第60話 恋愛中毒・甲
「西代、どうだ?」
「……警察のような人影は見当たらないよ」
賃貸を出て、しばらく歩いた十字路にある大きなゴミ収集ステーション。その近くで、目が良い西代が周囲を確認してくれている。今日は燃えるゴミの日だからゴミ袋が山盛りに積まれていた。身を隠すのにちょうどいい。
「駅まで逃げられたら俺達の勝ちだ」
「そのまま電車で大宮まで出てー、新幹線で京都にサヨウナラー、だよね!」
車は賃貸に置いてきた。パトカーから逃げた時、そこそこ距離があったのでナンバーは見られていないだろうが車種と色は絶対に覚えられている。なので車は使えない。少し高くなってしまうが公共交通機関を使う事が逃走の最適解だ。
「駅まで2キロ弱でありんす。このまま接敵しなければ案外簡単に行けるのではないか?」
よくよく考えると、俺達を追いかけていたパトカーは1台だ。逃げてから時間はそこまで経っていない。という事は捜索人数は2名だけだろう。そんな少人数から逃げる事くらい何でもない。
「あんまり慎重に進みすぎても見つかりそーだしー、ササっと行っちゃおーう!」
「そうだな。このまま素早く逃げ──」
「ちょっと待って……!!」
安直に進もうとする俺達を、西代が手で制した。
「何か……聞こえる」
西代が目と耳を
「「「…………」」」
西代が視線を向けている二つ先の通路に、俺達も目を向ける。
──バタバタバタバタ!!
そこに、大人数の警察官が走って現れた。
「「「「ばッ!?」」」」
身を隠すため、俺たちはゴミ捨て場に頭からダイブした。
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「……よし、ここで別れるぞ。必ず二人一組で行動するように」
「捜索対象は下着ドロがメインだ。
「「「「はい!!」」」」
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「…………行ったか」
「行ったでござるな」
ゴミ袋を持ち上げて、警官たちがいない事を確認する。
「……く、臭い」
「さいあくーー……。服に匂いついてないよねー?」
西代と猫屋がどんよりした顔でゴミから顔を出した。
「ふっ、2人とも情けないのぅ」
「ははっ、それな」
2人に反して、俺と安瀬はまるで平気だ。
「シュールストレミングを完食した我らに、この程度の悪臭は屁の河童であるな、陣内?」
「あぁ。あの臭さに比べたらここは天国だぜ」
仲良く安瀬と肩を組んで調子づく。マジで苦にならない。
「……私、いったん家帰ってシャワー浴びたーい」
「僕も……」
「まぁ、我も服くらいは変えたいでありんす」
「あー、まぁ、電車内で悪臭を放つわけにはいかないしな」
それに、追加で言うなら見込みが甘かった。
「このまま駅に向かうのは無理そうだよな」
あの量の警官を無策でやり過ごすのは無理だ。計画を立て直す必要がある。
「そうであるな。一回家に帰って態勢を整えるでござる」
「さんせー」
「異議はないよ」
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帰宅中であろうと警察に見つかれば俺達の逃亡劇は終わる。なので、まるで忍者ごっこのように隠れ潜みながら、俺達4人はコソコソと移動している。
「にひひ」
安瀬が微笑をもらす。彼女は、もうこの状況を楽しんでるようだった。
「忍者仮装セットでも買っておけばよかったでござる」
「それ逆に悪目立ちするだろ」
「ふふふ、でも分かるよ、安瀬。正直、僕も気分が高揚している」
キチガイとスリル
この状況を楽しめるとか、悪党の素質100点満点かよ。
「その感性は理解できねぇ……」
「わ、私もー。警官相手にリアル鬼ごっことかマジでヤバいからねー?」
