第43話 とんでもない借金を負いました……

 部屋の中に置いてあるものといえば、人間用のベッドとペット用のベッド、机にテーブル位のものだ。

 さっきまでいた部屋とえらい違いである。


「本当になんにもない部屋だねー!」

「キャンキャン!(ほんとにねー!)」


 まあ、部屋を壊しちゃったのは、ボク等(主にバトちゃんとポメちゃん)に原因があるから仕方がない。

 とりあえず、残りの借金をなんとかしないと……。


 部屋を壊した際、求められた弁済額は金貨一千枚

 マッチョンお姉さんに冒険者ギルドで受け取った『癒され草』と『癒し草』の報酬、金貨六百枚を支払ったから、借金は残り金貨四百枚。


「金貨四百枚かぁ~」


 ものすごい大金だ。

 十二歳の少年が背負う金額じゃない気がする。

 多分、もし借金を被ったのがボクじゃなければ、奴隷落ちしていたかもしれない。

 金貨四百枚の高級奴隷か……。


 うん。誰も買ってくれないね!

 奴隷になった瞬間、鉱山送りにされそうだ。


「また花ゴブリンの森に行かなきゃいけなくなっちゃったね」

「クーンクーン(花ゴブリンとフォレストベアーが可哀想なことになるんだねー)」

「うん。そうだねー」


 ポメちゃんがなにを言っているのか聞き取れなかったけど、『可哀想』という単語だけは聞き取れた。

 多分、借金を負わされ可哀想的なことを言っているのだろう。


 まったく、それもこれもバトちゃんとポメちゃんに原因があるんだからね。

 とはいえ、ペットの責任は飼い主にある。

 バトちゃんとポメちゃんの気性を考えず、二匹きりにしたボクが悪いのだ。


 ベッドに寝そべりながらそんなことを考えていると、『くーっ』とお腹が音を鳴らした。ボクの胃袋ちゃんが『飯はまだか』と亭主関白宣言している。


「キャンキャン(お腹すいたよー)」


 ポメちゃんもお腹が空いているようだ。


「……そうだね。そろそろご飯にしようか」


 亜空間からフードボウルを取り出すと、ダンジョン内で作ってもらった豚ちゃん特製ドッグフードと蒸留水をそこに入れていく。


「ハッハッハッハッ(うん。おいしいー)」


 バクバクとドッグフードを食べるポメちゃん。

 バトちゃんは今頃なにをやっている頃だろうか?

 ご飯、ちゃんと食べてるかなぁ……。


 そんなことを想いながら、オークジャーキーを食む。


「うん。いい味でてる。流石は豚ちゃんだね」


 オークキング特製のオークジャーキー。

 自分の身体のことをわかっているからこそ、この味が出せるのだろう。

 噛みしめる度に味わい深いオーク肉の味がじんわり出てくる。


 亜空間から『清潔』と『治癒』の呪符を取り出し、ボクとポメちゃんに貼る。

 すると、今日一日の疲れが吹っ飛び、身体がまるでなにかに洗われるかのような感覚に襲われた。


「……これでよしと」


『清潔』の呪符には、身体や服に付いた汚れを取り除き、清潔に保つ効果がある。さらにこの呪符はボク特製の呪符。

 この『清潔』呪符には、清潔に保つ効果の他に、金木犀の香りが身体に付与される効果や、虫歯・歯周病予防、歯を健康に保つ効果付きだ。


 金木犀の香り……好きなんだよね。歯もピカピカ!

 後はゆっくり休みを取るだけだ。


『呪符』の力を使えば二十四時間三百六十五日、疲れ知らずに動き回ることも出来るけど、流石にそれはやりたくない。


「さて、そろそろ寝ようか、よい子はお休みの時間だよー」

「クーンクーン?(えっ、もう寝るの?)」

「うん。そうだよー」


 ポメちゃんのフードボウルを『洗浄』の呪符で洗い亜空間に戻すと、ランタンの明かりを消し、枕に頭を乗せる。横を向くとポメちゃんが渋々、ペット用ベッドに入るのが見えた。


「おやすみ。ポメちゃん」


 そう呟くと、ボクは目を瞑り眠りについた。


 翌日、朝目覚めると、パンのいい匂いがしてくる。


「キャンキャン!(お腹すいたーお腹すいたよー!)」


 起き上がると、一生懸命に扉を開けようとするポメちゃんの姿があった。


「おはよう。ポメちゃん。えっと、外に出たいのかな? 扉の下にあるペット用出入口から出れるよ」

「キャンキャン!(えっ、そうなの!)」


 そう鳴くと、ポメちゃんはドアノブを回すことを諦め、ペット用出入口を潜り部屋の外に出る。

 部屋の扉を開け、パンの匂いのする方向へ足を進めていく。


「キャンキャン!」


 どうやらポメちゃんは外にいるようだ。

『憩いの宿マッチョン』を出ると、向かいのお店からパンを焼くいい匂いが漂ってきた。どうやら目の前のお店はパン屋さんだったみたいだ。


 お店の中に入ろうとするポメちゃんを抱きかかえ、お店の扉を開ける。

 すると『チリーン♪』といった鈴の音が店の中に鳴り響いた。


「いらっしゃいませ。ようこそ、パンの楽園パンピーナへ! ああ、お客様。大変申し訳ございません。当店はペットとご一緒の入店をお断りしております。恐縮なのですが、ペットは……」

「ああ、そうなんですね。わかりました」

「キャンキャン!?(えっ! ええっ!?)」


 ポメちゃんをお店の外に出すと、「ちょっとここで待っててね」と声をかけ扉を閉める。

『えっ? 僕は入れないの?』といったように唖然とした表情を浮かべるポメちゃんに思わず、苦笑する。

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