第61話 呪力発電機①
「さぁ~て、今日はどんなパン食べようかなぁ~」
そんなことを言いながらやってきたパンの楽園パンピーナ。
「キャンキャン!(ボクはフランスパンが食べたい!)」
「パンヲ食ベルノ初メテ。私ハナンデモ嬉シイ!」
「そっか、そっか!」
そう鳴きながら、足下をくるくる回るポメちゃんに、ボクの羽根をはばたかせながら肩に留まるハナちゃん。
「それじゃあ、ポメちゃんはここで待っていてね。美味しいフランスパンを買ってくるからさ!」
「キャンキャン!?(えっ! またボク入れないのっ!?)」
「うん。ごめんね?」
衛生観念上、ポメちゃんをパン屋さんに入れることはできない。
それがパンの楽園、パンピーナの決まりだからだ。
手を呪符で消毒し、店内に入ると鼻孔をパンを焼いた香ばしい香りが鼻を伝う。
これは期待できそうだと、トングとバスケットを手に持ち中に入ると、店内には食パンのみが並べられた光景が広がっていた。
「えっ?」
トングとバスケットを持ち、愕然とした表情を浮かべていていると店員さんが話しかけてくる
「申し訳ございません。食パンしかなくて驚きましたよね? 実はつい先ほど、オーブンが使えなくなってしまいまして……」
「そ、そうなんですか……」
それはとても残念だ。
パン屋に来て惣菜パンが買えないなんて……。
しかし、なんでそんなことが……。
ボクは思い切って聞いて見ることにした。
「なんで、オーブンが使えなくなってしまったんですか?」
そう尋ねると、店員さんは困った表情を浮かべる。
言っていいのか、悪いのか判断付かない様な表情だった。
「えっと、実は私達が利用しているオーブンの動力に異常があるようでして……」
「動力?」
元居た場所では、呪力発電による電力供給がそういった機械を動かすための要だった。もしかして、オーブンの動力も呪力発電?
コンセントもあるし、なんらかの理由で電力供給ができなくなってしまったのがその理由だろうか?
「オーブンはなにを動力にしているのですか? もし良ければ、ボクが力になりますよ?」
もし、このオーブンを動かすための動力が電力だった場合、かなり簡単に対処することができる。
そう尋ねると、店員さんは困った表情を浮かべた。
「いえ、お客様に相談することでもないのですが、当店では、アクバ帝国の商人から購入した小型の呪力発電機を元にオーブンを動かしていまして……、どうやらその呪力発電機が壊れてしまったようなんです」
「なるほど……」
それならなんとかなるかもしれない。
丁度、ボクの手元には呪力発電に必要な素材が山のように存在している。
「……もしかしたら、なんとかなるかも知れません。ボクにすべてを任せて頂けませんか?」
「えっ? お客様にですか?」
「はい! 丁度、呪力発電に必要な道具が揃っていますのでっ!」
「え、え~っと……」
ボクの言葉に店員さんが困った表情を浮かべ固まってしまう。
すると、店内の様子を見に来たであろう店主さんが声をかけてきた。
「どうした? なにか問題事か?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、この子が壊れてしまった呪力発電機を直したいと言うもので……」
「うん? 呪力発電機を?」
そう言うと、店主さんは頭をガリガリ掻く。
「まあ、見る位ならいいんじゃないか?」
「う~ん。それじゃあ、ちょっとだけよ? 小型の呪力発電機とはいえ、結構、高いんだから壊さないようにね?」
「はい。わかりました!」
ボクが元気よくそう言うと、店員と店主は顔を見合わせる。
その表情は『本当にわかっているのか?』といった表情だ。
「それじゃあ、こっちに着いて来てくれる?」
「はい!」
店員さんに案内されるがまま、厨房の奥に入っていくと、奥に見慣れた呪力発電機が設置されていた。
「これがその呪力発電機なんですが……」
「これが、ですか……」
うん。この呪力発電機。もの凄く見たことがある。
これはアクバ帝国に普通に流通していた小型の呪力発電機。
これならなんとかなりそうだ。
「……これなら多分、大丈夫です!」
「「えっ?」」
ボクがそう声を上げると、唖然とした表情を浮かべる。
小型呪力発電機の仕組みはいたってシンプルだ。
導線を巻いたコイルの中で、中に入っている磁石を呪力で回し電力を発生させる。ただそれだけである。
慣れた手付きで小型呪力発電機のカバーを外すと、動力源に手を当てる。
どうやらこの呪力発電機は、粗悪品。動力源に壊れた魔石が入っている。
元々、呪力発電機とは、荒魂の荒々しい呪力を封じ、発散させて和魂に浄化させるためのものだ。その結果、生じる呪力を動力源に電力というエネルギーを得ている。
大規模な呪力発電機は、荒魂を封じたダンジョンと直接リンクさせることで動力を生み出していた。
そういえば、荒魂のアラミーちゃんや禁忌的荒魂クッコロちゃん。ハナちゃんなんかも、あのダンジョンから解放されてしまっているんだけど、かの国は大丈夫だろうか?
アクバ帝国にある呪力発電機の大半があのダンジョンとリンクしていたような気が……まあいいか。いまはそんなことどうでもいい。
「ハナちゃん。アラミーちゃんをこの動力部分に召喚してくれないかな?」
『ウン。イイヨー! ネエネエ。知ッテルー? 赤イ彼岸花ニハ、アナタニ一途、悲シキ思イ出ッテ言ウ意味アルンダヨー』
ハナちゃんがそう言うと、呪力発電機の動力部を取り囲むように赤い彼岸花が咲き乱れた。
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