第12話 VS借金まみれのジェニファー①

 階段を降り修練場に足を踏み入れると、借金まみれのジェニファーさんが、剣を片手に持ちボクのことを待っていた。


「よく来たなぁクソガキちゃん? なんでも俺に勝つ算段があるとかないとか……。しかし、そんなことはどうでもいい」

「ええ、その通りどうでもいいことですね。それでは、これよりリーメイの実技試験を行います。リーメイはDランク冒険者のジェニファーを試験官として希望致しました。両名とも準備はよろしいですか?」


 受付嬢さんはジェニファーさんの話をバッサリ切り捨てると、準備はいいかと聞いてきた。

 当然、よくない。

 実技試験の課題を知らないからだ。


「えっと、実技試験ってなにをするんですか?」

「えっ? ジェニファーから聞いていないのですか? 実技試験の試験官としてジェニファーを指定したので、てっきり知ってるものかと……」

「えっと、すいません。知らないです」


 受付嬢さんはジェニファーを睨み付けると、咳払いして実技試験の内容を教えてくれた。


「実技試験は、冒険者としての資質を測るため、二回に分けて試験が行われます。一つ目の試験が現役の冒険者を相手とした戦闘試験。二つ目がダンジョン内でのサバイバル能力を見るためのサバイバル試験。今から行われる戦闘試験は現段階の基礎能力を確認するための試験なので、勝つ必要はありません。負けを認めてもサバイバル試験が合格水準にあれば冒険者になることができます。ですので、どうか無理はしないようにして下さい。万一の時は止めに入ります」

「わかりました。説明、ありがとうございます」


 なるほど、要は受付嬢さんと試験官であるジェニファーさんに自分の力を見せつければいいのか……。


「……武器や呪符は使っても問題ありませんか?」

「呪符? はい。勿論問題ありませんが……」

「わかりました。それじゃあ、すぐに準備しちゃいますね!」


 宙をなぞり亜空間から妖刀ムラマサを取り出すと、呪符を周囲に浮かべ、その中から『身体強化』の呪符を選択すると身体を強化し、刀を斜めに構える。


「お待たせしました。もう大丈夫です!」

「ち、宙から武器を取り出した……? い、いえ、失礼しました。それでは、実技試験を始めます。もう一度だけ申し伝えますが、この試験の目的はあくまでも冒険者としての戦闘能力の有無を確認するものです。これ以上は危険だと判断した場合、すぐに止めさせて頂きます。よろしいですね?」


 受付嬢さんはジェニファーさんに視線を向ける。

 ボクへの説明というより、ジェニファーさんに対する説明だったようだ。

 いや、やり過ぎないようにという注意喚起かな?


「うるせぇなぁ。わかったよ」


 ジェニファーさんが剣を構えると、受付嬢さんが手を高く上げる。


「それでは、戦闘試験。始め!」


 試験開始の合図と共に、ジェニファーさんが向かってくる。


「ぐははははっ! ぶち殺してやるぜぇ。クソガキちゃん!」


 言ってることが中々、物騒だ。

 ボクが思うに殺す気で行くから、そっちも殺す気で来いとそういうことだろう。

 流石は冒険者ギルドの戦闘試験。実践的だ。


「わかりました! それじゃあ、こっちも殺す気で行きますねっ!」

「はあっ? なにを言って……」


 ジェニファーさんの言葉を待たずして開合を唱える。


『開孔せよ。ムラマサ』


 すると妖刀ムラマサの刀身から黒い瘴気が湧いてきた。

『殺す気で』とは言ったけど、本当に死なれたら試験にならない。

 だからボクは、ジェニファーさんの足元に向かって妖刀ムラマサをゆっくり薙いだ。


 その瞬間、『ズンッ!』といった音と共に修練場が大きく揺れる。


「ほえっ?」


 突如、足元に発生した深い裂け目。

 勢いよく駆け出したジェニファーは、その裂け目に思い切りダイブした。

 壁はほぼ垂直であるため、落下すれば引っかかることもなく真っ直ぐと下へ落ちていく。

 とはいえ、威力は控えめにしたから、そこまで深くはないはずだ。


「ぎゃあああああっ!? ぐべっ??」


 叫び声を上げ、五メートルほど落下したジェニファーは、おおよそ、人が出しちゃいけない声を出し地面の底に激突した。


「そ、そこまでっ! 誰かっ、誰かロープを持ってきてっ!」


 試験官であるジェニファーさんが裂け目に落下し、気絶していることを確認した受付嬢さんはこれ以上の試験は不可能と判断し終了を宣言する。


 多くの人が集まり、なんだか大事になってきた。

 裂け目から救出されたジェニファーさんは気絶したまま動かない。

 なんなら、受け身も取れず裂け目に落下した為、ボロボロだ。

 もしかしたら、骨とか折れているかもしれない。


 ジェニファーさん。大丈夫だろうか?


「えっと、リーメイ君? ちょっといいかしら?」


 担架で運ばれていくジェニファーさんを横目に、受付嬢さんが声をかけてくる。


「はい。なんでしょうか?」

「えっと、先に戦闘試験の結果だけ伝えるわね。戦闘試験は合格よ。問題は次に行うサバイバル試験についてなんだけど……」


 受付嬢さんの歯切れが悪い。一体どうしたというのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る