第17話 キュウのピンチ

 今朝、僕は6時に起きて、弁当を作った。いつもの日課。母の朝食の準備もついでに作った。と、言っても昨日の夜にタイマーしていたパン焼き機の焼きたてのパンをカットしたぐらい。僕は焼きたてのパンを食べながら、玉子焼きを焼く。

 今日は冷蔵庫に茄子と豚肉があったから、炒めて味噌味で味付けした。

 青みには昨日、お弁当用に残して置いたブロッコリーを入れる。学校に持っていくお茶も準備して、それから淹れたてのコーヒーを飲んだ。

 ブラックは苦手なので、牛乳をたっぷり目に入れる。砂糖は入れない。

 時計を見ると7時を過ぎていた。そろそろ母親が起きてくる時間だ、と思うと母は眠そうな顔で起きてきた。

「おはよう。弁当、母さんの分も作ったから」

「おはよー。ありがとうー。助かるー。」

 母はボサボサの髪型で、僕の前の席に腰掛けた。

「朝は目玉焼きでいい?」

 僕は母さんにそう聞く。

「んー。スクランブルエッグにしてぇ」

 母さんはそう言って笑った。

「マヨネーズたっぷりめでお願いします」

「分かった」

 いろいろと準備を終えて、時計を見ると7時半だった。

「そろそろキュウくん来る時間ね」

 母さんも時計を見て、僕に言った。

 僕は行く支度をしながら、玄関に向かう。でも時間を過ぎてもキュウは現れなかった。  

 昨日は、ナナと野崎さんの大学に行くって、キュウに伝えたので、来なかったけど、今日はどうしたんだろう?と思った。

 まさか、風邪?とか病気になった?と心配になる。

 キュウとは毎日会うのが普通で、休みの日も会うことが多いから、2日も続けて会わないと不安になった。

 まあ学校に行けば会えるだろう、と思い直し、家を出た。一応、キュウにLINEだけはしておこう。

『おはよう。どうした?先に行く』

 そうLINEして、僕は学校に向かう。自転車でも通えるけど、15分くらいで着くので、ほとんど徒歩で通っている。

 僕は学校に着くまで、キュウに会わなかった。クラスに入る。やはりクラスにもキュウの姿はなかった。

「キュウ来てない?」

 僕は隣の席の村上に言った。村上は僕を驚ろいた顔で見て言った。

「え?知らないの?」

 村上が何かいいかけたところで、僕の腕を引っ張るヤツがいた。元カノの美咲だった。

「ちょっと来て」

 美咲に腕を捕まれたまま、廊下に連れて行かれる。それを遠くで美咲の彼氏の涼太が見てる。ゴメンと軽く僕は涼太に会釈した。涼太も大丈夫、って手で合図してくれた。

 美咲は廊下で僕にいろいろ説明してくれた。

 昨日は、僕が休んでいる時に、鬼塚香織の父親が学校に怒鳴り込んだらしい。

 内容は香織さんの妊娠のことらしかった。相手はもちろん、香織さんと付き合っているキュウだからってと言うことで、昨日はキュウも校長室に呼び出されるとそのまま、家に帰ってしまったらしい。

 自宅待機?

 自宅謹慎?

 キュウ、学校辞めさせられんの?

 僕の心がざわついた。

「ほんとにキュウが妊娠させたのかなあ」

 僕がそう呟くと、美咲はちょっと怒って言った。

「ひど!いくら鬼塚さんでも九くんのこと、好きだったんだから、二股とかないでしょ!男なら責任とるべき!」

 美咲はいつになく、鬼塚さんの肩を持った。そうだよな、女性は自分の身体を守らないと行けない分、妊娠したときの責任逃れみたいな発言許せないよな。

「ゴメン。でもキュウは避妊にはうるさかったから。…僕にも美咲と付き合ってるとき、ちゃんと避妊はしろよ、ってコンドームを渡してきたくらいだし。妊娠については真剣に考えてたから。もちろん女の子の身体についても」

「きゃー、なんて話してんのよ!私はそういうことに興味あるけど、まだしない!って決めてんの」

 美咲は顔を赤らめながら、小さい声でそう言った。僕たちは付き合ってたけど、そんな関係にはならなかった。

 キスはした。付き合いだした頃、どちらかとなく、ロマンチックな気分になって。それ以上はお互い進もうとは思わなかったかも。

「うん、美咲の考え方、いいと思うよ。同意ない行為は犯罪だよ、恋人同士でも」

「うん、でも情熱でこられたら、わかんないかもよ」

 美咲は照れながらもそう言った。美咲は頬を赤らめた。

「え?…ゴメン」

 思わず、僕まで恥ずかしくなった。

 相手を求める。確かに僕は美咲を求めなかった。だから、恋愛って難しい。いいとか悪いとかで済まされない。

 相手があるから、いいも悪いも相手次第。同じくらい好きって思ってても、自分の方が惚れてる、とか、相手の気持ちが重荷とかになる。その想いの重さも心地よさも人それぞれだ。

「そう言うことだから、後はキュウくんに聞いて!友達でしょ」

 美咲は、僕の背中を軽くボンって叩いて、言った。

 僕は「そうだね」って言って、美咲と教室に戻った。

 とにかく学校が終わったら、キュウの家に行こう。そしてキュウから話を聞こう。あいつの話を聞かぬまま、アレコレ考えても仕方ない。聞いて僕の出来ることをしよう、と思った。

 あいつが何をやっても僕はあいつの味方だし、僕に出来ることはなんだってやってやる。僕はキュウを愛している。

 

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