第67話 呪力(龍脈)発電所建設③

「いや、そこはちゃんとお金を取らないと駄目だろ……」

「ええっ!? でもこの土地を提供してくれたのはこの町の領主様ですし、呪力発電所を作るために必要な資材は全部用意して貰った物を使ったんですよ? ボクなんてただ地面に呪符を貼り付けてゴーレム化し、そのゴーレムに働かせて呪力発電所を建てただけで、それ以外何もしていないじゃないですか?」


 動力には、この町の地下に流れる龍脈を使っている。

 ボクは本当に大したことをしていない。呪符もお手製なのでほぼ無料だ。


「……いや、君は一体何を言っているんだ? 『呪力発電所を建てただけ』って、普通の人にそんな事ができるはずがないだろう。とにかく、君がいなければ呪力発電所なんて建てる事ができなかった。君はその対価を貰うべきだ」

「そ、そんな事を言われても……」


 なんだか、荒魂を対価にお金を貰う様で心苦しい。


「リーメイ君が決めないならこちらで金額を決めてしまうぞ?」

「え、ええっ!?」


 そ、そんなっ……別にお金なんかいらないのにっ……。

 しかし、バンビさんは本気だ。そんな感じの目をしている。


「……ボ、ボクが金額を決めてしまってもいいんですよね?」

「ああ、もちろんだ」


 ようやく決心したかといった表情を浮かべるバンビさんにボクは念を押すため、もう一度話しかける。


「本当にボクが決めていいんですよね? 撤回しませんよね??」

「……なんだかそう言われると怖いな。だが二言はない。べらぼうに高い金額でもない限り、言い値を払う。町の皆もそれについて了承しているからな」


 いつの間にか町の人達からも了承を取っていたらしい。

 それなら気兼ねなく言わせてもらおう。


「……それでは、月額銅貨一枚(約百円)でっ! それ以上の金額は受け取りません」

「げ、月額銅貨一枚? そ、そんなに安くていいのか?」

「はい。もちろんです!」


 町の人全員で呪力発電所を使って銅貨一枚。

 この位であれば、ボクも心が痛まない。


「リ、リーメイ君がそう言うならそれでもいいが……」

「はい。全然問題ありません」

「そ、そうか……それじゃあ、前払いでこれを……」

「へっ?」


 そう言うと、バンビさんはボクの手の上に硬貨が詰まっていそうな袋を置く。


「……えっと、これは?」


 袋の中身をチラ見すると、金貨が入っているのが見えた。

 何故に金貨?

 ボク、銅貨って言わなかった?


「うん? 足りなかったか? 一人当たり銅貨一枚、商会の数も加算して計算するとそれだけの金額になるんだが……」


 バンビさんの言ってる意味がわからずボクは首を傾げる。


「……えっと、ボクが言ったのは、町の人全員で呪力発電所を使って銅貨一枚って意味合いだったんですけど……」

「はあっ?」


 すると、バンビさんの顔が強張り始めた。


「町の人全員で呪力発電所を使って銅貨一枚って、本気で言っているのか?」

「は、はい……」


 だって、バンビさん。ボクが金額を決めていいって言うから……。

 無償でいいって言っているのに、勝手に金額を決めようとするから、だったら銅貨一枚でいいかなって……。


 そんな事を考えながらバンビさんにウルウルした視線を向けると、バンビさんは宙を仰ぎ目に手のひらを置いて、ため息を吐いた。

 呆れて物も言えないといった感じだ。


 とりあえず、金貨の入った袋をバンビさんに返すと、またもやバンビさんがため息を吐く。


「リーメイ君。君ね……まあいいか。とりあえず、このお金は手付金として受け取っておきなさい」

「は、はい……」


 結局、ボクの手元に金貨が戻ってきてしまった。

 バンビさんがそこまで言うなら仕方がない。ありがたく貰っておこう。


「それと、今後の呪力発電所運営についてだが……」

「はい。発電所の運営については領主様にお任せします。メンテナンスは、発電所の建物内にいるゴーレムがやってくれますので、もしゴーレムが壊れるような事があれば気軽に言って下さい。すぐに直しますので!」


 呪力発電所の運営に興味のないボクはそのすべてを領主様に譲り渡すことにした。


「――ただ、動力部には立ち入らないよう気を付けて下さい。かなり危険なエネルギーを動力としてますので」


 そうまくし立てるように言うと、バンビさんが盛大なため息を吐いた。


「はあっ……わかった。リーメイ君の意見を尊重しよう」


 なんだかもう投げやりだ。

 だけど、ボクは呪力発電所関連でこれ以上のお金を取る気はまったくない。

 何度も言うが、呪力発電所の意義は荒魂を鎮める事にあるからだ。

 荒魂を鎮める為の場所で金儲けをするなんて罰当たりなことボクにはできない。


「わかって頂けて何よりです」

「しかし、リーメイ君は凄いな……こんな物を作り上げることができるなんて……」


 呪力発電所に視線を向けながらそう言うバンビさん。


「いやぁ、ボクなんてまだまだですよ」


 今は亡きお父さんやお母さんはもっと凄かった。

 ボクなんてまだまだだ。


 とはいえ、褒められるのはなんとなく嬉しい。


「って、あれ? そういえば、小型の呪力発電機ってどうしたんですか?」


 アラミーちゃんが動力部に入った発電機のことだ。


「ん? そういえば……リーメイ君が使うと聞いて持ってきていたのだが……どこに行ったんだ?」


 どうやらバンビさん。アラミーちゃん入りの小型呪力発電機を無くしてしまったらしい。まあ、呪力発電所があるから別にいいんだけど、なんとなく胸騒ぎがする。


「それじゃあ、探しましょ――」


 そう言いかけてすぐ、町の外で轟音が鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る