第21話 恋愛より友情?
高校2年生になって、僕にはいろいろな事件があった。
彼女いない歴ずっとの僕に高校生になり彼女が出来、でも性格が合ってないことに気づき別れた。それから自然に本当は同性の友達キュウを好きだったことに気づいた。
そんな自分の気持ちに正直になれる友達ナナと出会い、僕は自分の気持ちを大切にすることにした。
キュウが付き合っていた香織さんは、お腹の子の父親の求婚を断ったと風の噂で聞いた。彼女なりに自分の気持ちを優先させているんだろうと感じた。なんとなく香織さんの行動に良い印象を勝手に持った。それでも父親になろうとしている男の人は、香織さんが結婚してくれるのを待つ姿勢だそうだ。それを聞き、相手はいい男だったんだな、と安心した。
香織さんは、出産もあるので、今の高校は休学して復学するか、定時制高校に転学するか考えているところらしい。
もともと香織さんは看護師を目指していて、出産後は、アルバイトしながら、看護師の学校に通うらしい。ちゃんと母親としてだけではなく、社会人として、将来を考えている香織さんを素直にすごいな、と思った。
僕は知らなかったが香織さんには、母親がいないらしい。両親は彼女が幼い頃に離婚したそうだ。母親は別に家庭を持ち、香織さんと弟は父親と暮らしていた。
そんな家庭環境のことはキュウも知らなかった。香織さんはキュウに自分の悩み事とか言えてなかったんじゃないかな?
好きな人には、正直に自分のことを話した方がいい。これは僕の考えだ。自分の悩みも言えないなんて、なんのため付き合っているのかわからない。
好きだから、迷惑かけたくないとか、ましては嫌われたくないから、なんて理由なら、そんなことで別れる相手なら初めから付き合わない方がいい。
好きな人と支え合えないなら、傍にいる意味がない。
僕はキュウを支えたいし、アイツを頼りにしている。
そんなことを教室の机で僕は考えていたとき、元カノの美咲が、こちらに近づいてくる。
「ロクタ、ちょっとお願いなんだけど。」
と、前置きをして美咲は言った。
「鬼塚さんに、出産の応援の資金を集めてて、幾らかカンパして!」
そう美咲が言ってきて、驚いた。
「美咲って、鬼塚さんのこと、嫌いだって思ってた」
僕は素直に自分の気持ちを口に出した。
「うん、嫌いだったよ。でもこれは別。同性として応援したい!だって子どもが出来て、おろすことも正直、出来るのに、ちゃんと育てることを選ぶなんてすごいじゃん、嫌いだと思ってたなんて関係ない。それだけで、応援出来るよ。だから協力して」
「うん、ありがとう」
僕も思わずお礼を行った。
嫌いなヤツで性格が合わないな、と思ってても行動は尊敬できたり、羨ましく思うことはある。
友達でも尊敬できないこともあるから、その逆だってあるよな。
「でも、お祝いを渡すのは、産まれてからが良いと思うよ」
僕は美咲に言った。
「どうして?」
「妊娠初期って、不安定みたいで、妊娠したのに、流産ってこともあるらしいから」
僕の親戚のお姉さんで、待望の子どもが出来たと触れ回った後に、流産してしまって、周りから後々お祝いの声かけを度々されることになり、更に落ち込むことになった、と母が言っていたことが記憶に残っていた。
「そうなの?そうだよね、絶対に産まれてくる!って保障はないよね、ありがとう」
美咲はそう言ったあと、
「だから、ロクタにいろいろ相談したんだぁ。男でも女でもない中立な意見聞けるし。何より、絶対に人を否定しない」
そう美咲は笑いながら、でも真剣に言った。
僕もそんなこと言われて、照れてしまった。
「ありがとう、美咲。はい」
僕はお礼を言って、財布から千円札を出して、美咲に渡した。
「ありがとう。また渡すもの決めたら、教えるね」
美咲は、募金を集めているであろうポーチに受け取ったお金をしまう。そして、ポーチの中に入れていた用紙を出して、カタカナでカワシマロクタと書いていた。横に金額も書いていた。20名くらいの名前と金額が書いてあったようだ。
「美咲は、鬼塚さんの家とか知ってるの?」
「うん。でも、そもそもこのカンパを始めた子はモエカなの」
僕の頭の中に、キュウのお弁当を香織さんのために僕の家に取りにきていた女の子の顔が浮かんだ。
「モエカは今度のことで鬼塚さんのことを、お腹の父親に知らせたり、鬼塚さんのお父さんを説得したりしたんだよ。女の友情って、やつよ」
「ああ、あの子か」