「なに、捕まっても無罪さ。危ない事さえしなければ、僕たちは無敵だ」
「で、あるな。くくく、完璧な逃亡プランを練ってやるぜよ。我の手で国家権力を出し抜いてくれる……!!」
わぁー、本当にノリノリだわ、こいつ等。
「……まぁしかし、下着ドロであるか」
急に安瀬が難しい顔をして、先ほどの警察官たちが話していた内容について言及した。
「何とも間が悪い……そのような不埒な輩のせいで、我らまで大迷惑である」
「そいつを囮にする作戦でも考えてみる、というのはどうだい?」
「おぉ! 名案でござるな、西代!!」
「作戦会議は家に帰ってからにしようぜ」
もう家までの距離は目と鼻の先だ。というかもう、賃貸マンションの1階にある俺達の部屋が見えた。
「だねーー…………ん?」
その時、俺達の賃貸の扉が勝手に開いた。
「「「「え?」」」」
刹那の間で思い出す。先ほど俺達はパトカーに追われ、混乱のまま方針を決めて外に出た。
つまり、家の鍵を閉め忘れていたのだ。
「いやー、大量大量。大きいのから小さいのまで、多様多種だ。警官から逃げてて、若い女たちが鍵を掛けずに出ていった時は、思わず神様に感謝しちまったぜ……ははは、サイコー。味見が楽しみだわ」
俺達の賃貸から出てきたのは、リュックを前に担ぎ、その中身を確認する中年男性だった。
「かなり美人だったしなぁ、あの女達。あぁ……今からスゲェ興奮するぜぇ」
マスクと眼鏡で顔を隠した、下着ドロだった。
本日2度目、俺の脳内で緊急非常事態ボタンが連打された!!
変態犯罪者に出くわしたせいではない。そんな奴はどうでもいい。変態よりヤバいモンスターが、3人ほど俺の隣にいる。
「「「…………ッ」」」
自分に舐めた態度を取ったヤツに対して、どこまでも残虐に報復を実行するヤベー奴らが俺の隣に居る……!!
「ま、待てお前ら……こういう時ほど落ち着こうぜ? な?」
下着を知らぬ男に盗まれる。その生理的に受け入れ難い嫌悪感は、男の俺には想像ができないほどの物だろう。死ぬほど気持ち悪いだろうし、憤怒の感情が湧き出て止まらないはずだ。でも、この状況はまずい。俺達も今は追われる身だ。ここで彼女達に暴走されたら収集がつかなく──
「コロス」
「コロス」
「コロス」
「ひぃ……」
地獄の最下層、
「女の敵ィ、生きて帰れると思うにゃよー……」
「
「生まれてきたことを確実に後悔させてみせよう……」
やべぇ、完全に臨戦態勢だ!?
「あっ、まず」
下着ドロは彼女たちの殺気を感じ取ったのか、俺達に気がつく。そして、大慌てで逃げだした。
それがスタートの合図だった。
「猫屋ぁ!! お主はあのドぐされを追うでござる!!」
「僕たちは部屋で拷問器具を整えてくる!!」
「了解ーー!! 先に捕まえてボコボコにしとくーー!!」
逃げた下着ドロを見て、最恐モンスターズは各自動きだした。
「ちょっと待て馬鹿どもぉおおおお!?」
まずい、まずい、本当にまずい!! 彼女たちはアウトローだ。普段は大人しく学生を演じているが、本来の姿は規律に外れた行動を取ることに躊躇がない、社会不適合者だ。
キレたコイツ等は、凶器と変わらない。激情に任せて、下着ドロをちょっと口にできないような状態にしてしまうだろう。
普段なら別に止めない。一緒になって下着ドロを捕まえ、笑いながらその口にスピリタスを流し込んでいたはずだ。俺は何があろうと、大恩ある彼女達の味方をする。
でも今の状況だと確実に警察に見つかり、過剰防衛でお縄になる!!
(こ、こうなったら!!)
俺は即座に判断を下し、猫屋と下着ドロを追って全力で走り出した。
(俺が先に下着ドロを捕まえるしかない……!!)
警察から逃げながら、先にヤツを捕らえて、下着を奪い返す、という訳の分からない珍事を成し遂げるしかない!!
