第3話 彼女の告白、僕の本当。

 ナナと二人で向かい合い、観覧車のゴンドラに乗った。そこから見る景色はとても美しかった。彼女と出会って一週間。こうして目の前で笑うナナの顔は、昔からの幼なじみのように愛らしくみえた。

 とてもキレイなのに、何故か親しみを感じる。初めて出会った時、僕の気持ちを言い当てた彼女。

 なんとなく元カノ美咲と付き合っていて、多分心ここに在らずな顔をしたのを見抜かれて、指摘された。ウザイって。

 美咲の話は、いつも「私がね」で始まった。「お母さんが○○しなさい!って言うから、それを守ってやったのに、私がね、失敗したら文句言ってきて~」とか、「友達が○○くんが好きって言うから、友達のために、○○くんとのことを、私がね、取り持とうとしたら、友達に迷惑!って言われて、ね」と、私がね、で始まる話は、その後はだいたい、家族や友達などの文句が始まるパターンだった。付き合い初めは明るく元気な女の子だって思っていた。でも誰にでも良く思われたい気持ちが強すぎていつも人のことばかり、気にしていた。

「人には、されたら嫌なこともあるから、ほっとけば?」という僕の意見はまったく耳に入らず、「わたしは親切でやってんのに!」といつも腹を立ててた。

あのときは、僕がもうこれ以上、聞きたくない!となってる時に、ナナが言ったのだ。

「ウザイ」って。

「ねえ、ロクタ、あんた美咲ちゃんにヒドイことしたの、分かってる?」

「え?」

 ヒドイことって、ナナがやったんだろ?と言いたかったが、まあ僕の気持ちの代弁だったわけだから言い返せない。

「思ってるよ、美咲には悪いことしたって」

「宜しい。中途半端に付き合いのは相手に失礼だからね」

「じゃあ、僕らは?」

思わず、僕は聞いてしまう。僕に一目惚れって、どう考えてもおかしい。あのときは、ナナの勢いに押されて、付き合うことになったけど、ナナの本心が聞きたかった。

少し沈黙があった。

ナナは僕の顔をじっと見つめた。ナナの黒目がちな大きな瞳で見つめられると、何もかも見透かされそうでドキッとした。

「似たもの同士だからよ」

沈黙の後、ナナは言った。

「似たもの同士?どういう意味?」

僕には意味が分からない。

「ロクタは、キュウが好きなんでしょ?」

え?

「な、何で」それを?と言う言葉を飲み込んだ。

「違うの?」

僕は返事に困った。

「だから、ロクタはキュウのことが好き。私は八重が好き。そういうこと」

 ナナは笑顔でそう言った。

 しばらく僕とナナの間に沈黙が流れた。

 そう、僕はキュウのことが好きだった。

 友達としてではなく、多分、異性を好きになる感情に近い。自分でもおかしいよな?と思って、自分の気持ちに蓋をしていた。

 態度にだって、出さないようにしている。

 キュウとは、中学からの付き合いだ。バスケ部で一緒になったのが出会い。好きになった理由?恋愛に理由がいるだろうか?

 いつの間にか好きになっていた。いつの間にか、キュウの姿を目で追っていた。話しかけられると、何を話していいか分からなくなり、傍にいるだけでドキドキした。

 キュウが他の友達と話していると、とても気になったし、女の子にモテるのも嫉妬した。これが恋じゃなくて、なんなんだ、と心の中で呟やいていた。

 その僕の気持ちとナナの気持ちが同じだったなんて。本当に?

「ナナ、からかってる?」

「からかってないわ、真剣よ。私の八重への気持ちは恋愛感情よ。ロクタだって、そうでしょう。違う?」

「違わない」

 僕は降参した。自分の気持ちを初めて認めた。認めたら突然、涙が出てきた。涙が止まらなかった。

「いいのよ、正直になりな」

 ナナはそう言って、うなだれて泣く僕の頭を優しくポンポンした。そうされたら、少し笑いそうになった。

「ナナって、僕より男気あるかも…」

 泣き笑いしながら、呟くように、そう言うと「あったり前じゃん、好きな人を守るためには強くならなきゃ」

「八重さんを守りたいの?」

 僕は尋ねた。深い意味はなかった。

 でもナナには深い意味があった。

「そう、だからロクタの協力が必要なの。八重を守らないといけなくて、協力してくれる人を探してたの?ロクタ、協力してくれる?」

 そう言って、ナナは今まで見せたことのない真剣な顔で僕を見つめた。僕はナナの勢いに押されて、頷いた。そして事件は始まった。


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