第2話 事件現場の調査

 例の革職人の白骨死体があった路地裏に向かった。連れはプリスとローズの二人だ。もう今は特攻隊の調査担当の人員が調査を開始しているはずだ。幹部ではあるので俺も事件現場へ急ぐ。

 特攻隊にもそれぞれ担当というものがある。全員の共通担当が吸血鬼と戦闘。そして副担当というものが存在して、俺は調査担当に入っている。他には医療担当、武器担当というものが存在する。特攻隊にも副担当というものがなければ普通に暇になってしまう。ローズは俺と同じ調査担当であるから同行をお願いした。プリスは副担当はどれらになるかは不明だが、体験ということで連れてきた。

 「ひ…ひぃ…は、白骨死体…」

 路地裏について白骨死体が目についた。普通、白骨死体だけでは身元の特定は出来ない。しかし、犠牲者を照らし合わせればある程度身元の予測はつく。…白骨死体の首元を見た。首元に牙のあとがある。これは吸血鬼の牙で首の骨にあとをつける。血を一滴も残らず吸うために。

 「マーダー様。この人は吸血鬼によって命を奪われた事で合っているっすか?」

 「あぁ、合っている。…だからこれから調査を始めるぞ」

 「了解っす!」

 ローズが敬礼をした。プリスもキョロキョロしながらローズに便乗するかのように敬礼する。

 さてまずは現場周辺を調査するところから始めなくては。今現在は昼だが、吸血鬼は日光にさえ当たらなければ活動することが出来る。まぁ、でも路地裏に来るには日光が当たる場所を通らなければいけないので吸血鬼による襲撃はないと思われるが。万が一のため銀の弾丸が仕込まれている拳銃を二丁持っている。新人がいるために彼女たちを死なせるわけにはいかない。

 「死亡推定時刻が測定できないよな…白骨死体だから」

 「そうっすね。死亡推定時刻は腐敗の進捗から計算するものっすから」

 「でも…吸血鬼による襲撃なら…おそらく…夜…じゃないですか?」

 夜と言っても範囲が広すぎる。今の時期は冬、かなり早い時間で太陽が沈む季節だ。17時〜6時までが暗い時間帯で吸血鬼が活動できる。時間帯の範囲が広くて、いつ殺されたのか分からない。

 「別の証拠で死亡推定時刻を推測できないか?」

 「ん〜」

 死体を見てみると隠していたかのように時計があった。時計の針は止まっていて、12時43分に止まっていた。

 「これが死亡推定時刻なんっすかね?」

 「分からない、ただ単純に壊れたかもしれないし、吸血鬼の襲撃によって壊されたかもしれない。死亡推定時刻と関係あるという証拠さえあれば…。そもそもこれが午前0時43分のことか午後12時43分の事か確証が持てない」

 「え?…夜じゃないんですか?」

 普通に考えたらこの時計は午前0時43分の事を指していると思うだろう。だけど証拠もなしに決めつけるわけにはいかない。

 「…吸血鬼って…人肉も食べるんですか…?」

 プリスが言った。

 「…食べられなくはないが…基本的に生き血を吸わなければいけない種族だからな」

 「つまり…人肉を…食べる意味はないということですよね…?それなら…なんで白骨死体…なんですか?」

 「…確かにっす。生き血を吸うだけならわざわざ人肉を食う意味なんてないっす」

 …そうだ。プリスの言うことには一理ある。生き血を吸うことで生存したり、肉体を強化することが出来る吸血鬼。人肉には多少血が含まれているとは言え吸えばほとんどないのも当然なのにどうして白骨にしてまだ人肉をえぐり取ったんだ?

 「白骨化したというのはどうっすか?」

 「いいや、冬では白骨化するのに時間がかかる。数ヶ月以上かかるのだから白骨化したというのはありえない。この革職人は殺される前日まで生きていることが判明している。…つまり自然に白骨化したというのはありえない」

 「そうっすか…ということは吸血鬼はわざわざ人肉をえぐり取ったと…?何のためにっすか?」

 吸血鬼が人肉を食べるメリットは存在しない…。血さえ吸えば良いのだから効率的にも血を大量にすばやく吸えば問題ないのだから人肉までもえぐり取る意味はない。…可能性としては…。

 「身元を知られたくなかったからか?でもそれだと照らし合わせれば速攻で判明する事なのだが…それに気づかない馬鹿ではないと思われる」

 「そもそもなんで革職人さんは夜に路地裏をほっつき歩いていたっすか?」

 …理由はまだ判明していない。そもそも鐘つき聖堂の家に戻れという警告が鳴っているのにも関わらず、なんでこんな路地裏にいたんだ?こんなの吸血鬼の格好の的だろう。それなのにここにいた…それはなんでなんだ?

 「…吸血鬼に引きずり出されたのか?…でも確か…」

 「そうっすよ!吸血鬼は家の持ち主の許可がなければ入れないはずっす!王国には出入り出来るっすが…家は入ることが出来ないはずっすよ!」

 吸血鬼にはそういう特性がある。だから夜になる前に家に戻れという鐘が鳴っている。市民は吸血鬼の殺し方は知らないが、存在自体は知っている。存在自体を知っているということは恐ろしさも知っている。だから基本的に夜を歩くのは偵察隊のはずだ。…理由を探るのも課題だな。

 「…あの…一つ思いついたのですが…」

 「なんだ?」

 「…これ…」

 ー一部の人間が吸血鬼の味方をしているのでは…ー

 …その発言がこの場にいる者たちを凍らせた。恐ろしい発言ではあったが、もしそれなら辻褄が合いすぎる。人肉をえぐるのはその味方している人間の食料にするため。路地裏に居たのはその人間に引きずり出され、殺されたから。その不審な状況に説明をつかせるにはそれしかない。信じたくないけれど、警戒するのはありだと思った。

 「…なるほど、そうか」

 「あ、あの…失礼な…発言だったでしょうか…」

 「いいや、大丈夫だ。…それはありえるかもしれない。人間は太陽のしたでも生きていけるが肉を食べなければ死ぬ。…ボスに報告しなければいけない」

 冷汗を部下の二人に見せないように背後を向き、連絡を取る機械を使って報告する。人間が吸血鬼の味方をしているなど決してしてはいけない大罪なのだ。

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