第6話 作戦会議 本題

 僕たちは、家の庭で、満開のアジサイを眺めながら、食事を楽しんだ。二人で飲んだお手製ブドウジュースは、実はお酒なんじゃないかと思わせるほど、話が弾んだ。そして僕はナナにキュウへの思いを語った。

 僕とキュウの出会いは小学3年生のとき。周りより体の小さかった僕は、憧れからバスケットチームに入った。そこでキュウと出会った。その頃から、キュウはみんなより頭一つ分は背が高く、その上ジャンプ力もあった。チームメートから一目置かれる存在。それがキュウだった。

 でも僕だって背は低かったが、キュウと同じくらいジャンプ力はあった。

「おまえ、すげえじゃん」

 僕がシュートを決めたとき、そう言って、キュウはウインクした。

 僕はその時に、キュウをなんてカッコいいヤツなんだ、と思った。敵でも味方でも、キュウはプレイが上手い子には、「すごいな」って、声をかけた。あまり上手くない子には、どうしたら上手く出来るのか、丁寧にアドバイスをしていた。

 スポーツの世界って、コーチでも上手いヤツのことは褒めるけど、下手だと思うヤツにはあまり声もかけない。ましてチームメートなら、上手いヤツほど、ヘタクソといわんばかりの態度を取るヤツの方が圧倒的に多い。

 なのにキュウは違った。みんなでバスケを上手くなろうとしていた。誰よりもバスケを楽しんでいた。自分は努力してるから、あんまり練習しないヤツのことは腹が立つだろうに、なぜか練習をサボるヤツにも優しかった。その時間だけでも一緒にバスケを出来ることに感謝しているみたいだった。

 だから僕は「キュウみたいなヤツがプロになるんだろうな」と心の中で思った。バスケを何より愛している。そう感じた。

 中学までは部活で僕はキュウとバスケットをした。高校で辞めたのは、高校がバスケットの強豪校でついていく自信がなかったのと、僕のキュウへの気持ちがどんどん大きくなっていくのがツラくなってきたからだった。

「男が男を好きなんて、変だよね」

 僕はナナに思わず、そう言った。しまった!ナナは女の子なのに女の子の八重さんを好きだった。ヒドいなことを言ってしましたと、後悔した。

「ねえ、ロクタ。ロクタって、左利きだよね?」

「うん、どうして?」

 ナナの観察力にはいつも驚く。

「実は人間は生まれ時はほとんどの人が、両利きなんだって」

「そうなの?」

「それが、生活の中で右利きに矯正されていくから右利きの方が多くなるの。でもそれでも両利きの人や左利きの人もいる。それとおんなじなんじゃないかな?私たちって」

「どういう意味?」

「異性を好きになるのが当然って、みんなが信じさせられているだけってこと。だから、私たちはそれを出来なくても別に変なわけではないってこと」

 そっか、人間は生まれてから、異性を好きになるように思い込まされてるのか 。じゃあ異性を好きになるのは決まりごとじゃないってこと?

「でも異性の間じゃないと子どもは生まれないよね?」

 僕はそれでも身も蓋もないことをナナに言った。

「うん、でも異性同士でも相性で生まれないことだってあるし、産んでも育てることが出来ない人もいる。でも私は八重とだったら子どもを育てられる」

 ナナは自信をもってそう言った。

「それに、きっといい子に育つと思う」

 今度は笑顔でナナは言った。そうだ。異性同士でも子どもがかわいそうな家庭はたくさんある。悲しい事件も後を断たない。

「そうだね、僕もキュウとなら良い家庭が築けそうだ」

 僕も笑顔でそう返した。

「私もそう思う」

 そう言って、ナナはまた笑った。

それから、考えこむように、少しの沈黙の後、ナナは言った。

「実は、八重が結婚させられそうなの」

「え、どういうこと?」

 僕は驚いてそう尋ねた。

 ナナの話によると、こうだった。

 八重さんは医師を目指している。家も両親もそのお祖父さんも医者の家系だ。当然、大学も医学部を目指している。そこで最近、母親が結婚を前提に、将来有望な医大生の男を八重さんの家庭教師に連れてきたらしい。

 ナナも会ったらしいけど、頭がいいのにイケメンだったそうだ。

 八重さんは、「結婚なんて全然考えられない」って、言いながらも、まあ申し分のない人のようだから、付き合ってみることにしたらしい。

 八重さんは今まで男の人と付き合ったことなかったから、この前、そのイケメン医大生にキスまでされて戸惑っているらしい。

「なんか胡散臭いんだよね」

 ナナは言った。八重が好きなら仕方ないし、相手が自分が納得出来る相手なら我慢も出来るけど、ナナにはこの男のことが八重さんに釣り合う相手とは思えないらしかった。

「だからどんな人物か調べたいの」

 ナナは自分はイケメン医大生に顔を知られていて正体を見せないだろうから、誰か協力してくれる人を探していたらしい。

「こんなこと、ロクタにしか頼めないの」

 ナナは真剣な顔で言った。ナナの直感は案外、当たっているかもしれない。それに、好きな人を変なヤツに渡せるわけない。もし傷付けられるようなことがあったら、一生後悔すると思う。

 僕たちは似た者同士だ。同じような片思いをしている。自分の気持ちを伝えあえ、気も合うなんて滅多にあるもんじゃない。

「僕たち、恋人同士だろ。協力するに決まってんじゃん」

 僕はナナの瞳を見つめて、ニヤリと笑った。

「きゃー!ロクタ、ありがとう!」

 そうナナは言って、テーブル越しに僕の両手を自分の両手で掴んで握ってきた。何故だろう。ちょっと僕はドキドキしていた。

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