第31話 サバイバル試験⑱(SAN値をガリガリ削る行為)

「まあ、悪さしなければ『命令』する気はないから大丈夫だよ。それよりも、豚ちゃんをなんとかしないとね」


 間違いなく豚ちゃん達は、荒魂に取り憑かれている。

 あれはボクの元いた土地に封じられていたアラミーちゃんとは別の荒魂。

 しかし、荒魂達は呪具で穴から出てこないよう封印していたはず……。

 一体なぜ……。


 まあいいか。


 どの道、出てきてしまったものは仕方がない。

 あの土地の元管理者として、キチンと処理することにしよう。


 唖然とした表情を浮かべたまま動かなくなってしまったバトちゃんとポメちゃんを後目にログハウスの外に出ると、そこには黒い瘴気を纏った十匹のオークロードが立っていた。


「あれっ? ちょっと見ない内に、なんだか増えた?」

「フ、フゴッ」


 どうやらオークロードに取り憑いていた荒魂が分裂したらしい。

『隷属』中のオークロード、すべてに憑りつきログハウスを囲んでいる。

 流石は荒魂。なんでもありである。


 まあ、でもボクには『隷属』の呪符がある。


「豚ちゃん達、ごめんね? 『命令』だよ。君達を操っている者の所に連れて行ってくれないかな?」


 すると、オークロード達はボクに背を向け歩き出す。

 オークロードに着いて行けば、彼等をこんな風にした元凶に会う事ができそうだ。


「待っててね。すぐに元に戻して上げるから……」


 そう呟くと、ボクはオークロードの向かう方向へと歩き始めた。


 ◇◆◇


 トレントの森に突入して数分。

 俺達は、壊滅的な被害を受けていた。


「お、おい……俺達をどこに連れて行く気だ……」

「食べても美味くねえぞ……」

「終わった……彼女いない歴、二十九年。魔法使い一歩手前、童貞のまま俺は死ぬのか……」


 冒険者ギルド、エイシャ支部の最強戦力であるAランク冒険者が揃ってこの調子である。

 トレントが危険度Cのモンスターといえど、多数に無勢。トレントの中には危険度Aのエルダートレントまで存在し、いま、俺達はフルボッコにされた揚句、ヒヨコちゃん達を助けることもできずトレントの蔦に捉えられグッタリしていた。


 トレントに運ばれること数十分。

 気付けば、洞窟のような場所に連れてこられていた。

 トレントは縛られ動くことのできない俺達を床に放る。


「ぐうっ……」

「クソがっ……」


 床に放り投げられ身体に痛みが走るがそんなことを言ってはいられない。

 まずは現状把握に努めなければ……。

 トレント達が洞窟から出て行くのを見届け、俺達は周囲の様子を探る。


「こ、ここは……」


 この場所。どうやらギルドマスターには心当たりがあるようだ。


「ギルドマスター。ここがどこかわかるのか?」

「ああ、よく知っている場所だ。ここは……」


 ギルドマスターがこの場所について話そうとするタイミングで、洞窟の外からなにかこちらに向かってくる音を察知する。


「ぐっ……トレントが戻ってきたのか?」

「クソッ、こんな時に……」

「いや、こんな時にもクソもなにもないような……俺達、もう結構詰んでるんじゃないか?」

「冗談でもそんなことを言うんじゃない。まだ助かる道はあるはずだ……」


 すると、数体のゴブリンキングが姿を現した。よく見ると背後にゴブリナを連れている。


「ゴ、ゴブリンキングだとっ!?」


 洞窟に入ってきたのは危険度Aの災害級モンスター、ゴブリンキング。


「最悪だ……」


 最悪の悪鬼にして、ゴブリン種最強の存在。

 雌であれば、どんな種族でも孕ませる性欲の権化。


「ヤバいな……身体が動かねぇ……」

「話に聞いていたが、まさかこんなにも多くゴブリンキングが大量発生してるとはな……笑えねぇぜ」


 ゴブリンキングは、動くことのできない俺達を見て嗜虐的な笑みを浮かべる。


「クソっ……ここまでか……」


 ゴブリンキングは俺達、一人一人の前に立つと、汚い手で顔を掴んだ。

 俺達はというとトレントの毒で身体を動かすこともできない。


「くっ、殺せっ……」


 陰湿に嬲り殺される位ならいっそのこと死んだ方がマシだ。


 そう言った気概で言ったのだが……。

 ゴブリンキング達は俺達が動けないことを知り楽しそうな表情を浮かべた。


「ゴブゴブッ」

「ゴブッゴブッ」


 ゴブリンキング同士話し合うと、ただ一言。ゴブッと呟く。

 そして、俺達を壁際に座らせると……。


「な、なにをする気だっ? 止めろっ! 止めろー!」


 ゴブリンキングはゴブリナを抱き、俺達の目の前で激しく交尾をし始めた。


「こ、殺せぇ! 殺してくれぇ!」


 そんな俺達の視線と悲鳴を肴に「ゴブゥ! ゴブゥ!」と盛るゴブリンキングとゴブリナ。


 喘ぎ声を聞く度、俺のSAN値がガリガリと削られていく。

 このままではまずい。発狂してしまいそうだ。目が腐る。


 いや、この際、腐り落ちてくれ。

 そう願わずにはいられないほどのストレスを受けていた。


「こ、このままでは廃人になってしまう……」


 苦し紛れに目を閉じ視界を封じてもゴブリンキングの盛る声が耳を刺激し、瞼の裏に目の前の情景を幻視させられてしまう。耳を塞ごうにも縛られトレントの毒を受けた身では手を動かし耳を塞ぐことすらできない。


 ぐっ……万事休すだ。


 心の底からそう思った時、洞窟の入り口に誰かが入ってくる。

 そんな気配を感じた。

 気付けばゴブリンキングとゴブリナの喘ぎ声がなくなっている。


 恐る恐る目を開くと……。


「あれー? 皆さん。なにをやってるんですかー?」


 そこにはオークロードを従えた少年が佇んでいた。

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