第32話 サバイバル試験⑲(禁忌的荒魂、クッコロ)

 オークロードの案内で洞窟内に入ると、洞窟の中から悲鳴と嬌声が聞こえてくる。

 この洞窟には、ダンジョンコアが安置してあったはず。

 おそらく、オークロードに取り憑いている荒魂は、洞窟の奥に安置してあるダンジョンコアを介してなにか良からぬことを企んでいるのだろう。


「豚ちゃん。『命令』だよ。誰か、洞窟の奥の様子を先行して見てきてくれないかな?」

「フゴッ、フゴッ(わかりました……)」

「うん。よろしくね……」


『命令』した結果、一体のオークロードが先行して、奥の様子を見に行ってくれることになった。オークロードが返事代わりに『フゴッ』と鳴く。


「それじゃあ、ボク達はここで待機。先行した豚ちゃんの報告を待とうか」

「「フゴッ、フゴッ」」


 しばらくの間、その場で待機していると、先行したオークロードが戻ってくる。


「フゴッ、フゴッ(人間の前でゴブリンキングがゴブリナと交尾してました)」

「えっ? 人間とゴブリンキングがいた?」


 最後の方、単語がよく聞き取れなかったけど、なんで人間とゴブリンキングが洞窟の奥に……。


 ここは冒険者ギルドが管理するダンジョン。

 つまり、洞窟の奥にいる人間というのは、まず間違いなく冒険者ギルドの関係者だろう。そして、ゴブリンキングは恐らくボクが『隷属』したゴブリンキングに違いない。


『隷属』中のオークロード先導の下、洞窟の奥へと進んでいくと、ボク達の気配を察知したのかゴブリンキング達の嬌声が段々静かになっていく。

 洞窟の奥に足を踏み入れると、そこには顔を紅潮させたゴブリンキングとゴブリナ、そして、目を瞑り悲鳴を上げる人達がいた。


「あれー? 皆さん。なにをやってるんですかー?」


 とりあえず、そう声をかけるとゴブリンキング達がボクに対して敬礼し、冒険者と思わしき人達は唖然とした表情を浮かべる。


 それにしても、ゴブリンキング達はここで何をしていたのだろうか?

 オークロードのように荒魂に操られている様子はないように思える。


 首を傾げて様子を窺っていると、冒険者と思わしき人達がポツリと『助かったのか?』と呟いた。


「えーっと、そちらに座っている皆さんは冒険者さんで間違いないですか?」

「あ、ああっ、そうだ。君達を助けにきた……つもりだったんだが……」


 冒険者さんが、なんとも言い辛そうにそう呟く。


「……助けてくれ。トレントの毒で身体が動かないんだ」

「あ、ああ、そうなんですか……わかりました」


 助けてくれとは、本末転倒の様な気がしないでもないけど、仕方がない。

 宙をなぞると亜空間から『治癒』と『解毒』の呪符を取り出す。


「……それじゃあ、動かないで下さいね」


『治癒』と『解毒』の呪符を冒険者さん達に貼ると、冒険者さん達は瞬時に回復する。


「す、凄いな、これは……」

「ああ、その呪符、自家製の呪符なんですよー。もし良かったらいかがです? 格安でお譲りしますよ?」


 元々、この呪符はアクバ王国にいた頃、お守り代わりに流通していたもの。

 なぜか、貼って使う人はあまりいなかったけど、一般的に出回っているものだ。


「い、いいのかいっ!?」

「ええっ、でもその前に……」


 冒険者さん達と話をしている内に、どんどん、オークロード達に取り憑いている荒魂の力が増していくのを感じる。

 危険を感じたボクは宙をなぞり亜空間から呪符を取り出すと、『魔力増強』と『身体強化』を身体に付し、ゴブリンキングと冒険者さん達の前に『守護』の呪符を展開した。


 その瞬間、洞窟の奥に安置されていたダンジョンコアが黒い輝きを放つと、オークロードから荒魂が抜け出し、黒い人型の影が顕れる。


「あ、あれは、まさかっ……!?」


 荒魂のアラミーちゃんの悪友にして、まだ十代前半のボクを性的快楽に誘おうとする禁忌的荒魂――クッコロちゃんだ。


 これは本格的にあのダンジョンの封印が解かれたと見て間違いないかもしれない。


 アラミーちゃんよりもより強固に……ガチガチに封印したはずの倫理観皆無の荒魂、クッコロちゃんまで解放されているだなんて、いま、一体なにが起こっているんだ……。


『クコクコクコクコッ! マタ会エタネ! マタ会エタッ!』


「ボクは会いたくなかったよ。クッコロちゃん……」


 クッコロちゃんの厄介な所、それは……近くにいる人達を性的快楽に誘おうとする所だ。

 周りを見ると、オークロードやゴブリンキングにゴブリナ、そして冒険者達の様子がおかしい。みんな、ガクガク震え悶えている。


 ゴブリンキングは、ゴブリナに対して劣情を抱き、オークロードも同じく目をギラギラさせている。対照的に、冒険者達はゴブリナを見て涙を流し、嘔吐しながら悶えていた。


「げ、げぼぉっ! ……ゴ、ゴブリナに劣情を抱くなんて、俺は自分自身が許せない……殺せよっ! いますぐ殺してくれよぉ!」

「ぐうあっ! 目がっ、目がぁぁぁぁ! ゴブリナが可愛い女に見えるっ!? なんでだよ。なんでなんだよっ!」

「殺せって言ってるだろう!! こんちくしょうがぁぁぁぁ!!」


 ――と、いったように涙を流し叫びながら……。


 正直、見るに堪えない。


 荒魂に対する抵抗力を持たない人ほど、荒魂の気持ちに流されやすい。

 多分、冒険者さん達はゴブリナに対して劣情を抱いてしまった自分が許せないのだろう。自分でそう叫んでいたし、血の涙を流しながら、抵抗を試みている。


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