第59話 彼らは頭がオカシイ


 許して


やめてやめて燃やさないで、ゴミじゃない、ゴミじゃないゴミじゃないそれはゴミじゃない、寝ているだけ、すぐ、もうすぐ起きるはずなんです、だから、骨だけにしないでまだ顔を見させて、まだ母に声を掛けさせていっぱいおはなしをさせてください親孝行なんてまるでできてない、急にいなくなった、急にいなくなるからお別れの言葉さえ言えなかった、いや、それよりも謝らせて、あやまらせてあやまらせて謝らせて不出来であなたにふさわしくない娘であったことを、どこまでも愚鈍で愚かなクズであったことを謝らせて母を不幸にしたことを許して…………お願いだから、何でもいいから返事をして何でもいいから返事をしてください起きてもう一度、なんで、そんなのはいや、いやだむりやだいやだたすけてどうしてどうしてどうして、許してなんでわたしだけ、他の家ではまだ生きて、まだ死ぬような年じゃ倒れるような、わた、わたしのせいで、ぁ、ぁぁ、ぁ、ああああ、お願いかみさまなんでもするから起こしていきかえらせて起こして


 もう一度だけでいいから声を聴かせて


 お母さんを燃やさないで


 お願い


 やめて


 骨をくだかないで


************************************************************


「──────は」


 目が、覚めた。


「────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────ふぅ」


 久しぶりに、母の事を夢に見た。火葬場の思い出。あれは夢である。過去の想起的な夢でありんす。


 中々、厳しいモノを……いや、良きモノを見たぜよ。夢のおかげで母の顔をしっかりと思い出せた。記憶は薄れていくものである。こうやって思い出せる事は幸運でござろう。


 ………まぁ、しかし、体が……少しだけ重い。


「すぅー」

「すぅ……」

「…………」


 体が重いのは、西代がくっついて寝ているからであった……。彼女は冷え性故に、温かい方に吸い寄せられる性質がある。


「……我の方が、猫屋より体温が高いようでござるな」


 隣では間抜け面を晒しながら猫屋が眠っている。昨日は、が楽しみでよく騒いで飲んだ。その疲れに身を委ねているのであろう。


 西代を起こさないように、ゆっくりと引き離す。時刻は5時。まだ出発予定時間まで余裕がある。いつもなら西代なんぞ気にせずに二度寝する我であるが、今は意識がハッキリとしていた。


「…………」


 布団から立ち上がり、ベットに視線をやる。

 そこに陣内はいなかった。既に起床して、朝ごはんでも作っているのであろうか? ……あ奴は、本当に細かい所で気が利くというか、人が喜ぶ小さな善行を積めるタイプの人間であるな。


 そんな陣内を探すために、寝室から出る。リビングに広がる珈琲の良き香。朝食の準備をしていると思われた陣内は、珈琲を啜りながら机に齧りついて勉学にいそしんでいた……いいや、朝食の準備もしていたようである。台所にはサラダとトーストの用意があった。


