第20話 サバイバル試験⑦(女の子救出)

「知らない天井だ……」


 醜悪な悪鬼、ゴブリンに攫われ苗床にされそうになった可哀想な冒険者見習いである私こと、ウルティナ(十八歳)は新築の匂い漂うログハウスの天井を見つめそう呟いた。


 ここはどこだろうか……。もしかして、ゴブリンの集落?

 ゴブリンに散々嬲られ、苗床にされた後だろうか。まるで乱雑に運ばれたかの様に全身が痛い。


「……っ!」


 そこまで思考し気付いてしまう。

 そうだ。私、木の上で眠っていたらゴブリンに見つかり攫われたんだった、と……。

 知らない天井だ。なんて、言ってる場合じゃない。

 布団の中で身体を弄るも服は脱がされていないらしい。服に変な液体が付着している様子もなさそうだ。


 しかし、だとしたらここはどこ?

 んっ? ていうか布団?

 なんでゴブリンの集落に布団があるのかしら?

 ゴブリンの生活様式は人間と同じなの?

 もっと原始的な生活様式を送っているものだと思っていた。


 心なしか、布団から良い匂いがする。

 お日様の香りだ。なんだか眠くなってきた……。ってダメよ。ダメダメ。

 寝るんじゃない、私!

 まずは現状把握に努めるべきよ。

 冒険者見習いとして一番大事なことでしょう!


 耳を澄ませば、何かが寝ている様な、そんな呼吸音が聞こえてくることに気付く。

 どうやら攫われたこと事態に間違いはないらしい。

 私の愛らしさに思わず見惚れ攫わずにはいられなかったとそういうことかしら?

 容姿でゴブリンをも魅了してしまうだなんて……。私ったら罪深い女ね。


「…………」


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 今は状況把握……。状況把握に努めるのよ。


「ううーん……」


 寝返りを打つ振りをしてうつ伏せになると、布団の中から周囲の様子を確認する。


「!?」


 するとそこには、ゴブリンより凶悪な白い悪魔と名高い犬型モンスター、ドイチェスピッツの子供がベッドで寝ていた。

 奥で横になっているのはバトルホースの子供……。いや、あれはドイチェスピッツの餌。ドイチェスピッツの餌ね!

 流石はドイチェスピッツ……。まだ子供とはいえ、バトルホースの踊り食いをする為だけに生かしておくだなんて……。白い悪魔と名高い犬型モンスターだけある。


 ……あれ?

 そういえば、さっきからゴブリンの姿が見えないわね。どういうこと??

 確かに私はゴブリンに攫われたはず。ちょっと意味が分からないわ……。


 頭に疑問符を浮かべていると、ドイチェスピッツとバトルホースが目を覚まし、起き上がった。そして、そのまま、ベッドを降りると、ソファに向けて駆けていく。

 見つからないように、布団をかぶりながらソファに視線を向けると、ソファで少年が眠っていた。どこかで見たことのある顔だ。


「ブルッ、ブルッ!」

「キャン、キャン!」


「う、うーん……」


 ドイチェスピッツと、その餌のバトルホースがソファに手を乗せ、少年を起こそうとする。


「うーん。あと五分……」


 いや、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょ!

 状況を見てっ!?

 あなたの隣にいるのは白い悪魔と名高い犬型モンスター、ドイチェスピッツだよっ!?

 そのまま寝てたら食べられちゃうよっ!?


「ブルッ、ブルッ!」

「キャン、キャン!」


 ほら、ドイチェスピッツとその餌のバトルホースがお怒りだ。

 くっ……。あの少年はもうダメだ。少年が囮になっている間に私だけでも逃げなくては、ゆっくり起き上がると、すぐにここから出られるようクラウチングスタートのポーズを取る。

 そして、駆けだそうとした瞬間、少年がむくりと起き上がり目が合った。


「……えっと、良く寝れた?」


 少年が私に声をかけた瞬間、ドイチェスピッツとその餌のバトルホースがこっちに顔を向ける。その瞬間、頭の中が真っ白に染まり気付けば「――っ。きゃぁぁぁぁ!!」と、声を上げていた。


 ◇◆◇


「はい。バトちゃん、ポメちゃん。朝食のクッキーだよ♪」


「ブルッ、ブルッ!(うん。不味い!)」

「キャン、キャン!(そんなことないよー。美味しいよー!)」


 バトちゃんもポメちゃんもクッキーに夢中だ。

 もしかしたらお腹が空いていたのかもしれない。


「……えっと、お姉さんも一緒に朝食を食べますか?」

「け、結構よっ! それよりもここはどこなの、私をどうする気っ!?」

「どうするもなにも……」


 なにもしませんけど?

 正直、ボク達だけ食事をするのも気が引けるから声をかけただけで、実の所、なんとも思っていない。

 それに今は試験中。この人を助けたのも、仕方がなくだ。

 一晩ゆっくり寝て身体の疲れも取れただろうし、できることならさっさと出ていって欲しいんだけど……。

 ティーカップに口を付けると、オークキングが話しかけてくる。


「ブヒッ、ブヒッ?(紅茶のお味はいかがですか?)」

「うん。美味しいよ。豚ちゃんが煎れてくれた紅茶は最高だね!」

「ブヒッ、ブヒッ(光栄でございます)」


 今日の朝食はバトちゃん達と同じクッキーだ。

 バトちゃんと、ポメちゃんには蒸留水を、ボクは豚ちゃん特製の紅茶を頂いている。

 ダンジョンの中とは思えないほどの優雅さだ。


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