「くそが!! 京都にはいつ行けるんだよ!!」
どんどん悪くなる状況に、俺は大声で悪態をつくしかなかった。
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元陸上部である俺の足は当然速い。おまけに、ここ1月は禁酒喫煙していたおかげで体力もかなり戻っていた。
なので、女性の猫屋くらいなら一瞬で追い抜く事はできる。
「ちょ、陣内!? 危ないから私より先に行かないで欲しいんだけどーー!!」
彼女も相当早い部類には入るが、流石に俺にはかなわない。
「はぁ……はぁ……!!」
だが、問題は男の方。中年男の癖して結構早い。いや、泥棒らしく逃げ足が俊敏だと言った方が正しい。追いつくのにもう少しかかる。
「…………ちっ!!」
男が背後を向き、忌々しそうに舌打ちする。このままでは追いつかれる事を悟ったようだ。
「は、おい、嘘だろ!?」
男はリュックから縄状の物を民家の仕切りの細高いブロック塀に向かって投げた。カギ縄梯子だ。下着ドロは縄の梯子を急いで登っていく。
「なんでそんな物持ってんだよ!?」
「はーはっはっは!! 俺はその道10年のプロだ!! サツから逃げる為の道具は一通り揃えてある!!」
下着ドロが縄梯子を回収しながら、律義に俺の疑問に返事を返した。
「なんだそれ!? アンタの10年それでいいのかよ!!」
「ぐ……女3人侍らせてる、テメェなんかに俺の気持ちはわかるまい!!」
「侍らせてねぇよ!! ただの友達だ!!」
俺の弁明を聞く前に、変態は細いブロック塀を伝って逃げて行った。
「くそ、回り込むか……」
「じんなーい!! そのままーー!!」
「え」
背の高い壁に手をついている俺に、猫屋が一直線に向かってくる。
「とぉーう!!」
猫屋は速度を落とさず俺に向かって跳躍した。
「な、────ぐぇ……!?」
「にゃっ!!」
彼女は俺の背中に、猫みたく足二つ手一つを着き、俺を踏み台にして4メートルは跳ね上がった。彼女はそのまま細いブロック塀に着地する。
「よ、ほーい。ありがとー、陣内!」
猫屋は高みから笑って俺に手を振る。
彼女の超越した身体能力に関心する一方で、危機感と不安感の両方が俺の心にあふれてきた。
「猫屋!! お前、追ってどうするんだよ!! 片手で捕まえられるわけないだろ!!」
「ふふーん、陣内、私を舐めすぎー!!
な、なんだその術……。
「そ、それって使っても大丈夫な技術なの──」
「じゃーね、陣内!! 怪我してるんだから、追ってくるなら慎重にねー!! ……変態、待てオラーー!!」
猫屋は俺の話なぞ聞かず、怒声と共に民家の間に消えていった。
「あ、あの阿呆。お前も怪我人だろうが!!」
というか、猫屋の方が重症だ。俺の肋骨なんてもう痛くも痒くもない。でも猫屋はまだ右手を動かす事ができない。
「何をする気か知らないが、急がないとな……」
俺は猫屋と変態の行先に回り込む様に、急いで走った。
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警察と鉢合わせないよう、周囲に気を配りながら走る。ここで俺が捕まれば終わりだ。捕まって時間を消費している間に、酒飲みモンスターズが何かヤバい事をする。
そんな未来を危惧していた時、視界の端に二つの影が映った。
「…………はぁ!?」
ありえない物が宙を舞っていた。
民家の隣にあった大きなマンション。そこで、変態と猫屋が宙を歩く。建物と建物の間を飛び跳ねていた。
猫屋がパルクールじみた事をしてやがりやがった。
「うっそだろ、馬鹿、お前、片手……なんですけど」
追い詰められた下着ドロが隣のマンションに飛び移り、それを猫屋が追ったのだろう。そりゃあ彼女のバネとか運動センスはちょっと並外れている。常人とは違う物差しで体を操り、落ちることなく高所を駆け巡れるはずだ。
それでも心配すぎて、意識が軽く飛びかけた。
