第5話 会議
革職人を殺したのがヴィオレットということが分かってボスに報告した。ボスはヴィオレットは人間を毛嫌いする個体のはずなのにどうして人間と手を組んでいるのかと疑問に思っていた。だけどそのような事より古代の吸血鬼たちの居場所を早く特定しなければいけない。裏切り者の詳細についても調べなくてはいけないが、まずは吸血鬼を殺さなくては人々が夜を恐れる必要性もなくなる。
「紫の…吸血鬼さん…居場所はどこでしょうか?」
「それが分かるというのなら苦労はしないっす」
そうだ、居場所を簡単に特定できるというのならこんなにも人は吸血鬼に殺されていないのだ。居場所がわからないからこそ、人々は殺され続けているのだ。前の時代よりかはマシにはなっているらしい。前の時代は古代の吸血鬼に加え下級の吸血鬼が世界を徘徊しているせいで小さな村はすぐに壊滅したという地獄のような光景だったらしい。所々、血を吸われた遺体が転がっているくらいだ。たしかに前の時代よりかはマシにはなっている。
前の時代の話は今はいい。紫の古代の吸血鬼の居場所について会議しないといけない。
「さて、会議を始めよう。まず、今回の革職人の殺人事件は紫が殺したという事が特攻隊トップのマーダーから報告されている」
ボスのアイボリーが会議を始めた。
「白骨化しているのは謎だが、色々と証拠と照らし合わせてみた結果、毒を操るヴィオレットが最有力候補としている」
「それについて少し一言よろしいでしょうか」
護衛隊のトップであるアクア・コバルトが発言した。
「報告書によると吸血鬼側に人間がついているという事が判明しています。不確定ではありますし、居場所と何も関係ありませんが、仮説を聞いてはくれないでしょうか」
「よろしい。許可する」
「吸血鬼は血さえ飲めば生きていける種族です。人肉を食べる時もありますが、血を大量に吸血するほうが効率がよく、人肉を食べるのは効率が悪いです。わざわざ剥ぎ取らないといけないですから」
いちいち人肉を食べるより、新しい獲物を探して吸血するほうが効率がいいと言っている。確かに人肉にも少しだけ血が含まれているがあまり血を摂取することが出来ない。お腹もいっぱいになるし、人肉をわざわざ食べるよりも…吸血鬼にとって最強の飲み物である血を複数人から吸う方が明らかに効率がいい。それなら自然に白骨化したと考えることが出来るかもしれないが、それはもう既に否定されている。
冬では白骨化するのに数ヶ月かかるというのは既に知られている。前日に見かけたはずの人が白骨死体になっている…それはありえない。だからこそ、アイボリーも変死体と表現した。ありえないことだから。意図的に白骨化させることもあるが、わざわざこのような手間をかける必要性があるのだろうか?撹乱するためだと言ってもそこまで撹乱していないし、そうするメリットがない。ただ人間に裏切り者がいるというだけで疑心暗鬼にさせるという目的がありそうと言えばありそうだが。そもそも根本的に…吸血鬼が意図的に白骨化させられるのだろうか?
意図的に白骨化させるには炭酸ナトリウム1%の水溶液につけて沸騰させないように煮込む必要性がある。そして吸血鬼には水に関連する弱点が一つある。それは流水が苦手であること。流水…いわゆる流れる水のことだ。遺体にこのような処置をした場合、水が跳ねるときもある。だから吸血鬼は水を毛嫌いしている習性が存在する。…水を嫌う吸血鬼が水を使用する処置をするのだろうか?