「えっと…………あ゛あ゛? なんだこの問題。くそ、こんなの分かるかよ……」


 最近、陣内は資格の勉強に精を出している。

 頑張るおのこの姿とは、何とも言い難い微笑ましさがあるでござるな。……まぁこの感情は、身内びいきというか、恋煩いが引き起こす物であるのかもしれんがの。


「おはようでござる」


 声を掛け、胡坐あぐらで座る彼の背に合わせるようにして、背中を預ける。


 顔を見られたくはない。今はきっと、我の目からは涙が出てしまっている。


「ん……なんだ、今日は随分と早起きなんだな」


 彼がこちらに振り向こうと首を背後に廻そうとする。だが、。陣内の顔は、我の顔を見る直前で止まったのだ。


「…………おはよ。今日はいい天気だ。天気予報が言うには、今日はずっと晴れだし、明日も明後日も雨は降らないらしい」

「そうであるか。まさしく天晴あっぱれな旅行日和であるな」

「あぁ」


 陣内のシャーペンを握っていた手が解かれ、体の支えになるように床に突っ伏す。拙者も床に手をついていた。


 小指の先。その僅か1ミリが、我の手に触れている。


「朝飯は何がいい?」


 陣内は、いつもと同じ声色で話す。


「……既にサラダとトーストが見えるが?」

「は? 何を勘違いしてんだ。アレは、俺の勉強の間食だよ。お前らの朝食はまだ作ってねぇよ」


 彼の隣は心地いい。


「退院してから腹が減って仕方ないんだよ」

「まぁそれは、当然、であるな」

「ついでに言うと、今日は和食の気分だしな」


 背中を預けただけで……雰囲気だけで全てを察してくれる。


「味噌汁と、焼きおにぎりなんてどうだ? 炊き立てのご飯に濃い口醤油とみりん、鰹節をぶち込んで、それをごま油でパリッと焼くんだ」

「……食欲がそそられる話でござる」

「だろ? 食前酒に梅酒も開けるか。絶対に美味いぞ」

「朝から酒でやんすか……」


 口では不満を装ったが、今はちょうど梅酒が飲みたい気分であった。


「お主が用意してくれると言うのであれば飲んでやるぜよ」

「あぁ、当番だしそれくらいはしてやるよ……それとな、へへっ、一杯でいいからご同伴させてくれよ」


 下卑げびた、三下の声音が聞こえてくる。それは作られた声音だ。陣内がわざと作っている声だ。


「酒が飲みたくて手が震えてる……もう飲酒欲求が限界寸前なんだ。なぁ、頼むぜ? 安瀬さんよ」


 いつもと同じように、陣内は振る舞おうとしてくれる。きっと、我の気持ちを酒と一緒に全て吹き飛ばすつもりだ。


「……まだダメに決まっておろう。約束も守れんのか? この糞アル中めが」

「えぇ? 真面目に頼むぜ」


 お主が、この約束をきちんと守ろうとしている事くらいはちゃんと分かっておる。


「ふん、いいから我らの為に朝飯の用意をしてこい」


 それでも、お主は我の気持ちを優先してくれるのであるな。


「はぁー、仕方ないな。……ちょっとそのまま待ってろよ」


 陣内はに、台所へ向かって行った。


「…………ぁぁ」


 お主のそういう所が、本当に……本当に好きでござる。


(約束のプチ旅行……2人きりで行きたかった。……なんて思ってしまうのは、流石に2人に悪いか)


 もっとも、親に仕送りを増やして貰っている陣内に、あの約束を完璧に守らせる気は我にはなかった。


 そんな、子供の我儘みたいな事を言うつもりはなかった。









************************************************************









 "親から受ける最後の"。その言葉を最初に言ったのは誰なのだろうか。親は生涯最後、子供に死を教え込むらしい。


 高校生の頃、授業の一環で"教育"について作文を書いた事がある。その時、言葉の正確な意味をネットで調べた。ヒットしたのは日本国家が運営する文化科学省もんぶかがくしょうのホームページ。そこでは、俺達日本人の代表が教育という言葉を定義している。


 いわく、教育とは。

 『人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない』


 

 馬鹿な俺がその言葉を解釈しやすいよう言い換えると、それはというモノになった。


 教育は大人になる為に必要な物だと思います。……確か、作文にはそんな感じの文字を書いた。


 安瀬桜という人間に対して、俺の評価は以下の通りだ。

 幼稚で悪逆。天真爛漫な癖に、意外と気難しくてプライドが高い。そして、親しい友人だけに素の自分を見せる子供のような奴。明るくて、馬鹿で、一緒に居て楽しいから……友人として俺は大好きだ。


 そんな彼女だけが、俺達の中で唯一、大人になる最後の条件を満たしてしまっている。


 何というか……現実はどこまでもクソだ。酒と煙草、あとは観光地で夢見心地のままに遊んで全てを吹き飛ばしてやりたい。


 過去も未来も何も考えずに、安瀬には今を、今だけを子供のように楽しんでいて欲しい。膨大な量の楽しい時間が、彼女には必要なんだと思う。時間だけが全てを解決してくれる。


