第64話 呪力発電機④

「も、もちろん、そんなことはしないとも……」

「それじゃあ、どうやって修理するつもりだったんですか?」

「そ、それは……」


 そう呟くと、ピーチおじさんは苦い表情を浮かべ、小型呪力発電機に視線を向ける。しかし、良い案は思い浮かばなかったようで、すぐに視線を外した。


「そ、そうだっ! 私はこれから大切な用事があるのだった。いやぁ、私としたことが、パンピーナの皆さん。私はこれで失礼させてもらうよ。もしその呪力発電機が壊れるようなことがあれば、気軽に連絡してくれたまえ!」

「誰がお前みたいな悪徳商人に連絡なんてするかっ! 出て行きやがれっ!」


 そう言うと、ピーチおじさんはそそくさと退散し、パンピーナの店長であるバンビさんは塩の塊を手に取ると、ピーチおじさんを追い掛け外に向かってそれを投げ付けた。


 まさか塩をまくのではなく投げ付けるとは思いもしなかった。

 唖然とした表情を浮かべていると、バンビさんが外から帰ってくる。


「ふんっ! まったく、不快な野郎だっ!」

「まあまあ、落ち着いて下さいよ。詐欺に引っかからなくて良かったじゃありませんか」

「うん? まあ、そうだな。リーメイ君のお蔭で詐欺に遭わずに済んで良かった。しかし、困ったな……」


 バンビさんは頭を掻きながら困った表情を浮かべる。


「どうかしたんですか?」

「いや、実は……」


 そう言うと、バンビさんはとんでもないことを打ち明けてきた。


「ええっー! この町で商売をしている人のほとんどが、ピーチおじさんから呪力発電機を購入しているんですか!? あの呪力発電機とは名ばかりのパチ物をっ!?」

「ああ、実はそうなんだ……」


 それは大変だ。

 ピーチおじさんが販売した呪力発電機は呪力発電機とは名ばかりのパチ物。効率の悪い魔石発電機と言ってもいい代物だ。修理とは名ばかりの詐欺行為をピーチおじさんが行う可能性がある。


 でも、ボクにできることと言えば、呪力発電機の修理位のもの……。

 バンビさんも困っているようだし……。


「……もし良かったら、ボクが何とかしましょうか?」

「えっ? リーメイ君が修理してくれるのかい?」

「はい。すべての小型呪力発電機を修理するのは難しいかも知れませんが、場所さえ提供して頂けるのであれば、この町に一基。呪力発電所を作ることができます。後は、そこで作った電気を送電線という金属の線を引いて送れば、好きなだけ電力を使うことができますよ? まあ、その場合、バンビさんの力をちょっとお借りすることにはなりますが……」

「うん? 俺の?」

「はい。力を借りるといっても、その小型呪力発電機に封じたアラミーちゃんの力が必要となるんです」


 そう。呪力発電に荒魂の呪力は不可欠。

 その為、呪力発電所を作るのであれば、アラミーちゃんや他の荒魂の力が必要となる。


「それは構わないのだが……送電線というのは何だい?」

「ああ、送電線と言うのは、呪力発電所で作られた電気を運ぶための通り道みたいなものです。この町の景観を損なわないように、地下に送電線を引きたいと思っています」

「で、電気を運ぶための通り道?」

「はい! どこか呪力発電所を建ててもいい場所を知りませんか?」


 そう尋ねると、バンビさんは考え込む。


「……そうだな。町の外であれば問題ないんじゃないか? 一応、領主様に話を通しておけば問題ないだろうし、その辺りの手配は俺の方で行うとしよう」

「本当ですかっ! ありがとうございます!」


 流石はバンビさんだ。話が早い。


「あっ! でも、一つだけ問題があるんですけど……」


 ボクが言い難そうにしていると、バンビさんが尋ねてくる。


「なにか問題でもあるのか?」

「いえ、実は呪力発電所を一基作るのに最低でも金貨一千枚位掛っちゃうんです。そこだけが問題で……」


 呪力発電所を作るための労働力は、ゴーレムに任せるから問題ないし、整地は妖刀ムラマサを使えばなんとかなる。

 問題は、送電線に使う金属を購入するためのお金だ。

 バンビさん曰く、ピーチおじさんは『この町で商売をしている人のほとんど』に小型呪力発電機を売りつけたらしい。


 希少金属は自前の物を利用できるからいいんだけど、送電線はそうもいかない。

 町中の人に電気を送り届けるためには、最低でもそれ位の金額が必要となる。


 ボクが申し訳なさ気にそう言うと、バンビさんが大きな声で笑い始める。


「くっ……あははははっ! リーメイ君。そんなことを気にしていたのか?」

「えっ? でも、金貨一千枚は大金なんですよっ!?」


 元の世界基準で言えば、一千万円。

 もの凄い大金だ。


「その位、皆で集めればなんとかなるさ。この町に商人が何人いると思っているんだ?」

「えっと、二十人位でしょうか?」


 そう言うと、バンビさんは呆れたかの様な表情を浮かべる。


「いや、そんな訳がないだろう。最低でも百人はいるよ。呪力発電所が使えるとなれば皆お金を出してくれるさ!」

「えっ? そういうものなんですか?」

「まあ、しばらくしたらわかる様になるさ」

「そ、そうですか……」


 バンビさんの言う通り待っていると、数日後、一千枚の金貨がボクの元に舞い込んできた。

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