第54話 ハナちゃんの力①
「えええええーっ!?」
目の前には、血の池に伏すお爺さんと、両手首を手錠に繋がれた生気のない人達。
ちょっと気絶している間に一体なにが……。
っていうか、外に逃したはずの花ゴブリン達、なんでここにいるの?
この手錠に繋がれた人達は誰?
『ハナッハナッハナッ! 私トノ戦闘時、外ニ逃ゲルコトガデキズ奥ニ逃ゲコンダ花ゴブリンガ一定数イタ。手錠ニ繋ガレタ人間ハコノ爺ノコレクション』
「えっ? そうなの?」
そう尋ねると、ハナちゃんはコクリと頷く。
それは知らなかった。
お爺さんにそんな趣味が……。
人間をコレクションにするなんて、怖い趣味を持ったお爺さんだ。
コレクションにされた人達が虚ろな瞳を浮かべたまま壁に繋がれている。
「それで、なんでお爺さんをこんな目に?」
そう尋ねると、花ゴブリンが血の付いた棍棒を背後に隠しながらゴブゴブと鳴く。
「ゴブゴブ(カッとなってやりました)」
「ゴブゴブ(いまは反省しています)」
「……いや、絶対嘘だよね?」
まあ、カッとなってやったのは事実かもしれないけど、ボクがここに来たから仕方がなく殴打するのを止めましたって顔してるよ!?
「ちゃんとした理由を教えてくれないかな?」
一応、このお爺さん。ボクの依頼主なんだけど……。
依頼中、依頼主に危害を加えられたとあっては大変だ。金貨四百枚がパーである。
もしかしたら、賠償を迫られるかもしれない。
「ゴブゴブ(俺達を操って閉じ込めたからです)」
「ゴブゴブ(爺に奴隷のように扱われたんで)」
「そ、そうなんだ……」
花ゴブリン達に『隷属』の呪符を貼り付けているボクにお爺さんを非難する資格はなさそうだ。
「でも、いまこのお爺さんが死んじゃったら悪霊になっちゃうよ?」
なんか、今世への念が強そうだし……。
「ゴブゴブ?(いいんじゃないですか? 別に死んでも)」
「ゴブゴブ?(人間の頭をプランター代わりに使うような鬼畜外道ですよ? 既に悪霊みたいなもんじゃないですか)」
花ゴブリンはそう言うと、お爺さんを撲殺しようとした棍棒を持って素振りを始める。
まだまだ、やり足りないと……きっとそういうことだろう。
「うーん。言われてみればそうだね……? でも殺しちゃダメだよ。ボクが困るからね」
そう告げると花ゴブリン達は真っ直ぐな視線で呟いた。
「ゴブゴブ(じゃあ、死なない程度に遊びます)」
「ゴブゴブ(爺の相手は得意なんです)」
「う、うん。そうだね……」
このお爺さん。
花ゴブリン達に滅茶苦茶恨まれている。
これほどまで恨まれてる人間初めてみた。
とはいえ、お爺さんが死んでしまいこのまま悪霊になられても困る。
「で、でも程々にするんだよ? これから治療を施すけど、絶対にこの呪符は剥がさないようにね?」
一応、このお爺さん。ボクの依頼主だからね。
任務中に死なれたら大変だ。真っ先にボクが疑われてしまう。
とりあえず、お爺さんに『延命』と『治癒』の呪符を貼り応急処置を施すと、お爺さんのコレクションさん達を治すことにした。
「ゲキャゲキャ!(おら、爺でゲートボールだ!)」
「ゴブゴブ!(ひゃっはー!)」
コレクションさん達を治すため、お爺さんを放置し壁に近寄ると、花ゴブリン達がお爺さんをボール代わりに遊び始める。
「ああ、もう。仕方がないなぁ……でも、『延命』の呪符で命を繋いでいるし、大丈夫かな?」
それにいまは、コレクションさん達の治療が急務。
お爺さんに向かって棍棒を振りまくる花ゴブリン達を後目に、お爺さんのコレクションさん達の手錠を外すと壁にもたれ掛からせていく。
お爺さんのコレクションさん達の数は全部で十三人。
その殆どが虚ろな目で地面を見つめ、生きることを諦めてしまったかのような表情を浮かべている。
一体、なにをどうしたら人間をこんな状態にすることができるのだろうか?
「ゲキャゲキャ!(これまでの恨みぃ!)」
「ゴブゴブ!(死ねぇ!)」
「も、もう。やべてっ!? ぶっ!!」
花ゴブリンの声とお爺さんの叫び声を聞きチラリと後ろを振り向くと、お爺さんが虚ろな目をしながら花ゴブリンにボコボコにされている姿が目に映る。
花ゴブリンに囲まれたお爺さんは即興で作られたであろう門を、花ゴブリンの持つ棍棒をスティック代わりに打っ叩かれることで強制的に潜らされていた。
「なるほど……」
あんな感じか……。
まあ、お爺さんのことは一旦置いておこう。
それより、このお爺さんのコレクションさん達を助ける方が先決だ。
「ちょっと待っててね。すぐに元気にしてあげるから……」
そう呟くと、ボクはお爺さんのコレクションさん達全員に『治癒』『活性』の呪符を貼り付けていく。
すると、呪符を貼った側からコレクションさん達の頭に『癒草』が生え始めた。
これは……。
「……もしかして、『癒草』がコレクションさん達の生気を吸い取ってる?」
もし、そうだとしたら非常に危険な状態だ。
ちょっと危険だけど仕方がない……。
「ハナちゃん。ボクに力を貸してくれないかな?」
そう尋ねるとハナちゃんは満面の笑みを浮かべ、『ハナッハナッハナッ!』と声を上げた。
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