僕はそう答えながら、きっと今までモエカさんが、一番、香織さんの悩みを聞いてきたんだろうな、思った。だから、恋人だったキュウには悩みを話さなくてすんだんだろう、と一人、納得していた。
恋愛より友情が一番、最強かもしれない、などと考えていた。
でも恋愛は生活に彩りを与える。
時には苦しく、とても寂しくなるけど、恋をしている時は、とても充実する。恋してる最中はこんな苦しくなるならもう恋はしたくない、と思うけど、恋してないときは、恋に憧れるんだよな。勝手なもんだ。
そんな風に考えていると、不意に僕と美咲の会話に割り込んでくる人がいた。
「ねえ、男子にカンパ頼むのって反則でしょ」
突然、そう声をかけてきたのは、クラスメイトの女子だった。木村姫華さん。
クラスでは優等生の方。でも真面目って感じではなく、頭はいいけど、友だちも多く、明るいタイプ。そんな彼女がそんな風に、美咲に言ってくるなんて意外だった。多分、この状況は、美咲に意見してるんだよね?と思いつつ、二人を見つめる。
「あ、木村さんは、鬼塚さんのカンパ参加しないんでしょ?別に参加したくない人には、」
「…トモのときは断ったくせに」
木村さんは吐き捨てるようにそう言った。とても感じの悪い言い方だった。
「友美ちゃんのこと?あれは、…今、言う必要ある?」
美咲は言いにくそうに言葉を濁した。確か友美ちゃんって、妊娠して、堕胎したって、噂で聞いていたので、その話かな?と想像した。美咲は友美さんのカンパには参加しなかったんだな、と僕は理解した。そのときは、女子だけのカンパだった。デリケートの話なので男子にカンパの話はこなかった。
「木村さん、僕も嫌だったら断るし、言われたヤツも嫌だったら、百円くらいしか、カンパしないんじゃない?」
僕は美咲にそう助け船を出した。
「あ、オレ、嫌じゃないけど、百円しかしてない」
僕の隣の席の村上は、女子の変な空気を和ませようと笑いながら茶化すように言った。
それでも木村さんの表情は険しいまま、様子は変わらない。
「そんなの、ダメでしょ?私たち高校生よ。子ども産むなんて、普通におかしいでしょ?それに男子にまで頼むなんて間違ってる!」
木村さんは自分の持論で怒って、そう言った。
僕は少し、考えて、言った。
「高校生が赤ちゃん産んだらダメなんて生徒手帳にも書いてないし、今年変わった法律では18歳になれば親の同意なしに、男女共に高校生でも結婚は出来る。女性も16歳から18歳に結婚出来る年齢が変わったけど、4月までに16歳だった人は親の承諾があればまだ出来る。だからおかしくはないよ」
「そうなの?18歳になったの?16歳じゃないいんだぁ」
美咲は、そっちの方の話に食いついた。
「そう、法律は男女とも18歳成人になって結婚も男女ともに18歳からになった。だけど、結婚を予定していた人のために4月1日の時点で16歳になってる女性は結婚出来るらしい」
僕はそう説明した。
「高校生が結婚なんて。生活力もないのに結婚して、幸せになれるわけないじゃない」
木村さんはまた持論を言った。
「じゃあ、生まれてきた命を殺せってこと?」
僕は少し腹が立ってそう木村さんに返した。
「妊娠するつもりなく妊娠したとしても、産む選択は間違いだ!って決めつけるのは僕は嫌だな。僕が鬼塚さんなら産みたいと思うよ。それに男だって妊娠させたとき、その問題に関わるべきと思うよ。子どもを産むか産まないかは、本人が決めることだから、木村さんが言ってることこそ、反則なんじゃない?」
僕にしては珍しく、強い口調で反論した。美咲を庇う気持ちもあったが、産まれてくる命はどんな場合でも一番、大切に考えてほしいと思ったからだ。
もちろん、ちゃんと育てられるかもわからないのに、無責任だと言いたいのだろう。
でもはたして、高校生で子どもを産むことが、親になる本人も子どもも不幸だと言いきれるのだろうか。
高校生で子どもを産みたいと思った香織さん、そして産んで育てようとしている香織さんの環境を僕は素直にいいな、って思った。そして、カンパした友達に、香織さんを応援したくなる気持ちを作った。
僕たちは大人になる途中。これは良くて、どれが良くないことなのか、一人一人が自分で決めていいはずだ。
僕の発言のあと、無言で木村さんは立ち去った。その後は特に誰も話さない。
そして、静かに次の授業は始まった。
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