第30話 サバイバル試験⑰(ダンジョン内の異変)

「おいおいおいおい……こりゃあ、一体、どういうことだっ?」


 冒険者ギルドが管理するダンジョンに足を踏み入れ、開口一番、冒険者ギルドのギルドマスター、ギルマッスがそう呟く。


「……ダンジョンに異変が起きているのは本当のようだな」

「ああ……しかし、これほどとは……」


 ダンジョンの入り口を潜り初めに見た風景。


 一言でいえば、樹海。


 見渡す限りの木々が海のように広がっている。

 と、いうよりも……。


「い、いま、樹が動かなかったか?」

「……見間違い。と、言いたい所だが……」


 目の前で木々が蠢いている。


「動いているな……こいつはトレント。なんで、トレントが冒険者ギルドの管理するダンジョンに……」


 冒険者ギルドが管理するEランクダンジョンにCランクモンスターのトレントは存在しない。ダンジョンに入ってすぐ異変を察知した俺達は散開して事に当たることにした。


「このダンジョン、なにかおかしい……すぐにヒヨコちゃん見習い冒険者達を連れてここを出るぞ」

「「おうっ!」」


 トレントの森。とても危険だ。


「……生きていてくれよ。ヒヨコちゃん達!」


 そう呟くと、俺達は見習い冒険者達を探すため、トレントの森に突入した。


 ◇◆◇


 目が覚めたボクが最初に見たもの。

 それは、餌を奪い合うバトちゃんとポメちゃんだった。


「ブルッ、ブルッ!(それは俺のものだっ!)」

「クーン、クーン!(お前ふざけんなよ!)」


 オークロードがバトちゃんとポメちゃんに用意してくれたご飯。

 それはプリンだった。


 プリン型に牛乳と砂糖を混ぜた卵液を流し込み、加熱してカスタードを凝固させたもの。それがプリンである。

 そのプリンを前にして、いま、バトルホースのバトちゃんと、ポメラニアンのポメちゃんが壮絶な争いを起こしていた。


 二匹の前に出されたプリンを見るも、まったく同じ同量。

 争う意味がわからない。


「バトちゃんにポメちゃん。なんでそんなに殺気立ってるの?」


 そう尋ねると、バトちゃんとポメちゃんが鳴き叫ぶ。


「ブルッ、ブルッ!(こっちの方が二グラム多いからだ!)」

「クーン、クーン!(これはボクの前に出されたものだよ!)」


「うーん。なるほど……」


 どうやら、このプリン。微妙に重さが違うようだ。

 バトちゃんはポメちゃんの前に出されたプリンの方が多いと鳴き、ポメちゃんは僕の前に出されたものだから、これは僕のだっ! と、鳴いている。


 それじゃあと、テーブルに置かれているボク用のプリンを二グラム分、スプーンに乗せバトちゃんのプリンに乗せて上げる。


「はい。これで同量になったよ。こんなことで喧嘩しないようにね」


 最近になって、段々、バトちゃんとポメちゃんがなにを言っているのかわかるようになってきた。というより、こんな些細なことで喧嘩しないでほしい。


 何事もなかったかのように、バクバクとプリンを食べ始める二匹を尻目にボクもプリンを口に運ぶ。


「うん。美味しい!」


 流石は豚ちゃん。相変わらず料理が上手い。

 なんだかダンジョンに永住したくなってきた。


 プリンを食べながら、ふと、窓から外を覗くと景色がだいぶ様変わりしていることに気付く。


「うん? 寝ている間に一体、なにが……?」


 プリンを食べ終え立ち上がると、オークロードが部屋の中に入ってきた。


「ああ、豚ちゃん。おはよ……うん?」


 挨拶をしようとするもオークロードの様子がなんだかおかしい。

 目は虚ろで身体中からどす黒い瘴気が立ち上っている。


「えーっと、もしかして、豚ちゃん。荒魂に取り憑かれてるー?」


 そう問いかけると、オークロードは涎を垂らしフゴフゴと鳴く。

 どうやら理性が失われているようだ。


 フゴフゴ鳴くだけで、会話の中身があったもんじゃない。


「……仕方がないなぁー。これはあまりやりたくなかったんだけど……豚ちゃん『命令』だよ。外に出て待機していて?」

「フ、フゴッ……(は、はい……)」


 そう言うと、オークロードの身体がビクリと震える。

 ログハウスの扉を潜ると『命令』通り外に出て行ってしまった。


「ふうっ、これでよしと……」


 とりあえず、ログハウス内での豚ちゃんとの戦闘は回避することができた。


「クーン、クーン?(ご主人様、いま、なにをやったのー?)」

「うん? ああ、命令したんだよ。ボクが使役するモンスターには全員『隷属』の呪符が付されていてね。『隷属』の呪符が付された者はボクの命令に逆らうことができないようになってるんだ」

「クーン?(隷属?)」

「うん。ポメちゃんやバトちゃんにも付されている『隷属』の呪符の効果さ」


 そう言うと、ポメちゃんとバトちゃんがキャンキャン鳴き始める。


「ブルッ、ブルッ!(なにっ! いますぐそれを外せっ!)」

「クーン、クーン!(おねがーい! いますぐ、それを外してぇー!)」


 しかし、残念ながらそれはできない。

『隷属』の呪符はボクを護るお守りのようなものだ。

 不用意に外して寝首をかかれては堪らない。


「ごめんねー。外すことはできないんだー」


 そう言うと、ポメちゃんとバトちゃんが愕然とした表情を浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る