第3話 不穏

 一部人間が吸血鬼に味方しているかもしれないという情報は組織内に駆け回った。デマかもしれないけど、信憑性がある話だから組織内をざわつかせる規模となった。もし一部の人間が吸血鬼の味方をしているというのなら俺たちの殺害対象となる。共食いにも程がある。きっと許されない。

 俺たちはそんな状況下、組織のトップであるアイボリー・ホワイトに会う事にした。アイボリーは大きな書斎にいて、書類とか色々処理している。ときには前線にたち、吸血鬼と対峙している。

 書斎に続く長くて広い廊下を進む。レッドカーペットの上を進んで、青い花が入った花瓶と花瓶を支えている緑色の柱が続く廊下を進んでいる。これは光の三原色に基づいている。ロートというのも赤色という意味であり、幹部たちの異名は三原色の名前になっている。

 「アイボリー様。特攻隊隊長のマーダーです。入ってもよろしいでしょうか」

 部下二人が後ろにいる。ローズが小声でプリスに失礼のないようにと言い聞かせている。そりゃあヴァンパイア・ハンターズのボス…いわばトップに会うというわけだから失礼があったら何されるかわからない。

 「入って良い」

 大きな扉を開けて白髪が見えた。厳粛な格好している男性がいる。白髪で長髪だから女性だと思われるのもしばしばある。俺だって最初は女性だと思った。だけど男性らしく、多くの人がショックを受けたらしい。俺としてはどうでもいいが。

 今回はアイボリーに呼ばれて、書斎に来た。おそらく組織内で噂になっている吸血鬼に味方をしている人間がいるかもしれないという事だろう。噂の発生源が俺らであることを突き止めたアイボリーは詳細を聞くため、俺達と会話したいのであろう。

 「アイボリー様、ご要件というのは?」

 「組織内で噂になっている人間のことについてだ。根拠があり、そうでもしなくてはあの変死体に説明がつかないから信憑性が高いというのは理解できる」

 それを理解しているならその可能性を検討してほしいのだが…。いやもしかして別のことについて聞きたいのか。噂の別のことをを聞きたいのか。

 「こちらで少しだけ調べてみた。情報隊とも協力して調査してみたところ、過去にもここ周辺に変死体があることが分かった」

 「そうなのですか?」

 過去にも変死体があった。同じような変死体なのであれば同一犯と見てもいいのかもしれない。同一の吸血鬼が人間を殺したのではなく、同一の人間と吸血鬼がその人達を殺したということ。

 「町や村にそういう変死体があったと偵察隊から報告があった。しかもどれも白骨化した死体なのだという」

 …今回の変死体と同じ。…ということは過去にも存在した吸血鬼か。

 「吸血鬼は寿命が長い代わりに繁殖能力が乏しい。ほとんどの下級吸血鬼くらいならほぼ殲滅してある」

 「それなら…吸血鬼の仕業ではないのでは…?」

 プリスが発言した。しかし違う。吸血鬼はまだ殲滅できていない。まだ大物が残っているのだ。

 「いいや、大物が残っている。四体の古代の吸血鬼が」

 ・毒を操ることが出来る紫色の吸血鬼、ヴィオレット

 ・電気を操ることが出来る黄色の吸血鬼、ゲルプ

 ・氷を操る事が出来る水色の吸血鬼、ヘルブラオ

 「そして、吸血鬼の女王と言われている、災厄を操る最凶最悪の吸血鬼、黒色の吸血鬼、シュヴァルツ。これらがまだ討伐できていない古代の吸血鬼だ」

 未だにどこにいるかは不明である下級吸血鬼では考えられないほどのパワーを持つ吸血鬼。寿命がとんでもなく長く、現代でも生きている長寿な個体であり、人間にとっての最大の脅威だ。

 吸血鬼の中で特殊能力を持ち、紫は毒操作、黄色は電気操作、水色は氷操作、黒色は災厄操作というものだ。…人類が平和に暮らすためにはこの四体の排除が前提条件である。この四体がいなくなれば人類が食われる心配もなくなる。流水の聖域に人骨が埋められ、吸血鬼に殺された者たちもきっと報われることだろう。

 「あ、す、すいません…」

 「大丈夫だ。…とりあえず下級吸血鬼が人間を手に入れているというのもあるが、もしかしたら古代の吸血鬼が人間を手に入れているのかもしれない」

 その場合、とんでもなく厄介になる。生き血にを吸うことで強化される吸血鬼の特性上、さらに古代の吸血鬼が強くなる可能性がある。強くなり続けたら今度こそ人間の手に負えないかもしれない。だから早急に古代の吸血鬼を見つけ次第、殺害しなくてはいけない。

 「今回の犯行はどの古代の吸血鬼かは分かっていない。現場だけではなく革職人の家に入れるよう許可をもらった。その家に行くと良い」

 「…そういうことだ。行くぞ、二人共」

 「了解っす!」

 「は、はいぃ…」

 後ろに二人がついてきている。今回はどの吸血鬼が殺したのか。…またしてもこれが議題となる。

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