(……首根っこ捕まえて3時間くらい説教してやる。その後、鼻からスピリタス流し込んで、鼻で煙草吸わせて、鼻毛全部抜いてやろう……)
お仕置きの内容を考えながら、ポンポンと高所から高所に飛び移るドロボウと猫屋を深く観察する。行先を予想して先回りし、両方をまとめて捕まえてやるためだ。
「ん? アイツ等の終着点って……」
マンション群の一番端。そこにあるのは大学に一番近い位置にある、見覚えがある賃貸だった。
俺は、俺達が部屋を燃やして出ていったアパートに向かって全力で駆けた。
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そうして、俺は賃貸の非常階段を降りた先にある路地裏についた。
「ぜぇ……はぁ……!! な、なんなんだ、あの身軽な金髪女は──」
「追い詰めたぜ、このド変態野郎……!!」
この建物の間取りならよく知っている。絶対にここに出てくると思った。
「て、テメェはさっきの!!」
「挟み撃ちだ……。ほら、とっととそのバック置いてどっか行けよ。下着を返してくれるのなら見逃してやるから」
下着さえ取り戻せば、彼女達の怒りも収まるだろう。コイツも警察に捕まるのは避けたいはずだ。
「ちっ……!!」
だが俺の思惑に反して、男は棒状の長いバールをリュックから引き抜いた。
「え、ちょ!?」
「怪我したくないならそこを退け」
男は低い声で俺を威嚇する。先ほどの間抜けなやり取りで感覚が薄れていたが、コイツは10年も窃盗を繰り返している、ベテランの犯罪者だった。ガチで危ない人間だ。
も、もしかしたら、マジで殴られるかも……。
「…………」
うん、引こう。パンツに命を懸ける気など全く起きないし、こいつが彼女達から逃げてくれるならそれでいいや。
「何してんだテメェ!!」
突如、獣の咆哮じみた怒声が聞こえた。
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一瞬、誰の声か分からなかった。
「ね、猫屋?」
「…………」
下着ドロの背後に、追いついて来た猫屋がいた。
「何してんだって聞いてんだよ、おい」
いや、猫屋じゃない。あれは虎だ。瞳孔を縦に開いた、人喰い
「あー、やっぱいい」
機嫌がすこぶる悪いのか、猛虎は足早に会話を止めた。
「その汚い口を開くな」
空間さえ歪んで見えるほどの怒気を滲ませて、猛獣は得物を見定める。その威圧感に下着ドロは少し後ずさった。
「ちょ、ちょっと待て猫屋!!」
下着ドロ越しに、俺は猫屋に静止を促す。
「ここで喧嘩なんかしたらマジでやば──」
「どうでもいい」
な、なんだと!?
「二度と傷つけてたまるか、二度とあんな思いしてたまるか……」
「……? 猫屋?」
「私にアレを思い出させやがって……ッ」
……何を言っているのか分からないが、いつもの猫屋ではない。彼女は俺達の中では最低限の良識があって、優しいタイプの人間だ。なのに、今は口調が攻撃的で恐ろしい。
(き、キレすぎだろ……)
猫屋がカツカツとブーツを鳴らして男に迫っていく。自分より背丈が大きく、武器を持った相手に一切の迷いなく突き進む。
「病院送りにしてやる」
こうなれば最終手段だ。
俺はたじろいでいる下着ドロの横を通り抜け、猫屋の元へ向かい──
「す、ストップ!!」
猫屋を拘束するように抱きしめた。
「っっっ!?!?!?!?」
「大人しくしてくれ!!」
怒り狂った彼女を止めるには、物理的に抑えるしかないと俺は判断した。
「じ、陣内……!?」
「利き腕が使えないんだからあんまり危ない事はするな……!! そりゃあ、お前は技術的には強いんだろうけど、本身はか弱い女の子なんだからな!!」
「っ!!」
拘束し、"冷静になれ"、と彼女を諭す。猫屋からすればパルクールも喧嘩も何ら危険性のない行為なのだろうが、俺には危なっかしくてとても見ていられない。……心配してしまうので、もう少し控えめに暴れて欲しい。
「……きゅぅ」
「え、何その返事」
