第11話 冒険者ギルド エイシャ支部②

「おい。邪魔だっ……」

「あっ、はい。すいません」


 深呼吸を止め後ろを振り向くと、そこには先程、冒険者ギルドカフェにいた男達が立っていた。男達はボクを見て顏を強張らせる。


「テメェはさっきの……」

「冒険者だったのか……」

「会いたかったぜぇ。クソガキちゃん」


「あははははっ……。ボクは別に会いたくなかったかなぁ。なんて……」


 一歩後退ると、男達が一歩詰めてくる。


「まあまあ、そういうなよ。クソガキちゃん。お前まだ冒険者ギルドに登録してないだろ? 俺達が着いて行ってやるよ」

「えっ? いいんですか?」


 あれ?

 もしかして、この人達。良い人?


「ああ、もちろんだとも。それじゃあ、ギルドカードを作りに行こうぜ」


 男はボクの背中に手を回すと、冒険者ギルドの案内を買って出てくれた。


「そういえば、まだ自己紹介が済んでなかったな。俺の名前はローレンス。Dランク冒険者だ。そしてこいつの名前が……」

「マクスウェルだ。ローレンスと同じDランク冒険者さ。そして、このスキンヘッドが……」

「ジェニファー。Dランク冒険者だ。人は皆、俺の事を借金まみれのジェニファーと呼ぶ。よろしくなぁ。それでクソガキちゃん。お前の名前はなんて言うんだ?」

「ボクの名前ですか? ボクの名前はリーメイ。呪符使いの十二歳さ」

「呪符使い? へえ? そりゃあ珍しい。おっと、自己紹介している間に受付に到着だぁ。さあ、クソガキちゃん。ギルドの登録用紙に必要事項を記入しな」

「あ、はい。ありがとうございます」


 借金まみれのジェニファーさんから登録用紙と鉛筆を受け取ると、必要事項を記入していく。


「へえ、中々、綺麗な字を書くじゃねぇか」

「そうですか? そう言われるとなんだか嬉しいです!」


 呪符使いにとって文字は武器。

 これまで何千何万と文字を書いてきた。

 だからこそ、それを褒められると嬉しく感じる。


「よぉし、後は小金貨一枚と共に受付に提出すれば終了だ。実技試験で問題なければ、そのまま冒険者になることができるぜぇ」

「へえっ、そうなんですか! それじゃあ、早速、提出してきますね!」

「おお、提出しに行ってこい。そして、受付嬢ちゃんにこう言うんだ。『ボクは借金まみれのジェニファーさんに実技試験をして貰いたいです』ってなぁ」

「はいっ! わかりましたぁ! 受付でそう言えばいいんですね!」

「ああ、そうだそうだ。受付嬢ちゃんは心配性だからなぁ。クソガキちゃんのことを心配して余計なことを……じぇねえや。受付嬢ちゃんの言うことはすべて無視するんだぞぉ。受付嬢ちゃんは思い込みが激しいからなぁ」


 受付嬢さん思い込みが激しいのか。

 まあ、借金まみれのジェニファーさんと実技試験したいですって言うだけだし大丈夫かな?


「はい! それじゃあ行ってきます!」


 登録用紙と小金貨を握りしめて受付に向かうと、受付嬢さんが声をかけてくる。


「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ」

「あ、はい。ボクの名前はリーメイ。冒険者ギルドに登録しに来ました。よろしくお願いします!」


 そう言って、受付嬢さんに登録用紙と小金貨一枚を渡す。

 すると、受付嬢さんはクスクスと微笑んだ。


「とても元気な登録者さんですね。はい。確かに受理しました。これから冒険者としての適性を見るため、修練場で実技試験を行いますが……」

「あっ!?」


 そうだ。忘れてた!


「どうかしましたか?」

「あっ、いえ、大したことじゃないんですが、できればボクは借金まみれのジェニファーさんに実技試験をして貰いたいです」


 そう言った瞬間、受付嬢さんの耳がピクリと動く。


「……借金まみれのジェニファーですって?」

「は、はい。そうですけど……」


 なにか問題でもあるのだろうか?

 受付嬢さんが険しい表情を浮かべている。


「もしかして、あの男にそう言えと言われたのですか?」

「そ、そう言う訳じゃ……。自由意思というか、なんといいますか……」

「……ふうん。一つだけいいことを教えてあげる。借金まみれのジェニファーはクソ野郎よ。あまり関わり合いにならない方がいいわ。実技試験は別の人にして貰いなさい」

「いやっ、でも……」


 チラリとジェニファーさんの方を向くと、ジェニファーさんは他人のフリをしている。


「……なるほど。ジェニファーとは関係ないと、あくまでそう言い張りますか」

「ええっ、その通りです」

「……仕方がありませんね。もし危険と判断したら、早目に降参して下さい。降参したとしても、冒険者の資質ありと判定されれば冒険者になれるのですから」


 随分と心配性な受付嬢さんだ。


「はい。多分、大丈夫です!」

「ふふふっ、自信満々のようね。ジェニファーに勝つ算段でも立っているのかしら?」

「はい。もちろんです!」


 すると、背後からバキッという音が聞こえてくる。

 後ろを振り向くと、そこには顔を真っ赤にしたスキンヘッド。借金まみれのジェニファーの姿があった。


「……ここまで馬鹿にされたのは初めてだぜ、クソガキちゃん。生きて修練場から出られると思うなよ!」

「ええっ!?」


 どうやらボクは、知らぬうちに借金まみれのジェニファーさんの琴線に触れていたらしい。


「おらっ! さっさと、着いてこいっ!」


 そう声を荒げるとジェニファーさんは顔を真っ赤に染め、修練場へ降りて行った。

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