 今よりもクズだった昔の俺は、そういった結論を出した。


************************************************************


「乾杯でござる!!」

「ふふ、乾杯……!!」


 朝7時の車内。安瀬と西代がビールを開けやがった。


「「っち!!」」


 助手席に座る猫屋と共に、俺は盛大な舌打ちを出す。


「怪我人に運転を任せて、自分たちは酒盛りかよ!」

「ホントにねー! マジで常識なーい!!」


 朝から飲んでいた安瀬は仕方ないとして、西代まで一緒に飲み始めるとは……猫屋の言う通り、マジで常識が無い。


「んっ……ん、ぷは。……うるさいよ、君たち」


 西代が速攻でビールを飲み干した。あ゛ー超美味そう……。俺も酒飲みたい。最近、手の震えが止まらないので勉強の時に困っているくらいだ。


「6時間も素面でいるなんて、僕達には不可能だ」

「で、あるな。いいから黙って我らを運ぶぜよ。もう飲んだから運転は無理でおじゃるからな」


 京都までの交通手段は車だ。4人で割れば車が一番安いし、車内でなら騒ぎたい放題だ…………まぁ、運転者が非常に疲れるというデメリットがあるんだけどな、くそ。


「置き去りにして、2人だけで旅行に行ってやろうか」

「…………それはちょっと、ホントに少しだけアリかもー……」


 猫屋が何かボソボソと小言を漏らす。良く聞こえなかったが、後ろの馬鹿2人に対する呪言か何かだろうか?


「あ、陣内。疲れたら私と運転代わってねー。片手でもオートマなら楽勝だしー」

「……あぁ、その時はよろしく頼むぜ。まぁ休憩は多めに取るつもりだし大丈夫だろうけどな」


 流石にちょっと危ないので、運転は全て俺が担当するようにしよう。


「さてと」


 文句も大方出尽くしたので、俺はイグニッションを廻した。それに合わせて安瀬が口を開く。


「さぁ、旅路の門出を祝してもう一度乾杯である!!」

「そうだね。早速、パリピ酒でも開けようか」

「え、コカレロでも持ってきたのか?」

「そっちじゃないよ。アレ、かなり高いだろう? 僕が用意したのはこれさ」


 そう言って、西代はクーラーボックスから大きなツノを生やした鹿が印刷された瓶を取り出した。


 三大パリピ酒の1つ、イェーガーマイスターだ。56種類ものハーブが使用されているドイツの薬用酒である。不思議でケミカルな甘さが濃厚でかなり美味しい。湯で割って飲めば安眠を誘い、冷やして飲めば薬効によって気分が高揚する……という触れ込みだ。正直に言えば、グビグビ飲んでしまうので効能とか気にしたことが無い。


「試験管グラスも持って来ているよ」

「それ、俺のコレクションじゃねぇか……」


 イェーガーの通で粋な飲み方は、試験管グラスに入れてキンキンに冷やし、それを一気に煽る事だ。ダークな色合いの薬用酒が、試験官の科学的不気味さとマッチして洒脱しゃだつに見える。


「このグラス、硬くて割れにくいから車内で飲むのにちょうどいいと思ってね」

「だからって了承も得ずに持ってくるなよ」

「まぁ勝手に私物を拝借した事は謝るよ。その代わり、陣内君にはお詫びの品を用意してある」

「え、マジで?」

「この特別な水を贈呈してあげよう」


 西代が俺に溶けた髑髏がプリントされた缶を渡してくる。


Liquidリキッド Deathデスか」


 Liquidリキッド Deathデスはハイセンスに装飾された水だ。『バーで飲んでいてもダサくない水』というキャッチコピーで売り出されていて、クラブやフェスで爆発的に売れている。物凄くカッコいい水だ。……お酒やエナジードリンクを飲んでいる気分になれる水。マジで、ただの水……酒飲みたい。


