第62話 呪力発電機②

「さあ、アラミーちゃん。君にはこの呪力発電機の動力源になってもらおうかな?」


 元々、呪力発電機とは、荒魂の荒々しい呪力を封じ、発散させて和魂に浄化させるためのものだ。

 小型とはいえ、アラミーちゃんを封じるのにこれほど適した物はない。

『封印』の呪符を手に持ち構えていると『ケタケタケタケタ』という声が店内に響いてきた。

 ハナちゃんに呼び出してもらったのは、以前、ボクが封じたストーカー的荒魂、アラミーちゃん。


『ケタケタケタケタッ! 久ジブリ、久ジブリ! 私、アラミー。元気ニシテ――』

「『封印』っ!」


 予め出現位置が分かっていれば簡単に対処することができる。

 ボクはアラミーちゃんが動力部に現れると共に、『封印』の呪符で動きを封じ、動力部のカバーを閉めた。


「ふうっ……。これでよしと……」


 ストーカー的荒魂であるアラミーちゃんは強い。

 浄化してもすぐに荒魂が黒く汚染されてしまう。

 アラミーちゃんを完全に浄化するためには、呪力発電機の力が必要だ。


 一息ついて小型呪力発電機のスイッチを入れると、呪力発電機がアラミーちゃんの呪力を動力に動き始める。

 ちゃんと、動いてくれて良かった。ほんの少し、ガタガタ音を立てているのが気になるけど……。

 正直、少し不安だったのだ。アラミーちゃんほどの力を持った荒魂を小型の呪力発電機に封じることができるのかと……。


 しかし、結果を見ればこの通り。

 荒魂側からしてみても、呪力発電機の中は、リラクゼーションサロン並みに気持ちのいい場所(のはず)だ。

 徐々に呪力(悪いもの)を抜かれて最後は和魂となり成仏していく。

 この呪力発電機は小型なのでアラミーちゃんの浄化に百年ほどかかるかもしれない。パン屋さん側からしても、それだけ発電機が保ってくれれば問題ないはずだ。

 とはいえ、呪力発電機に封じたのはあのアラミーちゃんだ。ガタガタ音も鳴っているし、少しだけ、呪力発電機を補強しておこう。


 呪力発電機のスイッチを一度切り、アラミーちゃんが封じられている動力部以外のカバーを外すと、動力変換機やコイル、磁石に問題ないか確認していく。


「うわぁ。これは酷い……」


 呪力を動力に変換させるための回路が滅茶苦茶。よくこれで動いていたものだ。

 おそらく、動力に魔石を使っていた弊害なのだろう。回路の損耗が激しすぎて、呪力の十パーセントしか出力することができていない。

 今、問題なく動かすことができたのも、アラミーちゃんの呪力の強さあってのことだろうと思われる。


 とりあえず、回路をすべて取り外し、新たに花ゴブリンの森で取ってきた金とミスリルを削り新たな回路を作ると、コイルに新しい銅線を巻き、磁石も新しい物に変えていく。


「……こんなもんかな?」


 それにしても、この呪力発電機を作ったのは誰なのだろうか?

 この呪力発電機……いや、この呪力発電機モドキは、まるで『呪力発電機を元にパーツだけ作成し、組んでみたらなんとなく動いちゃいました』みたいな奇跡的なバランスの元に組み立てられていた。

 特に回路の書き方の効率が悪い。

 配線がループしている箇所があったり、まったく意味のない配線があったり、『なんとなく作ったら動きました』といった声が思わず聞こえてきそうな感じだった。

 よくこれで動かすことができたものだ。

 壊れてしまったというのも頷ける。


 もう一度、呪力発電機のスイッチを押すと今度はスムーズに動き始める。

 動力部の封印が解かれないようカバーにも呪符を貼り二重に封印したら……、これで完成だ。

 故意に開けようとしない限り、偶然、カバーが開きアラミーちゃんが解き放たれることは絶対にないはずだ。


「はい。終わりました。もうオーブンを使うことができますよ!」


 一仕事を終え、腕で汗を拭うとボクはパンの楽園、パンピーナの店員さんに無事修理が終わったことを報告する。


「「…………」」

「あれ? 店員さん?」


 おかしいな。なんで店員さんが固まっているんだろう?


「えっと、店員さん? 呪力発電機が直ったので、もうオーブンを使うことができますよー?」


 再度、そう問いかけると、店員さんはハッとした表情を浮かべながら声を漏らす。


「き、君は一体……」

「えっ? ボクですか? ボクはただのFランク冒険者ですよ?」

「そ、そう……。最近の冒険者って何でもできるのね……?」


 なんだか釈然としない。そんな感じの声音だ。


「い、いや、そんなことより、呪力発電機が直ったって本当か!?」

「はい。この通り直りました。でも、カバー部分に触れないよう気を付けて下さい。動力にちょっと危険なモノを使ってますから……ああ、触らなければ全く問題ないので安心して下さい」


『危険なモノを使っていますから』辺りで顔を青褪めさせた店長さんにそう補足を入れると、店長さんは少しだけホッとした表情を浮かべる。


「そ、そうか……呪力発電機を直してくれてありがとう。正直、なぜ急に動かなくなったのか理由がわからず困っていたんだ。買ったばかりにも拘らず修理代も高いし……」

「そうだったんですか……ちなみにこの呪力発電機をいくらで購入されたんですか?」


 好奇心からそう聞いてみると、店長さんは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ呟く様に言った。


「金貨五十枚だ……」

「き、金貨五十枚っ!?」


 小型とはいえ安い。あまりに安すぎる。

 普通、呪力発電機を購入しようと思えば、その四倍はかかる。

 アクバ帝国で販売されている小型呪力発電機の値段は金貨二百枚だった筈……。

 あまりに安価な購入費用に唖然とした表情を浮かべていると、戸を叩く音が聞こえてきた。


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 これからも更新頑張りますので、よろしくお願い致します。

 2022年8月28日PM15時の更新となります。

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