第7話 紫との因縁

 ついにやってきた人間と紫の古代の吸血鬼の決着が。これで毒で殺される人々も、既にヴィオレットに殺されてしまった人も報われる。

 後ろにプリスとローズ、そして他の特攻隊の隊員たちを率いってマリーフォレストの中に突入する。隊員のみんなは全員一時的に毒ガスを無効化する薬を飲んでいる。これで相手の毒ガスは効かない。だが、戦闘能力も馬鹿にならないため油断はしてはいけない。

 情報部隊の情報によるとヴィオレットはこの先の小さな山小屋にいるという。情報を集めている際にヴィオレットに見つかってしまい、殺されてしまった隊員がいるのだそう。戦争で犠牲車が出るのは仕方がないことだが、ちゃんと弔わなくてはいけない。人の死を悲しまないといけない。仕方ないという事で割り切って悲しまないのは人として失格だ。殺されてしまった人たちのことを忘れずに、俺たちは平和を実現するために戦う。…ボスから何回も言われ続けていること。忘れないために何回も何回も復唱する、心のなかで。

 薄暗くて気味が悪い森を歩き続ける。もしかしたら俺たちが森に突入していることを知っていて強襲してくる可能性あるから、部隊全員に警戒しろと命令する。戦うことだけに集中しろ、生きて帰るためにも…と。

 廃墟のような山小屋にたどり着いた。すると中から独り言が聴こえる。ヴィオレットはこの中にいるのだろうか。

 「わ、私が見てきましょうか…?」

 「…見てくるなら最大級の警戒をしろ。開けた瞬間、襲いかかってくるかもしれないのだからな」

 と相手に聞こえないように小声で話す。プリスが山小屋に近づき、ドアを開けると…。

 「きゃあ!?」

 濃度が高すぎるほどの毒ガスが俺たちを襲った。やはり、気づいていたか。プリスはヴィオレットが攻撃してきたことを理解するとすぐさま後退した。山小屋に近い状態では首を噛まれる可能性がある。後退して正解だ。

 「特攻隊! 戦闘開始だ!」

 ーお〜!!!!ー

 山小屋から紫色の髪の毛をした、ザ・ヴァンパイアのような格好をした女性が出てきた。牙と爪が人間とは思えないくらい鋭い。目は赤く光っている。…全て吸血鬼の特徴と合致している(服装は除く)。間違いない、あいつが紫の古代の吸血鬼…ヴィオレットだ。

 部下が一切に配置につく。そこから特攻している。俺とローズもあとに続くように特攻する。ヴィオレットを囲み、360度から攻める。範囲攻撃を持っているかもしれないから少し円をずらして一斉にかかるようにしている。俺だけは真っ直ぐにヴィオレットの元へ向かう。

 「な…なんですか…。いきなり…強襲とは…」

 ヴィオレットはおどおどしている。だけどちゃんと部下の攻撃をかわしている辺り、戦闘能力はある。がむしゃらに特攻しているだけでは部下が死ぬだけだ。もちろん、作戦とかは既に考えてある。敵の目の前で作戦を練るやつはただの馬鹿だ。

 ヴィオレットは毒ガスを駆使して戦う。毒ガスが体内に回るのを阻止する薬なら飲んでいる。だけど効果は一時的。効果時間は3時間ということだ。つまり、3時間でヴィオレットを倒さなければならない。

 となると速攻でかたをつけなければいけない。時間をかけるわけにはいかない。どんな卑怯な手を使っててでも殺す。この森には毒ガスを浄化する植物が原生しているが、ヴィオレットが住んでいる山小屋周辺にはない。タイムリミットを迎えると即効性の毒を持つガスで殺される。

 ヴィオレットは戦闘能力の6割が毒ガスによる攻撃らしい。薬で無効化出来る時間ならそこまで驚異ではないが。しかし4割が爪や牙などの攻撃のため、ギリギリ俺でタイマン出来る実力と言えるだろう。

 「退いて…私に…勝てるわけないよ…。私…ガスが…主な攻撃手段だけど…無効化されても…身体能力の差は圧倒的…」

 ヴィオレットが悲しそうな表情を浮かべながら部下を攻撃している。負傷状態となった部下は即刻傷口を塞げと命令している。薬があるとは言え傷から毒が入ってしまえばその部分が毒に侵される可能性だってある。

 「鬱陶しい…ま、まだ…来るの…?」

 俺はヴィオレットとタイマンするつもりは一切ない。タイマンして負けるのはどうあがいても俺だ。だからこそ部下の力を遠慮苦なく借りる。俺とヴィオレットと戦っている間に円になっている部下が追撃を食らわせようとしている。

 「毒しか取り柄がないのか?毒以外の攻撃手段は普通の吸血鬼レベルだな」

 「ひぃいいい…」

 爪などで俺の武器である剣の斬撃を防いでいるが、どうもヴィオレットは接近戦が苦手なのか防ぐのに精一杯になっている。この作戦はだいぶ良い事が判明した。プリスが考えたこの作戦はヴィオレットにとってはやられたくない戦術らしい。

 だけど部下の追撃がほとんど当たっていない辺り、回避能力や逃亡能力はあるらしい。ヴィオレットは遠距離特化と暗殺特化の吸血鬼か。だからこそ、このような強襲と数の暴力による接近戦が苦手なのかもしれない。

 ヴィオレットに関する考察を終わらせて、戦いに集中する。足を徹底的に狙い、身動きがとれないようにする。体力をすべて使う勢いでこの場所に留める。相手が疲れて、部下の追撃が次々と当たるかもしれないからだ。

 「も、もう怒りました…!わ、私はちゃんとした…強い吸血鬼なんです…!」

 周囲の毒ガスが変化した。無臭のものではなく、温泉の匂いが辺りに漂った。硫化水素…だろうか。だが、硫化水素も薬によって無効化される…。

 「あ!マーダー様!今すぐ後退の指示を出してください!」

 プリスが何かを悟ったかのように焦った顔で俺に報告してきた。俺はその言葉を信じてすぐに後退の指示を出した。プリスを信用しているというのもあるが、何やらとても嫌な予感がしたからだ。逃げるように俺たちはヴィオレットのそばを離れた。

 「私のことを弱いって言うからです…!私は…強い子なんです…!私は!ちゃんとした吸血鬼なんです!」

 そうヴィオレットが言った瞬間。

 辺りが火傷するほどの熱風と失明しそうなくらい眩しい光に包まれた。

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Life Killing 岡山ユカ @suiren-calm

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