明らかにおかしい点ばかりだ。
「それでなぜ人間の一人が裏切り者だと思われているのは剥ぎ取った人肉を食べているからですよね」
「それはこの会議の前提知識だ。知らないと困る」
人間が人間の肉を食うという事実を再度認識された。もはや裏切り者が大罪人と言っても過言ではない事だと理解した。同族同士食べるなんて…許されることではない。裏切り者は裁かなくてはいけない罪人であることをみんなが認知し、裏切り者に対して怒りを覚えていた。裏切り者も特定し、殺害しなくてはいけないと思った。
だけどその話が古代の吸血鬼の話に何の関係があるというのだろうか。まぁ、アクアは同じ話を何回もするやつではない。
「そそれでそれがどうしたのだ?確かに人間が人肉を食うのは許されないことだ」
「酷い…です…」
「吸血鬼についている人間だというのを知ってからろくな人間ではないってことは知っていたっす」
「だがそれだけを言いたいわけではないのだろう?」
「それで、考えたのです。一つ古代の吸血鬼には関係のない話ですが、…もし紫が殺したというのなら人肉に毒が移ります。ヴィオレットの毒は人間を殺すほどの威力を持つ毒や毒ガスを操ります。人肉に毒があるものを普通は食べるのでしょうか?」
…つまり人肉を剥ぎ取っても食べることは出来ない…ということか。毒の入った肉など毒を浄化できない体では死んでしまう。毒の耐性がある体であるのなら問題はないが…。そうするには致死量にも満たないほどの毒の飲ませ続ける必要がある。ミトリダート法というらしい。でもいちいちそんな事をしてまで毒の耐性を身につける必要性があるのだろうか。ましてやあの吸血鬼が人間と一緒に暮らしているなんてありえない。
「毒を浄化する方法は肉を焼くこと。…だけどヴィオレットの周りにいると永遠と毒が浄化できません」
「…ということは…裏切り者はヴィオレットの配下ではない説ということか?」
「まぁ、そうですね。ということは裏切り者を対象にして追跡してみてもヴィオレットに到達することは出来ないかもしれません。裏切り者を制裁するのはもう少し後になるかもしれません」
…そういえば今回の本題、紫の所在地だった。明らかに話が脱線していて…脱線と言うより言いたいことを理解されるために必要な説明が長すぎたという方が正確ではあるか。
「裏切り者が特定の古代の吸血鬼に仕えていないと他の古代の吸血鬼と協力することは難しそうだな。人間は吸血鬼にとっては食料も当然。食べない理由なんてない。他の古代の吸血鬼との関係を保つために一体の古代の吸血鬼に仕えている人間を殺していないというわけか。殺してしまうと関係の悪化に繋がる」
たとえ吸血鬼とは言えど同種族の殺し合いは避けたいはずだ。だからこそ一人の裏切り者を殺せない。もし裏切り者が仕えている吸血鬼が黒の吸血鬼だった場合、それは三体の吸血鬼も安々と手を出すことなんて出来ない。黒の吸血鬼に全員殺されるかもしれないのだから。まぁ、そもそもなんで人間のことを食料としか見ていない吸血鬼が人間を匿っているのかという疑問が残るが。
「そうですね…。そもそもヴィオレットは孤独を好む吸血鬼。孤独を重んじる吸血鬼のはずなのに配下を雇うのはあまり考えられないと思われます」
「情報部隊の僕から言うとその情報は合っていると思われるよ。特攻隊のマーダーも同じ意見だよね?」
「そうだな。ヴィオレットとは戦ったことはないがやつは孤独を好むと文献に書いてあった」
古代の吸血鬼たちの特徴はこの王国の地下にある資料室がある。資料室には過去のヴァンパイア・ハンターズの人たちが残した情報を保管している。だから、戦闘したことがなくても特徴などは資料室にある。情報は大事ということは吸血鬼に同胞を殺され続けている世界ではもはや常識と言っていい。
「さて、居場所を特定するにはどうするべきか…」
「ヴィオレットの…周辺は毒ガスが…発生するのですよね?」
「そうだが?」
「それなら毒ガスが発生している場所を…探せばいいのではないでしょうか…?」
「それで特定できるなら簡単だけどね。殆どの国に相談してみても周辺に毒で侵されている場所はないんだ」
「基本的に吸血鬼は森などの日光があまり当たらない場所に暮らす。地下や暗い森などが一番の例だが…」
暗い森ならこの周辺にごまんとある。一つ一つ調査しようとしても、吸血鬼は出てこないだろう。居場所を特定されることが一番吸血鬼にとって嫌なことだから。
「…それなら…」
「ん?」
「毒を浄化する植物が…ある森なら…いるのではないのでしょうか…?」
「そんな植物があるのか?」
そんなことは聞いたことがないが…。
「空気中の有害物質を取り除く植物…例をあげると…シダやシュロ…アイビーなどの…植物です…」
それらが大量にある森に紫がいる…ヴィオレットが…いるかもしれないということか。彼女は真剣な顔をしているが、緊張感に溢れている顔もしている。立場が偉い人が集まっている会議だからかなり緊張しているのだろう。ローズは何も気にしていないが…。
その情報を聞いてアイボリーが周辺の情報が入っている文献を開いてそれらの植物が原生している森を探した。そして…。
「調べた。そしてこれらの植物が原生している森が一つだけ存在した。ここから北西にあるマリーフォレストだ」
「それならその森を徹底的に調べるよ。僕達、情報部隊がね」
情報部隊は情報を集めるのが仕事。そしてその情報を後世に残すために文献を作成するのも仕事だ。吸血鬼のとの戦いは今の時代で終わらせるべきなのだが、そんな都合のいいことは存在しない。出来るだけ今の時代で終わらせるように努力はする。だが、後世に託す可能性が高いため人任せではないが後継者に吸血鬼を任せることになる。
…それほどまでに吸血鬼との戦いは長く、終わらせなくてはいけない戦争なのだ。
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