第63話 呪力発電機③
――トントンッ
二回ほど戸を叩くと、知らないおじさんが店の中に入ってきた。
「こんにちは、パンピーナの皆さん……」
「あ、あんたは、ピーチ……呪力発電機の修理の件は断った。人の家に乗り込んできて、一体、何の用だ……?」
どうやらこのおじさんの名前はピーチというらしい。
随分と可愛らしい名前のおじさんだ。
でも、このおじさん。どこかで見たような……どこだろう?
ちょっと思い出せないや……。
とりあえず、部外者が介入するべき空気感でもないので、そっと、事の推移を見守っていると、ピーチおじさんは笑みを浮かべる。
「まあまあ、そんなに邪険にしないで下さいよ。こちらはあくまで親切心……。そう。親切心で修理しましょうかと申し上げているのです。新たな呪力発電機を売って差し上げてもいい。呪力発電機が壊れてしまってはパン屋の営業ができなくなってしまうでしょう? 店内を拝見させて頂きましたが、並んでいる商品が食パンだけというのも中々、寂しいものですねぇ……」
元の世界でも、食パン専門店なんてものもあったし、そうでもないと思うんだけど……。
そんなことを考えていると、店長さんが怒鳴り声を上げる。
「なにを言っていやがる! たった数日で壊れる様な不良品を売りつけてきたのはお前じゃないかっ! その不良品を購入するのにも金貨百枚かかっているんだ! 修理費用に金貨五十枚も出せるかっ!」
「ええっ!? あんなパチ物を金貨五十枚でどうやって直すんですかっ!?」
思わずそう言うと、ピーチおじさんは少しだけ顔を強張らせ、ボクに視線を向けてくる。
「呪力発電機をパチ物扱いとは……失礼なお子様だ。どうやら物の価値がわからないお子様らしい。いいかい、坊や? 今、私達は商談中なんだ。とりあえず、部外者である君はこの場から消えてくれないか?」
邪魔なんだよと、手をひらひら振るピーチおじさん。
確かに、ピーチおじさんの言う通りだ。
これはパンピーナとピーチおじさんとのお話。子供であるボクが無闇矢鱈に介入する問題ではない。
「それもそうですね。それじゃあ……」
ボクはこれで失礼しますと、この場から出て行こうとすると、パンピーナの店長さんがボクとピーチおじさんの間に立つ。
「いや、この子には聞きたいことがある……が、まずは君の名を教えてくれないか?」
「えっ? ボクの名前ですか? リーメイですけど……」
そう言うと、パンピーナの店長さんは一呼吸置いて話しかけてくる。
「そうか。俺はパンピーナの店長、バンビ。リーメイ君、さっき君が言った『パチ物』の意味を教えてくれないか?」
どうやらパンピーナの店長バンビさんは、ボクが直した呪力発電機を『パチ物』呼ばわりしたのか気になるようだ。
「いいですけど……怒らず聞いて下さいね?」
アクバ帝国を出てから結構な時(一ヶ月程度)が経っているし、私見も混じっているので参考程度に受け取ってくれるとありがたい。
「ああ、もちろんだ……」
「それでは簡潔に……バンビさんがピーチおじさんから購入した呪力発電機は、厳密には呪力発電機ではありません」
それだけ述べると、ピーチおじさんとバンビさんの顔が強張った。
「「なにっ!?」」
二人揃って、ボクに顔を向けてくる。
息ピッタリだ。
「どういうことだっ!」
「これは、あの高名な占術士ニセーメイ様が作成したものだぞっ! ふざけたことを抜かすんじゃない!」
ニセーメイ?
誰だろう。有名な人なのかな?
全然知らない人の名前だ。
「えっと、高名な占術士ニセーメイという方がどなたなのかは知りませんが、少なくともこれは呪力発電機ではありません。だって、呪力発電気は呪力を元に動かすもの。なのに動力部分には魔石が使われていましたし……」
ちょっと考えればわかるはずだ。
呪力発電機は、その名の通り呪いの力を動力としている。
魔石を動力にしている時点でそれは呪力発電機ではない。
もしボクがそんな初歩的な間違いを指摘されたら『呪力発電……あ、なんでもないです。すいません』と言ってすぐさま間違いを正すだろう。
「なあっ!? あの高名な占術士ニセーメイ様を知らないだとっ!?」
「はい、全然知りません。それに話を聞く限り、その方は占術士なんですよね?」
占術士とは、太陽・月・惑星などをこの星から見た天体の位置や動きに基づき、人の内面などを判断し占う人のことだ。
「いくら高名だからと言って、占術士に呪力発電機が作れるとは思えないんですけど……実際、動力部に魔石が入っていたし……そもそも、ピーチおじさんはこの呪力発電機をどうやって修理しようと思っていたんですか? まさか動力部に魔石はめ込んでお終いなんてことはないですよね?」
この動力部には当初、壊れた魔石が入っていた。
もし万が一、動力部に魔石を設置して『はい。直りました!』なんて言われたら、それは紛うことなき詐欺行為。
なにせ魔石を取り替える。たったそれだけのことで金貨五十枚を請求されるのだ。
普通に考えてあり得ない。
ボクがそう質問すると、ピーチおじさんは苦笑いを浮かべた。
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