彼女は、借りてきた猫のように俺の腕の中で大人しくなった。猫屋の気の抜けた炭酸ガスのような返事は謎だが、どうやら俺の説得は成功したようだ。
俺は猫屋に気がつかれないように、無言で顎をしゃくって、下着ドロに早く行けというジェスチャーを送った。
下着ドロは事態が飲み込めていない様子だったが、じりじりと裏路地の出口へと向かって行く。
「……行ったか」
「………………」
男が去った事を確認した俺は、猫屋を解放する。
「悪いな」
一応、抱きしめた事を謝っておく。俺は起きた瞬間からノンアルを飲んでいるので猫屋に邪な感情を抱いてはいない。だが、男女の
(好き好き好き、マジで無理。ずるい、ずるい。もうほんとに大好き。私の王子様。陣内、マジで好き。キュンキュンしすぎて胸が張り裂けそう。ずるい、好き、ずるい、好き、大好き──)
「おい、猫屋?」
ぽぉーっと放心している様子の猫屋に声を掛ける。今になって自分がやっていた事に怖気づいたのだろうか。
「あ、いや、その…………もう、終わり?」
「え?」
「も、もうちょっとだけ──」
「ぎゃあああああああああああああ!?」
すぐ近くで、男の悲鳴が聞こえた。
「ま、まずい!!」
ヤベー奴は猫屋だけじゃなかった!!
俺は猫屋の左手を掴んだ。
「え、あ、陣内!?」
「いいからお前も来い!!」
猫屋を引っ張って、急いで悲鳴の元へ向かった。
************************************************************
「捕まえた……!! さぁ、どうやって粛清しようか!」
「カッカッカ!! 胴を掻っ捌いて、直腸を燻製にしてやるでござる!!」
「うわぁ……」
変態が漁業用の大きな網に掛かって悶えていた。なんでそんな物を持っているのか、なんて事は聞かない。どうせ出所は安瀬のバイト先だ。
網に掛かった得物を見て、2人は悪魔みたいな酷い笑みを浮かべている。
「おい、馬鹿2人。その辺りにしとけ」
「ん、なんじゃ陣内。遅かった……の?」
安瀬は手を繋いだ俺達2人を見て、少し止まった。
「な、なんで、2人は手を繋いでおるんじゃ?」
「あ? リードだよ。暴れ猫を抑えておくためのな」
まぁ、もう必要ないか。
俺は繋いでいた手を優しくほどいた。
「え、陣内。そ、そんな理由で私の手握ってたのー……?」
「その理由以外に何がある……」
まぁ、これで何とか間に合ったな。下着ドロは特に怪我はしていないようだし、このまま盗んだ物を返してもらってトンズラしよう。
「居たぞ!!」
俺達が網の下で暴れている変態の前で駄弁っていると、切迫した男達の声が聞こえてきた。
警察官たちだ……!!
「ふん、岡っ引きが来てしまったではないか」
「あーあ、ここでタイムアップかー」
「タイミングが悪いね……せっかく捕まえたのに」
酒飲みモンスターズは警察の出現に、今回の悪事はここで終了か、といった雰囲気を漂わせていた。
「い、いや、お前ら……キレて忘れてるのか?」
「「「え?」」」
「俺達も追われてるんだろうが!!」
「「「あ……」」」
どうやら彼女たちは逃げていたことを本当に忘れていたらしく、綺麗な間抜け顔を晒した。
「確保ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
声を荒げ、警察官様たちが俺達目掛けて迫ってくる。
「に、逃げろおおおおおおおおお!!」
俺は本日何度目かの全力疾走を
「え、ちょ──ふぎぃ!?」
まず最初に、足の遅い西代が押し倒され。
「あ、ま、待って欲しいでござ──」
次に、安瀬がワッパに掛けられ。
「にょ、尿検査はいやーー!!」
走りまくって体力の尽きたヤニカス猫屋が捕まり。
「旅行はどうなったんだよおおおおおおお!?」
最後に、飲酒運転と違法薬物所持の疑いで俺が緊急逮捕された。
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