは僕に嬉しそうに笑顔でそう言った。

「あー!キュウのおばあちゃんのおにぎり、僕も食べたい!」

 僕は昔、キュウのおばあちゃんが作ってくれたおにぎりの味を思い出し、そう言う。

「うん、ロクタの分もあるぜ」

「やったあ!」

 思わず、嬉しくて、声が出る。

「えー、私達も食べたい!ね?」

 八重さんがそう言って、ナナも相づちをうつ。

「ちゃんと四人分あるよ」

 そう言ったキュウの言葉に、やったあ!と、二人とも喜んでいた。

 みんなで車に乗り込み、さっそくみんなの作ってきた弁当を披露しあう。

 キュウは、おばあちゃんが作ったおにぎりを一つずつみんなに手渡した。アルミホイルに包んである。ラップより、水っぽくならず、いい。ジップロップに入っている海苔も渡された。おにぎりを海苔に包んで食べた。久しぶりに食べるキュウのおばあちゃんのおにぎりは懐かしい梅干しの味がした。海苔も磯の香りがしてとても美味しい。

 キュウが幼い頃は、おばあちゃんが子守りでキュウの家によく来ていた。

 キュウの両親は共稼ぎで留守が多いため、小学生までは、近くに住んでいるキュウのおばあちゃんが放課後、両親が帰るまで来てくれていた。僕も学校帰り、キュウの家で、おばあちゃんのおにぎりやおやつを食べた。

 僕ぐらいの年齢の奴で、お年寄りを汚いとか言って嫌う奴がいるが、僕には理解出来ない。僕にとっておばあちゃんはとても癒される存在だ。お年寄りのゆっくりのペースにとても心癒される。大好きだ。

「私の唐揚げも食べて!」

 ナナはお弁当ごと、僕に手渡す。

 チューリップ唐揚げだった。

「へえ、手羽元をチューリップにしたんだ」

 僕が感心してそう言うと

「チューリップって、なに?」

 ハモるように八重さんとキュウが言った。キュウは聞いても分かんないだろうなと思いつつ、手羽元をチューリップの形にするやり方を簡単に説明した。

 ふうん、って、キュウも八重さんも言ったが二人とも理解してない様子。どうやら八重さんの料理はやらないっていうのは謙遜ではなさそうだ。

「作り方はよく分かんないけど、美味しいのは確か」

 キュウはそう言って、チューリップ唐揚げを食べていた。

「ありがとう!八重のデザートはなに?」

 ナナはお礼を言って、八重さんにそう言った。

 八重さんは、デザートを入れていた紙袋から、デザートの入ったケースを出した。

 ケースは4個。人数分に分けてあった。

「あー!スイカだ」

  ナナが嬉しい声をあげた。透明のケースに入っていたのは、熟れて美味しそうなスイカだった。食べやすいように一口大にカットして、ケースに入れてあった。八重さんはスイカと一緒にフォークをみんなに渡す。

「ありがとう、夏はやっぱりスイカだよね」

 僕は八重さんからスイカを受け取りながら言った。

「そうなの!私、スイカが一番好きなの」

 八重さんは嬉しそうにそう言った。

 僕はいろいろ見たこともない果物が出てくるんじゃないかと期待していたが、夏にスイカを持ってくる八重さんの感覚に安心感と好感を持った。旬の物を一番美味しいと言って食べる。だから、僕もキュウも、八重さんやナナと仲良く出来てるんだな、と思う。

「このスイカ、むちゃくちゃ甘い!オレ、スイカ面倒くさくてあんまり食べないけど、こんな風にしてあったら食べやすいのな、種、あんまりないし」

 キュウ、おまえ、スイカめんどくさいって、思ってたのかよ、と心の中で思う。分からなくもないけど。

 確かに今まで食べたスイカと比べても、同じスイカなのか?と思うくらい甘かった。

砂糖をかけたのか?と思うくらい甘い。実際に砂糖かけたら不味いだろうけど。それくらい甘い。そして確かに美味しい。

 お腹も満たさせれた頃、どこかで休憩を取ろうと八重さんが言った。

 高速道路の途中だった。手頃なドライブインに寄ってもらえるように八重さんが運転手さんに頼んだ。

 そしてドライブインに到着して車に降りるとき、八重さんは僕に小声で言った。

「サンドイッチ、運転手さんに少しあげていい?」

「あ、うん」

 僕は思わず、答えた。

 八重さんは降りてから、運転手さんに声をかけていた。八重さんは運転手さんの分のスイカカップを用意していた。八重さんがそれを運転手さんに渡すと運転手さんは丁寧に断っていた。

「ありがとうございます。自分の分は用意していますので」

 そう答える声と帽子をかぶる目元を見ると、運転手さんは女性だった。てっきり男性と思っていた。そうか、いつも八重さんについてくれてる運転手さんなんだから、女性の方が適任だ。その方が安全なことは考えなくても分かる。運転手さんだから、男性と思いこむ。そういう部分で、日本人は幸せボケしているのかもしれない。職業に男女の区別は必要ないが、その時々に合わせて、必要な性別を選ぶことは必要だろう。

 八重さんは遠慮する運転手さんに無事にサンドイッチとスイカカップを渡した。

「30分くらい私たちはコーヒーでも飲んでくるから、美山さんも休憩してください」

 八重さんは運転手の美山さんにそう言って、僕たちに、行こうか、と声をかけた。

 さすが。八重さんの気遣いに尊敬する。それを見て惚れなおすキュウが想像出来た。

 いろんな意味で僕は彼女にはかなわないんだろうな、と思った。それと同時に八重さんになら、キュウを譲ってもいいか、という気持ちに僕は勝手になっていた。

 

 

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