第4話 そして事件は始まった。
ナナの告白の後、僕たちは作戦会議をすることになった。
僕とナナの家、どっちで話すか?僕はナナの家に興味があった。聖信女学院高校に通う彼女の家だから、さぞや豪邸のはずだから。
でも「男の子を家に招いたことないなあ」というナナの一言で、行くのを止めた。
ナナの家にお邪魔する初めてのボーイフレンドが僕だというのはハードルが高過ぎる。
僕も女の子を家に招いたことはほとんどないが、母さんと二人暮らしで、気を遣う家でないので、僕の家で話すことになった。
「じゃ、来週の日曜日ね」
テーマパークのダブルデート?の帰り際にナナが僕にそう言うと、キュウが意外な顔で僕を見た。
キュウは僕がナナみたいなタイプと付き合うとは思ってなかったらしい。
美咲の時も、「もう別れんの?」と、キュウは美咲にあわせて暗い顔している僕に、度々聞いてたくらいだから。
「おまえも心を許せる彼女が出来て良かったな」と、後でキュウに言われたくらい。まさかキュウへの僕の気持ちを聞いてもらっているとも知らず。キュウからの心遣いは、当たり前だけど僕には気持ちがないという現れで内心傷ついた。
「おまえこそ、彼女いんのに、八重さんといい感じじゃん」
と、僕が言うと、キュウは真剣な顔つきになった。
「オレの周りにあんな女の子初めてなんだよなあ」
「え?」
「普通、女の子って、好きなアイドルとか、ファッションとか美味しい食べ物のこととかそんな話が多いじゃんか。まあそれもかわいいちゃ、かわいいんだけど。八重は親が医者ってこともあって、医療のこととか、世界情勢のこととか、社会のこととか真剣に考えてて。夏休みには父親と被災地にボランティアに行くんだと。すごくね?」
「うん」
すごいと思った。僕なんて、今日は晩御飯なに作ろう?とか、家で、ゲームして遊ぶか漫画読むかアニメ見るか悩むくらい。
社会情勢とか、興味持たなきゃ、とは思うけど、自分のことで精一杯だ。
「オレなんて、バスケットでシュートをどうしたら決めれるんだろうとか、高校卒業したら、プロになれるんかな?とか自分のこと、ばっか」
「それ、普通。」
僕の正直な気持ちだった。
「おまえ、優生思想って、知ってる?」
「ゆうせいしそう?確かナチスドイツで、優れた人間同士をかけ合わせて、優れた人間を増やす、とか、反対に障害のある人には子孫を残させない、ってやつ?」
「お前、常識人だなー、オレ全然知らなくて、おまえはその優生思想をどう思う?」
「どう思うもなにも、考えたことないよ」
「そうなんだよなー。八重は、そんでもバカにせず、ちゃんと説明してくれんのな。オレ女だったら八重に惚れてるわ」
「そうだろうね」
僕はその惚れてる女の子を知ってるって、心の中で思った。
「聖信女子の生徒って、頭いいから、みんなそんな感じなんかな?」
僕は素朴に聞いた。
「いいや、八重は真面目だって。それが原因でいじめられた事もあったらしい。それをナナが守ってるって」
「似合うな、ナイト」
「そう、でもガキの頃は、ナナがいじめられてて、八重が助けてたって。強くなったって、八重が笑って言ってた」
いじめられていたナナは想像つかないけど、八重との歴史の深さを感じた。
きっとナナには八重との大切な思い出がたくさんあるのだろう。
午前中、中休みに、キュウの彼女が僕たちの教室に顔を出した。思わず、目が合う。僕は不自然に目を反らした。
「キュウ、奥さん来てるぜ」
キュウの彼女に気づいた同級生が、僕たちの方を見ていった。
「なにが奥さんだ、…お!香織」
キュウは、彼女の方に近づいて行った。
香織さんはキュウと目が合うと、嬉しそうに笑って、手作り弁当を手渡していた。
僕はあまり二人を見ないようにした。
多分、キュウは香織さんのことは、たいして好きじゃないと思う。香織さんのことをかわいいとか料理が旨いとか褒めるとかあっても、人間性を褒めたことはない。
きっと長くは続かない。片思いの僕だけど、キュウの中で彼女の占める割合は僕より小さい気がして、安心していた。
でも今は、キュウは八重さんを好きになり始めている気がする。そしてキュウが自分の気持ちに気づいたら、今度こそ、失恋かな?と思った。
出会わせたのは僕。そう思うと複雑な気持ちだった。キュウのことをずっと好きだったのは僕なのに、同性って言うだけで、失恋も出来ない。
僕は、本当の恋人がキュウに出来たら、もう傍にいる自信は、とてもなかった。
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