第55話 ハナちゃんの力②
『ハナッハナッハナッ! ナニヲスレバイイノ? 私ハナニヲスレバイイノ?』
ハナちゃんは、花言葉を現実にすることができるポエマー的荒魂……いや、いまは幸魂か……。とにかく、ハナちゃんは豆しば的語り口調で超常現象を現実にする能力を持っている。
ボクは虚ろな目をしたお爺さんのコレクションさん達を目の前に、ハナちゃんにお願いをする。
「この人達に、ハナちゃんから『延命菊』の花言葉を聞かせてあげて……」
『延命菊? ハナッハナッハナッ! 任セテ! 私ニ任セテッ!』
ハナちゃんは頼もしくそう言うと、お爺さんのコレクションさん達の前に降り立ち、豆しば的語り口調で語りかける。
『ネエネエ。知ッテルー? 延命菊ニハ「生命力」ッテ言ウ意味アルンダヨー』
ハナちゃんがそう言うと、洞窟内に緑色の幹をしたピンク色の延命菊が咲き乱れていく。
なにもない地面からニョキニョキ生えてくる延命菊。
その花に宿る生命力の雫がお爺さんのコレクションさん達の口元に零れると、生気枯渇状態にあったコレクションさん達の体に血色が戻ってくる。
『ハナッハナッハナッ! コレデイイ? コレデイイッ!?』
「うん。ありがとう。ハナちゃん……」
若返っていく肌に、艶のある髪。
血色が悪くやせ細っていた身体も、ハナちゃんの言霊により改善されつつある。
流石は花言葉を現実にすることができるポエマー的元荒魂だ。
お蔭で、お爺さんのコレクションさん達は生命力を取り戻した。
後は、頭に生えた『癒草』を抜くだけだ。
ハナちゃんの頭を軽く撫でると、ボクは亜空間からある物を取り出した。
正直言ってこれが一番難しいと感じている。
なんて言うか、倫理的に……。
血色が良くなったお爺さんのコレクションさん達に近寄ると、ボクは手に持った除草剤を容赦なく頭にかけた。
この除草剤は、遥か昔、父さんと母さんが生きていた頃、作り方を教わった人体に生えた植物を枯らす効果のある除草剤だ。
しかし、この除草剤には副次的効果が……脱毛効果がある。
身体にかければ頑固な剛毛から謙虚な産毛まですべてを真っ新にする効果を持つ反面。頭にかければ、どんな剛毛でもたちどころにツルピカにしてしまう効果がある。
この薬品は、一部の教会関係者に大人気。
その反面、この薬の効果により髪を失ったものが暴動を起こし、髪の生えぬ人生を嘆き国中でクーデターを起こしかけたほどの劇薬だ。
しかし、いま、この薬を使う以外に、この人達の命を救う手立てはない。
心肺蘇生を行う際も、命が助かる代わりに肋骨が折られるというリスクがある。
言わばこれは選択……。
死んで髪を護るか、生きて髪を失うかの選択だ。
いきなりハゲ頭になったことに驚き、暴れぬよう『鎮静』の呪符を皆に施すと、一人一人の頭の元に除草剤を振りかけていく。
すると、除草剤の効果もあってか髪と共に『癒草』が抜け落ち、お爺さんのコレクションさん達の頭が綺麗な肌色に輝いた。
「これでもう大丈夫……」
少なくとも命の心配はなくなった。
ホッとした表情を浮かべ、お爺さんのコレクションさん達が起き上がるのを待っていると、お爺さんの悲鳴が聞こえてくる。
「も、もう止めてくれぇぇぇぇ! 反省、ワシは反省したっ! だから、だからぁぁぁぁ!」
お爺さんの魂から来る絶叫に耳を傾けていると、背後で誰かが起き上がるような、そんな気配を感じる。
振り向いて見るとそこには……。
「やってくれたな、クソ爺……」
「よくも私を嬲ってくれたわねぇ……」
「ぶっ殺してやるっ!」
そう息巻くお爺さんのコレクションさん達がいた。
お爺さんのコレクションさん達は、皆、片手を頭頂に置き、憤怒の表情を浮かべている。
一方、立場が逆転したお爺さんは……。
「よ、寄るなっ! 近寄るなっ! ワ、ワシが悪かった……ワシが悪かったから命だけはっ……命だけは助けてくれぇぇぇぇ!」
そう叫ぶと、洞窟の出口に向かって踵を返し駆け出した。
「「待てぇぇぇぇ!」」
「「ゴブゴブッ!(逃げんなコラァァァァ!)」」
その瞬間、お爺さんのコレクションさんと花ゴブリンの叫びが洞窟内に木霊する。
気持ちは痛いほどよくわかる。
皆、お爺さんに痛い目に遭わされたんだものね。
頑張れ皆!
ボクには応援することしかできない。
でも、願わくば、お爺さんは殺さないであげて。お爺さんが死んだら、ボクに依頼料を支払う人がいなくなっちゃうんで……。
そんな利己的な考えを浮かべことの推移を見守っていると、花ゴブリンとコレクションさん達がお爺さんを捕まえてきた。
「このクソ爺がっ!」
「ぶっ殺してやるっ!」
「「ゴブゴブッ!(死ねっ!)」」
そんな辛辣な言葉を一身に受けたお爺さんが震えた声でボクに助けを求めてきた。
「お、おいっ! 助けろっ! 金なら払う! いくらだって払うっ! お願いだから助けてくれぇぇぇぇ!」
お爺さん、散々なことをして来たのに必死だな。
ボクだって依頼を受けた側としてお爺さんのことを助けたい。
でも、いまはどう考えても不可能だ。
ボクが本気になれば助けることはできる。
でも、お爺さんをこのまま放置すると新たな悪霊の発生源になりそうだ。
だから……。
「お爺さん。ごめんね? それは無理かな……」
被害者の方々の心情的に……。
そう言って合掌する。
その結果……。
「い、いぎゃぁぁぁぁ!」
その日、花ゴブリンの森にある洞窟内でお爺さんの絶叫が響き渡ることとなった。
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