「あー、ちょうどいいやー。それ少し分けてー。ボングの水欲しかったんだよねー」

「あぁ、はいはい」


 俺は猫屋に適当に返事して、車を走らせ始めた。


 ……京都に早くついて欲しいなぁ。


************************************************************


 警察官、鬼塚おにづか正義まさよしは早朝パトロールの最中であった。


「…………」

「ふぁ~~あ。俺、朝のパトロールってかなり好きっすわ。普段の書類仕事を忘れてドライブしてる気分になりますから。……お、可愛い子発見」

「……今日から3連休だ」


 鬼塚は隣の若い警察官に対して、低く威厳のある声で話しかける。


「他県に外泊する家族も多いだろう。気をしっかりと引き締めなさい」

「……いつも思うんですけど、たまたま違反を犯しちゃった旅行中の家族とかを捕まえるのって、俺すげー罪悪感あるんすよね」

「言いたいことは分かる。だが、俺達が取り締まることによって、運転への意識改革に繋がればそれだけで悲惨な事故が減るはずだ」


 だから、これは大切な業務の一環なのだと鬼塚は部下に言い聞かせた。


「それに、この近辺で全国的にらしい。警戒を強めなければな」

「あー、なんか報告に上がってましたね。被害件数が300を超えるヤベーのがうろついてるって」

「そうだ。不審者を見逃さないためにも、常に気を張っておけ」

「ま、そうですね! 俺も鬼塚さんを見習って真面目に業務に取り組もうと思います!!」

「あぁ、今日は一日よろしく頼むぞ」

「へへっ、はい────ぇ?」

「? …………どうした、青信号だぞ。早く出せ」

「………………」


 若い警察官は同じく信号で止まっていた隣の車を凝視していた。鬼塚もそれに釣られて視線を横にやる。


 隣の車は陣内達の物であった。


 運転席で陣内はリキッドデス(酒を飲んでいるようにしか見えない)で喉を潤し、助手席では猫屋が水パイプ(違法な葉っぱを吸引しているようにしか見えない)で喫煙を楽しみ、後部座席で安瀬と西代は、試験管に入った真っ黒な液体(違法薬物にしか見えない)を飲んで大騒ぎしている。

  

「「──────────、」」


 飲酒運転とドラッグパーティー。白昼堂々と、ド級の違反行為に手を染めている若者たちを見て、2人の警察官は大口を開けて絶句する。


 2人の時間は30秒ほど止まってしまった。


「ば、……あ、ば。なっ、な」


 陣内達の自動車が遠くに進んでようやく、鬼塚の硬直が解ける。

 

「な、なにを惚けている!! 早く、追え!! い、急いで捕まえるんだ!!」

「え! あ、はい!!」


 若い警察官はアクセルを踏み、鬼塚は車内スピーカーを急いで手に取った。


************************************************************


 ──ウオオン、オンオオオオオオンン


『そ、そこの頭がオカシイ軽自動車!! 今すぐ止まりなさい!!』


「「「「!?」」」」


 突如、俺達の後方のパトカーがサイレンを鳴らし始めた。俺達4人は、普段の行いのせいかビクッと過剰に反応してしまう。


「……え、軽自動車って、おい」

「ま、周りに、僕たち以外に軽自動車はいないけど……」


 つまり……。


「な、な、何がバレた!?」


 そう言う事である。


「え、え、ええええーーー!? あ、あれかな!? この前の喧嘩がバレちゃったのかなーー!?」

「びょ、病院に忍び込んだ件かもしれぬ!!」

「だ、大学でお金を賭けてポーカーしたやつかも……!!」


 や、やべぇ……逮捕される心当たりしか存在しない……!!


「陣内君!!」


 サイレンが俺の脳内をグチャグチャにかき乱す中、西代が俺を大声で呼びかけた。


「逃げるんだ!!」

「は、はぁあ!?」

「そうである!! 急いで逃げるでござる!!」

「に、逃げちゃえ、陣内!!」


 マジかコイツ等!? 本気で言ってやがるのか!?


「ちょ、は、逃げ、逃げるって!?」

「いいから!! 早くアクセルを踏むんだ!!」

「そこの角を左に曲がるでござる!!」

「え、ぅ、えぇえ……!?」


 俺は訳が分からなくなり、彼女達の言う通りにハンドルを切る。


「次はすぐに右じゃ!! 細い路地をやみくもに逃げまくるんじゃああ!!」

「え、ぅ、え、え、ええ、えええええええええええええええええ!!??」


 俺は半狂乱のパニックのまま、彼女達に従った。


************************************************************


「に、逃げきれてしまった……」


 俺達4人は奇跡的にパトカーの追跡を振り切り、自宅へと帰還していた。……帰還してしまった。


「「「「………………」」」」


 明かりもついていない室内でテーブルを囲み、全員が顔を伏せて冷や汗をダラダラと流し続けている。


(や、やってしまった……)


