第56話 その後の話

 「リ、リーメイ君? こ、こちらの方々は……」


 ボロ雑巾状態(応急処置は済ましたので死ぬほどボロボロになっているだけ)となったお爺さんと、お爺さんの元コレクションさん達を冒険者ギルドに送り届けると、受付嬢さんが唖然とした表情で問いかけてくる。


「えーっと、花ゴブリンの森にある洞窟内でお爺さんが監禁していた被害者の方々……です」

「お、お爺さんというのは、まさか……」

「はい。このお爺さんなんですけど……」


 そう言うと元コレクションさん達が、ボロ雑巾みたいになったお爺さんを受付嬢さんに見せつける。

 すると、ボロ雑巾状態となったお爺さんを見た受付嬢さんが宙を仰いだ。


 ボロ雑巾となったお爺さんと、脱毛症を患いながらもピンピンしている元コレクションさん達。


 お爺さんと元コレクションさん達の立場が逆転した結果、どっちが被害者なのかわからなくなってしまいそうな状況だが、この方々は紛れもなく被害者なのである。。


「お、おい。お前、賭け狂いのジョンか?」

「ああ……、腐乱のラフレシアまで……お前達、いままでどこにいたんだよ。変わり果てた姿になっちまって……」


 どうしようかと、成り行き任せに繰り広げられる展開を傍観していると、Dランク冒険者のローレンスとマクスウェルが声をかけてきた。

 どうやら元コレクションさん達の中に知り合いがいたらしい。


「ああ、お前等か、久しぶりだな。まったく、こっちは酷い目にあったぜ! 見てくれよ。この禿げあがった頭をよ!」


 賭け狂いのジョンがローレンスに頭を向けると、ローレンスは眩しそうに目を潜めた。


「ああ、そんなに禿げ上がっちまいやがって……。一体、どうしたんだ? お前のふっさふさのブロンズヘアーはどこに行ったんだよ」


 ローレンスがそう尋ねると、賭け狂いのジョンは忌々しそうな表情を浮かべ、お爺さんを睨み付ける。


「俺のブロンズヘアーはな……俺のブロンズヘアーは、この糞爺のせいで……!」

「私の髪もよっ……爺の……この糞爺のせいで、私はもうお終いだわっ! もう私にロマンスはやってこない……!」


 思わず顔を背けたくなるような光景だ。

 すべてお爺さんが悪いことになっている。


 まあ、あながち間違いじゃないんだけど、なんだか居た堪れない気分になってきた。

 今度、カツラでも編んで送っておこう……。

 幸いなことに、彼等から抜け落ちた髪の残骸はボクの亜空間にしまってある。


「ラフレシア……気を落とすなよ」


 そう言って、腐乱のラフレシアを慰めるローレンス。


「……気を落とすなよ? よくもまあそんな言葉を言えたものね。糞爺に捕まって花を毟られる日々がどんなに辛かったことか……あなたにわかるのっ!? 死にたい。死にたいと思っても死ねず、意識が鮮明になったら髪が抜け落ちていた衝撃があなたにわかるというのっ!?」

「そ、それは……わからないがっ……」


 当然のことだ。

 そんなこと、早々、味わえる訳がない。


「それにあんた……もしかして、私達のことを馬鹿にしてる?」

「ば、馬鹿になんて……」

「いいえ、馬鹿にしているわっ! なによその女装姿はっ! 気持ちが悪いっ! 吐き気がするわっ!」

「な、なんだとっ……」


 いまはジェンダーレス時代。

 まさか、いまもサバイバル試験でボクがプレゼントしたレディーススーツを着用しているとは思いもしなかったけど……。

 ローレンスさん的にはそれでいいのだろうか?


 腐乱のラフレシアとローレンスの間で、激しい言い争いが起ころうとした刹那、宙を仰いでいた受付嬢さんの目に炎が宿る。


「……わかりました。お爺さんはこちらで預からせて頂き、ギルドマスターと相談した後、然るべき罰を与えたいと思います。またあなた方の尊厳を奪ったことへの慰謝料も払わせましょう」


 流石は受付嬢さんだ。

 冒険者ギルドの鑑である。


「……当座として、皆様にはこの糞爺から預かっている預託金を慰謝料の一部として先に支払わせて頂きます」


 そう言うと、受付嬢さんは四百枚の金貨を取り出し、三十枚づつ被害者の皆に渡していく。


 金貨は一枚、一万円相当。

 一人当たり三十万円相当が慰謝料の一部として支払われるようだ。

 しかし、待ってほしい。


 その金貨四百枚という数値。なんだかもの凄く聞き覚えのある数値だ。


「あ、あれっ? お、お姉さんっ! その金貨四百枚って!」


 金貨四百枚の所在を聞こうとすると、受付嬢さんは静かに頷く。


「ええ、そうです。この金貨は、『花ゴブリンの生態調査』その預託金です」

「ええっ!?」


 そ、それじゃあ、ボクの報酬はどうなるのっ!?


 唖然とした表情を浮かべていると、なにを思ったのか受付嬢がボクに金貨十枚を渡してくる。


「安心して下さい! もちろん、リーメイ君にもちゃんと報酬が出ますよ! この糞爺が預けた預託金から! 被害者の方々への慰謝料が優先されますけどね!」


 手にポツンと乗った金貨十枚を眺め、ボクは呟く。


「ち、ちょっと待ってっ! ボクまだ、金貨四百枚の借金を負っているんだよっ!?」


 借金を返すためにこの依頼を受けたというのに、こんなのあんまりだ。

 思わずグズリ、泣き喚こうとすると、頭を光らせた集団がボクを取り囲む。


「……坊や。理不尽なことって、この世界どこにでもあることよ」

「そうだぞ。見てみろ。この禿げ散らかった頭を!」

「金貨四百枚で髪がふさふさになるなら俺が払ってやりたい位だ」

「はははっ、まったくだ!」


 そう笑い出すお爺さんの元コレクションさん達。

 ボクより不幸な元コレクションさん達の姿を見て、ボクはこの人達よりかは恵まれた立場にいるんだなと思い直した。

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