第9話 元カノとの和解?

 昨日の僕とキュウのキス事件は、いつの間にか学校中に広まっていた。

 今日1日、とやかく聞いてくるヤツこそいなかったが、興味本位な視線や囁きはたえず聞こえてきた。まあ、気にしないでおこうと思っている。つくづく自分が他人に左右される性格じゃなくて良かったと思う。

そんな1日を終えて、学校の校門を出たとき、1年生だろうか、下級生の女の子に声をかけられた。

「川嶋先輩!サインください」

「サイン…って、僕は芸能人じゃないから」

「じゃあ、頑張ってください!」

 朝からこんな調子である。

 何故かキュウと僕を応援するファンクラブが出来たらしい。みんな面白がってるだけなんだろう。

「六大!」

 振り向くと、美咲だった。

 彼女と別れて、1ヶ月振り?に話す。

 同じクラスだから、目が合えば挨拶くらいは交わしていた。

「昨日はビックリしちゃった~」

 美咲は笑顔で言った。

「ゴメン」

 僕は何故か謝った。

「なんで六大が謝るの?大丈夫よ。人の噂も七十五人よ」

「それを言うなら七十五日な」

「それそれ。でもあんときの鬼塚さんの顔!スッキリした~」

え、そっち?鬼塚さんって意外に敵が多かったんだと、改めて感じた。女王様タイプって、女子ウケ悪いんかなあと思わず、考える。

「だって、六大と九くんがカップルって、ナイナイ」

 そうなの?信じてなかったわけ?ちょっとそれはそれで複雑な気持ちになった。

 僕はキュウを真剣に好きだぞ。

「九くんも鬼塚さんと別れて良かったよ、六大もそう思うでしょ?」

「まあ」

「それに、九くんは好感持ってる人には誰にでもキス出来る人でしょ、みんなわかってるわよ。私もほっぺにされたことあるよ」

「そうなの!」

 僕は驚いて言った。初耳だった。

「言わなくてゴメン。もち、ありがとうのキスだよ。九くんのお祖父さん、外国人だからキスなんて挨拶だよ。根っから日本人の私達とは違うでしょ」

「そうなの?キュウのお祖父さんのこと、知らなかったな」

 確かにキュウの人への距離感って、日本人ぽくないかも。

「六大もファーストキスじゃなくて良かったね」

 美咲は、そう言っていたずらっぽく笑った。

「ゴメン」

 そう言った僕の顔は赤くなっていた。美咲とのキスを思い出したのを気づかれないといいけど。

「いい子だね、ナナちゃん」

 突然、美咲の口から、ナナの名前が出た。

「え?なんで?ナナのこと、知ってるの?」

「ん、私が六大と別れた後、ナナちゃんが会いに来てくれたんだ」

「そうなの?」

 知らなかった。そう言えば、ナナ、たまに美咲のこと、気にしてる風だった。会いに行ったんだ。

「そうよお、ナナちゃん、初対面でウザイなんて言ってゴメンね、って謝りにきたの。でも私達のこと、あ、私と六大のことね。学校帰りの珈琲ショップで見かけてて知ってたみたい。いつも私、六大に愚痴ばかり言って、六大の言葉を聞いてなかったんだよねえ。ナナちゃんといろいろ話して気づいたんだ!だから、ナナちゃんとうまくいくといいね」

 美咲は、僕の顔をまっすぐに見て言った。あ、僕が最初に会った時に、いいな、と思った美咲に戻った、と思った。美咲は、おせっかいだけど、愚痴愚痴した女の子じゃなかったはずだった。

 僕が傍にいたのに彼女の魅力を半減させてしまったのかと思うと、申し訳ない気持ちになった。

「心配しないで、私も涼太くんと付き合ってるから」

「え?涼太って、同じクラスの?」

「うん、私のこと、ずっと好きだったんだって。でも人のことは分かるのね。涼太の方が私より、愚痴っぽくて、あれよ、人の振り見て我が振り直せって、やつよ。合ってる?」

「うん、合ってる」

 良かった。元気になってて。おまけにちゃんと彼氏まで出来てるなんて。

 僕は思わず安心した。

「美咲ちゃーん」

 声のした方に美咲と僕は振り向いた。涼太だった。

「なに、話してるの」

 ちょっと怒ったような声で、涼太は言った。焼きもちを焼いている様子が見てとれた。

「九くんとお幸せに!って、話してたのよ、ね!」

 美咲はそう言って、僕をいたずらっぽく見た。

「え?」

 おいおい、そんなこと言ったら、人の噂が消えるのが、また1日増えるだろうが、と心の中で突っ込んだ。美咲は、全然、気にしてないようだった。

「オレ、よくそっちのことは分かんないけど、頑張れよ」

 涼太は、頭を搔きながら、本当に困った様子で、僕にそう言った。いいヤツなのがよく分かった。美咲と涼太はきっと似た者同士なんだろう。だからきっと理解し合えて、自然体でいれる。美咲は、そんな相手に出会えて本当に良かったね、って心から思った。

「ありがとう」

 ここは潔く、感謝しておこう。キュウを好きな僕の気持ちに変わりはないので。

 そして二人は、じゃあ、と言って、仲良く僕とは違う方向へと歩いて行った。

 二人と別れて、しばらくすると、学生服のポケットに入れたスマホが鳴った。スマホをポケットから出すと、LINEがきていた。ナナからだった。

 (この前、話した大学生の名前と大学が分かった。明日、その大学に行ってみようと思う。出来たら、ロクタにも来てほしい)

 と、書いてあった。

 しばらく考えてから

(了解)

と、返信した。とりあえず、明日は学校休めるように、母さんに協力してもらうか、と考えながら、家へと帰った。

 



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