第44話 パンの楽園パンピーナ

「ポメちゃんのパンも買ってきてあげるから、ちょっと待っててね」


 そういって扉を閉めると、手を呪符で消毒し、トングとバケットを手に持つ。

 流石はパンの楽園パンピーナ。

 お店の中がパンの香ばしい匂いで一杯だ。


 店内にはボク以外、お客さんが誰もいない。

 店内に広がるパンの香ばしい匂いを愉しみながら、美味しそうなパンをトングで挟みバケットの中に入れていく。


 ポメちゃんはあれで大食感だ。

 元々のサイズが大きいというのもあるけど、『縮小』の呪符で身体のサイズを縮めてもそれは変わらない。


 犬にパンはあまり良くないっていうけど、ポメちゃんはモンスター。

 とはいえ、マイペットであるからには健康にも気を使いたい。


 よし。これにしよう。


 そう心の中で呟くと、ボクはバケツに刺さっていたフランスパンモドキと、食パンをバケットに入れる。


 ポメちゃんの元のサイズはビッグサイズだ。

 少量なら大丈夫って聞いたことあるし、この位なら問題ないよね?


「すいません。お会計お願いします」

「はい。ありがとうございます♪」


 そう言ってバケットをカウンターに置くと、店員さんが紙袋にパンを入れていく。


「銀貨一枚になります」

「はい。銀貨一枚ですね」


 ポケットに手を入れ亜空間から銀貨一枚を取り出し、カウンターの上に置く。

 金貨四百枚の借金があるのにパンを購入してしまった。

 なんだか贅沢をしている気分だ。


 そういえば、いま、亜空間の中には一体、いくらのお金が入っているのだろうか?

 バトちゃんとポメちゃんが宿の部屋一室を壊した時は気が動転していて、とりあえず、稼いだばかりの金貨六百枚を渡しちゃったけど……。


 もしかしたら、結構な大金が入っているかもしれない。


 土地を追われた際、家の中にある資産やお金については持ってくることができなかったけど、基本的に稼いだお金は亜空間に収納してきた訳だし……。


「ありがとうございました~!」

「また来ますねー」


 ちょっぴりの不安とパンの入った紙袋を抱きかかえながら外に出ると、ポメちゃんがボクの膝に両前足を乗せてくる。


「ハッハッハッハッ!(早くパンを食べさせてー!)」

「はいはい」


 紙袋からフランスパンモドキを取り出すと、ちぎってポメちゃんの口元に持っていく。すると、ポメちゃんは勢いよくフランスパンモドキに嚙り付いた。

 フランスパンモドキを口に咥えたポメちゃんは器用にそれを前足で掴み咀嚼していく。

 そして、フランスパンモドキを飲み込むと、幸せそうな表情を浮かべ、再度、ボクの膝に両前足を乗せてくる。


「ハッハッハッハッ!(もっと頂戴。もっと頂戴!)」

「はいはい」


 フランスパンモドキの味が相当お気に入りのようだ。

 ボクが食べる用にほんの少しフランスパンモドキをちぎり、残りすべてをポメちゃんに上げると、ポメちゃんは狂喜乱舞し、フランスパンモドキを咥えたまま、器用にくるくると回り始めた。


「ハッハッハッハッ!(ご主人様。大好きー!)」

「うんうん。ボクもポメちゃんのことが大好きだよー。それじゃあ、宿に戻ろうか」


 そう言うと、ボク達は『憩いの宿マッチョン』の部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ると、ポメちゃんは口に咥えたフランスパンモドキを床に置き、前足を器用に使って食べ始める。


 ボクもポメちゃんに倣ってフランスパンモドキを口に含むと、香ばしくパリッとした食感が口の中を伝う。


「うん。おいしい!」


 ポメちゃんが夢中になるのも頷ける味わいだ。焼き立てのパンはなんでこんなにもおいしいのだろうか。


 亜空間からフードボウルを取り出すと、その中に蒸留水を注ぎ、ポメちゃんの横に置く。

 すると、今度は勢いよく蒸留水を飲み始めた。


 パンを食べると喉が渇くからね。

 その気持ちはよくわかる。


「さてと……」


 蒸留水にがっつくポメちゃんに微笑ましい視線を送りながら食パンの入った紙袋をテーブルに置くと、ボクは亜空間に一体いくらお金が入っているのか取り出してみることにした。


「いくら位入っているかなー?」


 思えば、亜空間を整理したことはなかった。

 いままで整理する必要性もなかったし、作った呪符や買った物、手に入れたお金を適当に入れてただけだ。


 亜空間に手を突っ込み、お金をイメージしながら引っ張り出していく。

 すると、握り拳一個分のお金を掴んだ感触を得た。


 亜空間から完全に引っ張り出してみると、手の中には金貨十枚と銀貨五枚が握り締められていた。


 日本円に換算すると十万五千円。

 一人と一匹で旅をするのに厳しい金額だ。

 実は結構、ギリギリの状態だったらしいことに今、気付いた。


 あまりの金欠っぷり、頬に汗が伝う。

 ヤバい。これはヤバい。


 なんでこんなにもお金がないのか、そんなことは決まっている。

 あの土地に……家の金庫に置いてきてしまったためだ。

 呪符使いに必要な呪符に適した紙を買うために必要なお金。そのすべてを置いてきてしまった。


 まずい。非常にまずい。

 思い当たってしまった。

 金欠な上、マッチョンお姉さんに金貨四百枚の借金があり、これまで、大量の呪符を使いまくっている現実に……。


 ふと、テーブルに視線を向けると、いつの間にか食パンを完食しているポメちゃんと目が合う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る