第51話 ポエマー的荒魂ハナ②

 ハナちゃんは、ポエマー的荒魂にして、豆知識披露型荒魂。軽い語り口調に信じられない位の魂を乗せて、花言葉を現実にしてくる。

 決して油断できる相手ではない。


「……なにを、かな? ハナちゃん」


 準備を整えそう尋ねると、お爺さんに乗り移ったハナちゃんが笑みを浮かべる。


『赤イ彼岸花ニハ、アナタニ一途、悲シキ思イ出ッテ言ウ意味アルンダヨー』


 ハナちゃんがそう言うと、洞窟内に赤い彼岸花が咲き乱れていく。


「……ちょっとまずいかも。みんな、ボクが時間を稼ぐから洞窟の外に逃げてっ!」


 思いの外、ハナちゃんの思念が強い。

 いつの間にか、お爺さんの頭の上に咲いている彼岸花が咲いた時、『ケタケタケタケタ』という声が響いてきた。


『ケタケタケタケタッ! 久ジブリ、久ジブリ! 私、アラミー。元気ニシテタ?』


 ハナちゃんが呼び出したのは、以前、ボクが封じたストーカー的荒魂、アラミーちゃん。


 赤い彼岸花の花言葉。

 貴方に一途、悲しき思い出。を現実化し、ボクに一途な感情を抱き、封印されるという悲しき思い出を持つ存在であるアラミーちゃんを顕現させたのだろう。

 花ゴブリン達が洞窟から逃げるまで時間を稼ぐことができるだろうか?


「もちろんさ。アラミーちゃん……アラミーちゃんも元気そうだね……」


 ついこの間、浄化し封印したばかりだというのに、もう浄化前のアラミーちゃんに戻っている。


『ケタケタケタケタッ! 私ハ元気。私ハ元気ッ! デモ、アナタハ元気ソウジャナイ。ダカラ……』

「だから?」


『身体強化』の呪符を身体に付すと、ボクは妖刀ムラマサを構える。


『ダカラ私ガ元気ニシテアゲルッ!』


 そう言うと、アラミーちゃんがボクの胸に飛び込んできた。


「うっ!?」


 想定より数倍早い。避けきれない!?


『ケタケタケタケタッ!』


 アラミーちゃんがボクに抱き着いた瞬間、アラミーちゃんの身体から炎が噴き上がる。


「くっ! 『起きろ。ムラマサ!』」


 咄嗟に開合を唱え、刀身から黒い瘴気を放つとアラミーちゃんのハグが一瞬緩む。


 その瞬間を逃さず、アラミーちゃんのハグから抜け出ると、思い切り背後に飛び退いた。


『ケタケタケタケタッ。残念。チョットシカハグスルコトガデキナカッタ。ケタケタケタケタッ!』

「うん。そうだね……」


 なにが面白いのかはわからないが、アラミーちゃんにハグされたボクは、そのちょっとのハグで大ダメージ。

 周囲に浮かべた呪符は燃え落ち、肉が焼けた臭いが周囲に充満する。


 宙をなぞり亜空間から『治癒』の呪符を取り出すと患部に貼り付け火傷を治していく。


 これはマズイかもしれない。


 アラミーちゃんは強い。

 以前戦った時は外だったから簡単に浄化することができたが、ここは洞窟。


 妖刀ムラマサの放つ瘴気では時間稼ぎにもならない。虚を突くのに精一杯である。


『ハナッハナッハナッ! ネエネエ。知ッテルー?』


 アラミーちゃんに苦戦し、肩で息をしているとハナちゃんが畳み掛けてきた。


「なにを、かな? ハナちゃん……」


『白イ彼岸花ニハ、想ウハアナタ、マタ合ウ日ヲ楽シミニ、ッテ言ウ意味アルンダヨー』


 ハナちゃんがそう言うと、洞窟内に咲いていた赤い彼岸花が枯れ、代わりに白い彼岸花が咲き乱れていく。


『エッ? チョット! ナニヲシテッ……!?』


「うん?」


 アラミーちゃんの様子がおかしい。

 さっきまで、感じていた強力な思念がどんどん弱まっていく。

 そして、白い彼岸花が満開に咲き乱れると、アラミーちゃんの姿が掻き消えた。


 白い彼岸花の花言葉。

 想うは貴方、また会う日を楽しみに、を現実化し、ボクのことを想うアラミーちゃんを元いた場所に戻したのだろう。


 正直、もう二度と会いたくないが、これはチャンスだ。


 ポエマー的荒魂のハナちゃんは、感覚派。

 感覚派のポエマーだからこそ、なんとなくカッコいい花言葉を思い付けば、それを言葉にせずにはいられない。


 いまの内にハナちゃんを封じなければ……。次にアラミーちゃんを呼ばれたら勝ち目がない。


 花ゴブリンを逃してから十五分。この洞窟から出るには十分過ぎるほど時間が経過している。


 ならばボクも逃げよう。

 戦って見てよくわかった。洞窟内でハナちゃんと戦うのは自殺行為だ。


 ボクは妖刀ムラマサの刀身を頭上に掲げると、ハナちゃんに向かって笑みを浮かべた。


「それじゃあね。ハナちゃん。機会があったらまた会おう。『刃を形取れ。ムラマサ』」


 そう開合を唱えると、刀身から黒い瘴気が溢れ出し、瘴気が刃を形取る。


 そして『刃よ。散れ』と呟くと、瘴気の刃が洞窟内の壁を斬り刻み破壊していく。


『ハナッハナッハナッ! ネエネエ、知ッテルー?』


 そんな中、ハナちゃんが豆しば的語り口調でそう語りかけてくる。


 しかし、ハナちゃんに構っている余裕はない。ハナちゃんの笑い声が響く中、騒ぎに乗じてその場を後にすると、洞窟から脱出するため走り出す。


 その瞬間、身体全身に寒気が走る。

 バッと、背後を振り向くと、壁に赤い彼岸花が咲いていることに気付いた。


 赤い彼岸花に視線を向けると、彼岸花がケタケタ笑い出す。


『赤い彼岸花ニハ、再会、ッテ言ウ意味アルンダヨー』


 一輪の赤い彼岸花がそう言うと、壁中に赤い彼岸花が咲き乱れていく。

 気付けば目の前に、ハナちゃんに取り憑かれたお爺さんの姿があった。

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