 今回ばかりは申し開きのしようがない。完全に終わった。詰んだ。完璧に人生終わった。罪の重さに耐えきれない。


 俺は頭を抱えて卓上に額を押し付けた。


「あ、ああ……ついに、ついに、俺は警察から逃げて……は、犯罪を……」

「え、いや、陣内君。逃げるだけなら何もよ」

「…………え、そうなのか?」

「うん。逃げる時にパトカーに車体をぶつけたり、違法な速度で走行しない限り、何の罪も罰則もないはずだ」

「そ、そうか。なら良かった……」


 …………でも、なんでだろう。人生の中で一番悪い事をした気がする……。


「れ、冷静に考えたらさー、私達ってなんで追いかけられたんだろー……」

「確かにね。よくよく考えれば、僕達の悪行がバレたとは思えないよ」

「ふむ……」


 安瀬が顎に手をやり、一呼吸だけ考え込んだ。


「我なりに考察してみたのであるが、車内の状況が酷すぎたのが原因ではないかの?」

「あぁ、なるほどね。猫屋のボングは危ない葉っぱを吸っているようにしか見えないから」

「俺の水も、後ろで酒飲んでたお前らも結構危ない雰囲気だったと思うぜ?」

「あーー、そういうーー……」


 そうなると、さっき追いかけられた件については罪は無いし、俺が逃げた事にも違法性は無い。今回に関しては俺たちは完全に無罪……という事になるのだろうか?


「まぁでも、とりあえず、警察署に出頭するか?」


 恐らくだが、外では先ほどの警察官が逃げた俺達を探している。誤解を解くためにも、違法性が無かった事を説明しておきたい。


「いや待って、陣内君。そんな事をしたら、間違いなく長時間拘束される羽目になるよ。僕達、逃げちゃったんだから」

「西代の言う通りぜよ。我らには今、飲酒運転と違法薬物摂取の疑惑が掛かっているはずでありんす。車内の捜索とアルコール検査。それに加えて尿検査は確実であろうな」

「ま、マジ!? 尿検査ーー!?」


 猫屋が大音量の声を上げる。


「そ、それは絶対に嫌!! 健康診断ならともかく、警察署なんかで尿を摂るのなんて死んでも嫌だからねーー!!」

「…………」


 猫屋が嫌がるのは当然の反応だ。ドラマで見た事があるが、警察が行う尿検査では排尿する所を人に監視されるらしい。そんな羞恥プレイは俺も御免だ。


「で、あるな。そんな下らない事に大切な休日の時間を消費するのは嫌……嫌…………嫌……で……」


 急に、安瀬の歯切れが異常に悪くなる。そのまま彼女は追加の冷や汗を流しながら押し黙った。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………の、のぅ……こ、このまま京都に、に、?」


「「「────」」」


 俺達3人が、驚愕の視線を安瀬に向ける。3人とも、コイツマジか、という顔をしていた。


「あ、安瀬、本気か?」

「ほ、他に何か代案あるかえ?」


 ……確かに。この緊急事態。京都まで逃げて3日もやり過ごせば、なんやかんやで、綺麗に収まってしまうのではないだろうか……?


「うぇー……。つ、ついに私達、追われる立場になっちゃうのかー……」

「猫屋。そういう言い方は止めるんだ」

「そうである。、拙者たちは悪事を働いてはおらんではないか」


 強いて悪いものを挙げるとするなら、運が悪かった、という事になるのだろうか。


「うん。、僕たちは何もしていないよ」

「まぁ。、私達悪くないのかなー?」

「あぁ。、俺達に正義がある……のか?」


 4人のフラフラと頼りない視線が机の中央で交わる。


「「「「…………」」」」


 その視線は段々と、強く結びついていった。


「「「「……に、逃げるかぁ」」」」


 4人の意思はここに一致した。


「……で、では!!」


 その瞬間、我らがリーダー格、安瀬桜が勢いよく立ち上がる。


「こ、ここ、ここに!! ぎゃ、逆都落ち大作戦の決行を宣言する!!」

「「「や、やぁー」」」


 あの安瀬の声が震えている。いつもなら、もっと堂々と悪巧みの宣言をする彼女であるが、流石に今回は肝が縮みあがっているようだ。……まぁ、それは皆同じなんだけど……。


「な、なお!! 本作戦は国家権力を相手取る、激やば作戦となっておる!! けっっっっっして!! 作戦中に捕まるような危ない行為、または警察官様に迷惑を掛けるような行為はしてはいかんぞ!!」

「「「は、ははぁ~~~!!」」」


 俺達史上、最大の逃亡劇が始まる。













――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


出典:文部科学省ホームページ (https://www.mext.go.jp/)

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