第33話 サバイバル試験⑳(禁忌的荒魂、クッコロ)

「クッコロちゃん……。関係ない人を巻き込むのは止めようね……」


 そう諭すも、荒魂として暴走しているクッコロちゃんには通じない。


『クコクコクコクコッ! 関係ナイ! 私ニハ関係ナイ! アラミーガイナクナッタイマ、アナタハ私ノ物ッ!』


「ボクは物じゃないよ。クッコロちゃん……」


 どの荒魂も共通して言えること。

 それは、精神状態が壊滅的であること……。


『醜悪ナ、オークロードニ蹂躙サレ屈服スルヒロイン……最高』


 ――と、言ったことを、ボクに平然と言える位に精神状態がヤバいぐらいに歪んでいる。


「ボクはヒロインじゃないよ。クッコロちゃん……」


 しかし、話を聞いてくれないのが荒魂であるクッコロちゃんだ。


『クコクコクコクコッ! 大丈夫! 大丈夫ッ! 誰ニデモヒロインニナル素質ハアルノダカラッ!』


 会話できているように見えて、まったく会話になっていない。

 そうクッコロちゃんが声を上げると、呪符で護っているはずの皆が、揃って腰を振り出した。冒険者さん達だけは辛うじて堪えている。


 なんて悍ましい光景なんだ。


 しかし、いま、オークロードやゴブリンキング、冒険者さん達を救えるのはボクだけ……。


 クッコロちゃんから目を離さず、亜空間から呪符を取り出すと、クッコロちゃんの影響で悶えている皆に『失神』の呪符を貼り付けた。


「「ううっ……!?」」


 ボクの呪符を受けたゴブリンキングやオークロード、冒険者さん達が呪符を受け失神する。


『クコクコクコクコッ! 容赦ナイネ! 容赦ナイネ!!』


「こうでもしないと、目の前でとんでもないことが起こりそうだったからね……」


 万が一、みんなの理性が飛べば大変なことになる。

 それこそ、カクヨム規約違反で一発BAN必至だ。


「……でも、そろそろ終わらせようか」


 ダンジョン内の異変。間違いなくクッコロちゃんが原因だ。

 それに冒険者さん達をこのまま失神させておく訳にもいかない。


 宙をなぞり亜空間から妖刀ムラマサを取り出すと、斜に構える。


 ここは浄化の光太陽の光が届かぬ洞窟内。

 アラミーちゃんの時は、太陽の光により怨念を浄化したが、ここではそうもいかない。

 限られた手段でクッコロちゃんを封じる。

 そのためにはまず……。


『起きろ。ムラマサ』


 そう開合を唱えると、妖刀ムラマサから黒い瘴気が立ち昇る。

 それを見てクッコロちゃんがクコクコ笑い出す。


『クコクコクコクコッ! 通ジルカナ? ソレ私ニ通ジルカナァ?』


「さあ、どうだろうね? でも、やってみなきゃわからないよっ!」


 そう言って妖刀ムラマサを横に薙ぐと同時に走り出した。

 黒い瘴気がクッコロちゃんを襲う。


『クコクコクコクコッ!』


 妖刀ムラマサの放つ黒い瘴気が迫る中、クッコロちゃんが笑い出す。


『アリガトウ。アナタノ放ツ瘴気ハトテモ心地ガイイ』


 クッコロちゃんは口をカパッと開くと、妖刀ムラマサの瘴気を食み始めた。


 中々、いい喰いっぷりだ。

 ボクは黒い瘴気をまるで綿あめでも食べるように口にするクッコロちゃんを見て笑みを浮かべる。


「……そう。それは良かったっ!」


 いい感じにボクのことを侮ってくれて嬉しいよ。


 そう言って、クッコロちゃんの横をすり抜けると、奥に安置してあるダンジョンコアに触れる。


 ダンジョンコア。それは、ダンジョン内の空調や地形、モンスターの管理を行うことのできる不思議物体である。


「うっ……」


 ダンジョンコアに触れた瞬間、ボクの魔力が勢いよく吸い込まれていく。


 流石は吸引力の変わらないただ一つのダンジョンコア。

 しかし、これからすることを考えれば好都合だ。


 ダンジョンコアを抱えたボクにクッコロちゃんが問いかけてくる。


『クコクコクコクコッ! ダンジョンコアヲ手ニシテ何ヲスルツモリ?』


 そんなことは決まっている。


「……もちろん。洞窟内に浄化の光を照らすのさっ!」


 ダンジョンコアは、ダンジョン内の空調や地形、モンスターの管理を行うことのできる不思議物体。直に触れ魔力を捧げれば、ダンジョン内の地形を操作することができる……はずである。

 確証はない。しかし、やって見る価値はある。


「洞窟内に浄化の光をっ!」


 ダンジョンコアに魔力を注ぎながらそう言うと、ダンジョン内が揺れ始める。


 バキバキ、メキメキと音を立てると、洞窟の天井が割れた。


『ナ、ナニッ!?』


 クッコロちゃんがそう声を上げると共に、洞窟内に太陽の光が射し込んでくる。


「よかった……」


 正直、これがダメなら、天井に妖刀ムラマサの瘴気を放ち、洞窟の天井を破壊するしかなかった。


「それじゃあね。クッコロちゃん……」


 ダンジョンコアの力でクッコロちゃんの周囲を光で囲い、その範囲を徐々に狭めていく。


『マ、待ッテェェェェ! 私ハマダ消エタクナイ!』


 クッコロちゃんの言葉を聞き頬を軽く掻くと、太陽の光が射した箇所からクッコロちゃんの魂が崩れていく。


「大丈夫だよ……」


 荒魂のアラミーちゃんも浄化されてお人形さんになったんだ。

 クッコロちゃんも浄化され、荒魂から和魂に変るだけ……。


「荒ぶる魂よ。浄化の光を浴びて荒魂から和魂に成り賜え」


『ア、アアッ……。私ハ……。私は……』


 洞窟内に射す太陽の光に浄化されていくクッコロちゃん。

 太陽の光を浴び浄化されたクッコロちゃんに視線を向ける。

 すると、そこにはデフォルメされた小さなオークとお人形さんが横たわっていた。

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