第7話 誰を好きになってもいいだろ
先週の日曜日はナナとの作戦会議で、キュウと試合の応援には行かなかった。
まあ、試合観戦も必ず行ってるわけじゃないし、キュウの彼女の香織さんが行ってるからいいだろう。
僕には秘密がある。それは、同性の友達キュウを好きなことだ。でももう一つ、また秘密が出来てしまった。
僕はその事で心理的に追い込まれている。
それは、2年生になって間もなくの出来事だった。
僕の趣味は料理だ。高校では家庭科クラブに所属している。男なのに?って思った人もいるかと思うが、実際に部員で男はやはり僕だけだ。入学当時は3年生に二人男子がいたが、2年に一人もいなかったため、3年生が卒業して、僕が2年になると、必然的に家庭科クラブの部員の男は僕一人になった。
じゃあ男子部員を勧誘しないのか、って?僕は男とか女とか対した違いじゃないと思ってる。僕の家はもう亡くなったが、父親の方が家事全般をこなしていたし、社交性は母の方があるくらいだ。
お金を稼ぐ能力も両親共に同じくらいだったんじゃないのかな?
と言っても父親は平日の9時から17時の勤め方で、母親は自由業(フリーで家具デザイナー)をしている。
そういう意味では、僕は男とか女とか意識せずに育った。幸せな方なのかもしれない。
でも世の中は男らしさとか女らしさとかの決まり事で溢れている。それが僕にはとても息苦しく感じた。
家庭科クラブでも、(なんで男がいんの?何か別に魂胆でもあるの)って目で見てくる女の子もいた。
入部する!って決めて、入部届を出した時も、担任に「好きな女の子が入ってるのか?そんなんで入っても続かないぞ」と釘を刺された。母親にも連絡がいって、うちの母親に笑い飛ばされて、先生おかしな顔してたっけ。
「川嶋のお母さん、変わった人だな」とか、担任のおっさん、言ってて、世の中本気でジェンダーの平等を考えてるのか?と思うよ。先生がこんな古い考え方なら、世の中から差別がなくなるわけないじゃん、と思う。
そんな家庭科クラブの終了後にその出来事は起きた。
「2年の川嶋六大くん、いる?」
そう、家庭科クラブのある家庭科室に、尋ねてきた女の子がいた。それが、キュウの彼女の鬼塚香織だった。この時は、まだキュウの彼女じゃなかった。
「僕になんか、用事?」
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
「なに?話したいことって」
僕はもう片付けも終わり、帰るだけだったので、今からいいよ、って言った。
すると、鬼塚香織は、自分の胸ポケットから、生徒手帳を出した。
ん?と思っていると鬼塚香織は言った。
「これ、あなたの生徒手帳よ。意味分かるでしょ?」
僕は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
そのまま倒れ込みそうなくらい、動揺していた。
「どうして、それを?」
僕はいつも生徒手帳をしまっているバックの内ポケットを確認して言った。本当だ。しまった場所になかった。確かに入れて置いたはずなのに。どうして。
「それは言えない」
鬼塚香織は、僕を人気のない放課後の廊下に連れ出して言った。
「川嶋くんは、折尾九くんのことが好きなんでしょ」とささやいた。
「生徒手帳、返せよ」
僕は質問に答えず、そう言った。
見たんだろ、生徒手帳に挟んである僕の写真。僕がキュウと一緒に写っている写真を。
僕は心の中で、そう言って、鬼塚香織の手から、自分の生徒手帳を取り上げた。
「川嶋くん、協力して欲しいの。九くんがノーマルなのは分かってるの。最近、1組の野坂加菜と別れたばっかりでしょ?私、ずっと好きだったの、九くんのこと。だからお願い!」
と、言って、鬼塚香織は、上目遣いにお願いポーズで頼んできた。
「なんで、僕が」
「だって、九くんの一番の親友でしょう?いろいろ教えて欲しいの、ね?」
自信たっぷりに話す鬼塚香織は怖い女だと思った。
「自分で言えばいいだろ、鬼塚さん美人だし。今ならフリーだからキュウもOKするよ」
「うん、でも川嶋くんが味方になってくれたら絶対でしょ?」
ズルいと思った。
僕なんて、どんなにキュウのことを想ってても、スタート台に立つことも出来ないのに。なんで恋のキューピッドみたいな役をお願いできるんだ。
神様は僕が片想いすることさえも許してくれないのか?
「で、僕になにしてほしいの?」
僕は少しヤケクソになって、鬼塚香織にそう言った。
そして、鬼塚香織は、満足そうに微笑んだ。
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