その2 自宅の前でガチャを回す

 我が家。リフォームしたのは数年前だが、確かに我が家の玄関である。工事したてのころは違和感のあったそれもほぼ毎日見て、開閉していたのだ。間違えるはずはない。その前に立っていた。ただ、今はそんな日常を懐古したくなるほどに、状況をすんなりと受け入れられるような現状ではなかった。

 玄関ドアのちょうど真ん前に見たことのある物体が一台。四脚の台にはプラスチック製の透明な箱が乗っており、その一面の下部には片手に収まる回転式のレバーがある。箱の中にはテニスボールより一回り小さな、これまたプラスチック製の球体が四分の三を占めるほどに詰まっている。コインの投入口はないが、プラスチック球が転がって箱の中から出て来る取っ手口がある。

 通りたいなら回してからにしろと言わんばかりなそれに乗っかからない手はない。物は試し以外にはない。

 身を屈めて、ハンドルを回した。ごろりと出てきた球体。恐る恐ると手を伸ばしてつかんだ。両手にぎゅっと力を込めて球体の上半分とした半分を逆方向にねじった。パカリと開いた。中身に物はなかった。ただ内側を見て、短く半分不審気に一息になってから、身を上げると、もうお楽しみ箱はなくなっていた。我が家もなくなっていた。その代わりに見たこともない家があった。一件ではない。並んでいた、家々が。豪邸や屋敷やタワーマンションや城やレンガ造りや藁ぶき屋根や……。それらが旋回し出した。これを見続けていたら確実に目を回して酔ってしまう。ぎゅっと目を閉じると、寄る気配があった。目を開けると、女神がいた。二つになったカプセルの内側を女神に見せつけるように差し出した。女神はまるで文字を読んでいるような目の動きをしてから、激しく大爆笑をし出した。腹を抱えて涙目になるほどに。

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